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第二章 ゾディアックにまつわる面倒な連中
第十三話 けつまつ
しおりを挟むモードの頬に冷や汗が流れていく。
「……これで勝ったつもりか? 俺はまだ……」
「おっと、動かないほうがいい。さすがに人間を殺すつもりはないが、下手に動かれると手元が狂うかもしれないからな」
「……ッ」
ほんの少しだけ魔力剣に力を込めて、奴の首筋の皮膚から一筋の血をこぼれさせる。
「それとも、死なない程度に痛めつけたほうが良かったか? 死なない限りは先公達の回復魔法で治せるからな」
それはすなわち、暗に生き地獄を味わわせることを示唆する。肉体的な苦痛だけではなく、それに伴う精神的なダメージも含めて。
たとえその後、身体を回復させたとしても、あとあとまで尾を引くような精神的苦痛を。
「俺は別にどっちでもいいぜ、モード。俺は痛くないからな」
「…………ク……ッ……」
素直に敗北を認めるか、それとも一縷の勝機に懸けて動くか。奴の中ではその二択がせめぎあっているようだったが、一瞬の間のあと、もう一滴の冷や汗を流しながら。
「……参った……俺の負けだ……」
声を振り絞るようにして、奴が言う。と、その時、背後にある訓練施設の入口のほうからサフィの声が響いてきた。
「そこまで! 勝負はついたわ! レイン=カラー、武器を収めなさい!」
「……チッ」
邪魔すんなと言わんばかりに舌打ちをして、魔力剣を消しながらサフィへと振り返る。
「わざわざ大声出すな、やかましい。言われなくても、こいつが負けを認めた以上、追い討ちをかけるつもりはねえよ」
「それが心配だから見張ってたんじゃない。あなたはやりすぎる時があるから」
「……チッ」
てめえは保護者かよ。
まあそれはともかく。モードへと振り向いて、釘を刺すように言う。
「つーわけで、俺の勝ちだ、モード。約束通り、二度と面倒くせえことしてくんじゃねえぞ」
「……ああ……分かってるさ……俺も男だ、二言はない……」
突きつけられていた魔力剣の脅威が去ったからだろう、モードはどっと緊張が解けたように、疲れた雰囲気を漂わせていた。
「…………」
と思っていたら、奴は目だけを鋭くさせて見てきた。
「あ? なんだよ? まさか実は三回勝負だったとか言うつもりじゃ……」
「よし決めた。俺が推薦してやるから、ゾディアックに入れよ、レイン!」
「は?」
いきなり何を言い出しやがったこいつ⁉
「まさかこの俺がマジで負けを認めざるを得ないとは思わなかった。間違いなく、おまえはゾディアックに入るべき器だぜ!」
奴は両手で両肩を掴んでくると。
「ちょうどいいことに、いま『蛇使い座 (オフィウクス)』が空いてるからよ。そこに入れよ! 『水瓶座 (アクエリア)』はルーブが入っちまうしな」
「はあ⁉ ふざけんなっ⁉ 何のためにてめーと勝負したと思ってんだ⁉」
「はあ? だからもうこんな回りくどいことすんなってこったろ? しねーよ、おまえの器ははっきり分かったからな!」
「だからふざけてんじゃねえ! ゾディアックなんつー面倒くせえもんに入りたくねーからに決まってんだろ!」
「なん……だと……⁉」
マジで予想外だという顔。
くそがっ! 奴の手を無理矢理振りほどいて、足に魔力を込めて一瞬でその場から逃げ去る。
「あ⁉ どこに消えやがったレイン=カラー⁉」
周囲に首を巡らせるモードの声。
訓練施設から外へと逃げ去る刹那、入口に佇んでいるサフィがおかしそうな笑みを浮かべていた。
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