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第三章 最悪な休日

第八話 さいあく

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 警戒する最後の一人をどうしようか考えていると、奴が手を前に出す。上向きにしたその手のひらに、小さな円形の光の枠が浮かび上がった。
 あれは魔法陣か? いや違う。その円形の枠には魔法陣のような幾何学模様や呪文は刻まれておらず、代わりに戦闘機などのレーダーのような光の点滅があった。

「『周囲に身を潜ませる敵対者を探し出せ、『サーチ』』」

 探知魔法か。奴を中心にしたレーダーの中に、一つの光点が浮かび上がる。

「そこか!」

 奴が走り出してくる。ちっ。仕方ない。直接仕留めるか。
 足に魔力を込めて、隠れていたそこから飛び出す。高速で奴へと迫り、手にした魔力剣で拳銃を持つ腕を狙う。

「グッ……⁉」

 だが奴はとっさに拳銃に魔力を込めて、魔力剣の一撃を受け止めた。

「はっ! 反射神経はいいらしいな」
「……ッ」

 思わずニヤリとすると、奴は目を鋭くさせながら。

「まさか一人か⁉ どうしてここが分かった⁉ 学生のようだが……」
「答える義務も義理もないな」

 魔力剣の魔力量を増加させる。魔力の量は強さにつながる。さっきよりも強度を増した魔力剣で拳銃を切断すると、そのまま奴の身体を斬り裂いた。

「グブ……ッ⁉」

 噴水のような血を流しながら、最後の一人が地面へと落ちていった。
 討伐完了。


 少しの時間が経過して。
 気絶している四人の強盗犯の拘束と、一応の止血を済ませたあと、倉庫内の物陰に声を掛ける。

「出てこいよ、サフィ。どうせまたストーキングしてんだろ」
「…………」

 そこからサフィが姿を現す。なんとも形容のし難い複雑な表情を浮かべながら。

「……災難だったわね」
「おまえとトパが家に来た時からな」
「……殺したの?」
「はっ」

 ニヤリとする。

「そうしたほうが良かったか?」
「……いいえ」

 首を横に振るサフィに。

「安心しろ。警察に追いかけられるのは面倒だからな、殺してはねえよ、一応な」
「……手を切断して、足を潰して、失明させて、身体を斬り裂いた……躊躇はしなかったの? 相手は人だから、って」
「はっ。こいつらだって何人も殺そうとしてんだ。なんでお情けをかける必要がある?」

 お決まりのセリフを吐く。

「他人を殺せるのは殺される覚悟のある奴だけだ」
「…………」

 サフィは真面目に見つめてきながら。

「……一応、言い訳をするけど、わたしがここに来たのはついさっきよ。あなたが四人目を斬り裂いた時」
「だからなんだ?」
「……リーグ君から話は聞いたけど……どうしてリーグ君を助けたの? 他人を助けるのを面倒くさがるあなたが」
「見捨てたほうが良かったか?」
「…………」
「はっ。ただの気まぐれだ。しいて言えば、突っ込んできた車を避ける時に、ラルドがそこにいて邪魔だったから、ついでに首根っこを掴んで動かしただけだ」
「……そう……。殺されそうだった人達の怪我を治したのは?」
「それは俺じゃねえ」
「え?」

 サフィが困惑した顔になる。てっきり、それもそうだと思っていたのだろう。

「だが、心当たりならある。あのコンビニの女店員が、一瞬だけ魔力を使った時が二回あった。たぶん、治したのは奴だ」
「女の子の店員……? あ……⁉」

 何かを思い当たったのか、サフィが口を開ける。
 だが奴が何かを言う前に、足元に転移の魔法陣を展開して。

「俺は帰る。こいつらの通報はおまえがしとけ。まったく、最悪な休日だった」
「待って、あのコンビニの女の子はね……」
「どうでもいい」

 そう言い残して、再び家の付近へと転移していった。
 ……ちっ。いま思い出したが、サフィ共が部屋に仕掛けたカメラと盗聴器をぶっ壊さねえとな。
 まったく、面倒くせえな。

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