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第三章 最悪な休日

第六話 ぼたぼた

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「テメエ! ブッ殺してやる!」
「や、やめてくれっ!」

 警察を呼ばれた怒りが頂点に達したのだろう、恐怖に顔をひきつらせる店長の懇願を無視して、強盗はその首に突き付けた拳銃の引き金を引いた。

『…………っ⁉』

 再度の悲鳴、嗚咽、絶句、恐怖、驚愕。その場にいた奴らが各々の反応を発露させていく。ラルドもまた、

「……っ!」

 と衝撃的なシーンから顔を背けて口を押さえていた。
 ボタボタと血が流れ、動かなくなった店長の首が床へと落ちていく。それと同時に、ガラス窓の外に到着したらしい何台ものパトカーの一つから拡声器の声が響き渡った。

『強盗犯に告げる。この店は既に包囲されている。逃げ場はどこにもない。諦めて投降しろ』
「……チッ」

 舌打ちをした強盗犯の一人が、自分達が乗り込んできた車の運転席に手で何かしらの合図を送る。すると車が急バックしてパトカーへと向かっていく。

「車で逃げるつもりだぞ! 逃がすな! 撃て!」
「タイヤだ! タイヤを狙え!」

 口々に叫ぶ警官達。連中が車に注意を引き寄せられている間に、強盗の一人がレジへと入り、カウンターの下をまさぐる。コンビニの入口とガラス窓の上からシャッターが降りてきた。

「おいシャッターが降りてるぞ!」
「何⁉」

 気付いた何人かの警官が急いで駆け寄ってくるが、間に合わない。連中を拒むシャッターがガコンッと完全に降ろされる。

「おい早く開けろ!」
「まだ中に怪我人がいるかもしれない!」

 外でそんな声が聞こえてくるが、強盗達は金の詰まったバッグを持ち上げると。

「金庫はどっちだ?」
「こっちだ。警察が入ってくる前に早く片付けよう」
「あいつも捕まってなけりゃいいが」
「大丈夫だろう。奴はそんなヘマはしない。俺達もだ」
「ああ、そうだな」

 恐怖におののいている客達と店員を放置して、事務室のほうへと消えていく。十数秒後、そちらのほうから魔法陣の光が溢れて、強盗共の気配が消えてなくなった。

「いまのって……魔法ですよね……?」

 ラルドがつぶやく。
 おそらく転移魔法だな。金庫も一緒に消えていることだろう。
 邪魔な奴は即座に消し、速やかに目的を遂げる。スピーディーな犯行だ。
 ラルドに声を掛ける。

「ラルド、おまえ回復魔法は使えるか?」
「え……授業で習った初歩的なものなら……」
「だったら怪我した奴の治療でもしてるんだな。もしかしたらまだ間に合うかもしれない」

 まあ、死んだとしてもどうでもいいがな。

「う、うん、そうだね……っ!」

 そう答えて、ラルドはいまなお震えている客達のほうへと小走りで向かっていく。
 さて……事務室に向かうか。
 ラルドと客達に背を向けて事務室へと入る。金庫があったと思われる場所はすぐに分かった。そこだけポッカリと隙間が空いていたからだ。
 店内のほうからは、凄惨な現場を目にしたラルドが息を飲む気配がした。

「……ひどい……とにかく僕に出来ることを……」

 とも聞こえてくる。
 それはともかく、金庫があった場所の近くの床に手をつき、手のひらに小さな魔法陣を展開させる。

「解析魔法……『アナライズ』。奴らが転移した場所を逆探知しろ」

 手のそばにデータが流れていくメッセージウインドウが標示され……解析完了。
 立ち上がり、足元に別の魔法陣を展開させる。転移の魔法陣だ。

「奴らを追う。運べ、『ポーテーション』」

 その場から転移していく直前、

「……あれ……? 怪我がない……? こんなに血が流れてるのに……? 息もある……」

 不思議がるラルドの声が聞こえてきた。

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