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第二部 炎魔の座

第百十七話 倒すためにやってきた

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 サラが言ってくる。



「しかしシャイナどの、戦う前に言わせてください。これは罠という可能性も……」

「それはない」



 それだけは断言できた。



「グレンの力は強大だ。炎魔の力を手に入れる前から、俺がほとんど太刀打ちできないほどに。そんな奴が罠を張る必要はない」

「しかし、それなら何故奴はわざわざ……」

「…………、奴が俺を絶対に屠るべき敵だと判断したからだ」

「…………っ⁉」



 あらゆる魔存在を倒し、その力を奪う。最初に選んだのは俺が契約している光魔。そして俺と戦うために時間的猶予を設けた。それらすべてを、わざわざ俺達に、俺に聞こえるように伝えてきた。

 すべては俺を誘い出すため。神殺しの魔法、『ミストルテイン』を持つ俺を、俺の息の根を今度こそ完全に絶つために。

 仮に俺が現れなかったとしても、そのときは有言実行、言葉通りに光魔を倒せばいい。そうすれば、俺は契約相手を失い、ミストルテインはおろか光魔法を、力のほとんどすべてを失うことになる。

 そうなれば、俺はもう奴の脅威ではなくなる。

 俺は曇り空へと右手を掲げる。その手のひらに光の魔法陣を展開させて、グレンと同じように天上を衝くような光を放った。

 発生した突風のような衝撃に、みんながそれぞれの反応をする。手や腕で顔を防ぐ者、少しだけ驚く顔をする者……そのなかで、フリートとヨナだけはまっすぐに前方を見据えていた。グレンのいる紅蓮の魔力が立ち上る先を。

 いまの光魔法は俺からの合図だ。俺がここに来たという合図。おまえを倒すためにやってきたという宣戦布告。

 光魔法の衝撃によって、俺達の上空の雲が吹き飛ばされて、一時的に晴れ渡る。その先に顔を覗かせたのは紅みがかった空と巨大な蒼い円形だった。果たしてそれはここの、魔界の太陽なのか月なのか、あるいはまったく別のナニカなのか。俺には分からない。

 そして。俺の放った光に呼応するように、視界の先、紅蓮の魔力のほうから凄まじい衝撃音と漆黒の……あれは以前見たことがある、漆黒の炎、魔界の炎だ。



「エイラ!」

「ヨナ」



 俺とフリートが同時に叫び、



「『ライフサンクチュアリ』っ!」

「……『シャドウバリア』……」



 二人がそれぞれの魔法を俺達の周囲に展開する。ドーム状に取り囲む淡い光と影。ヨナの影で炎を防ぎ、防ぎきれない強力な熱による火傷をエイラの範囲回復魔法が即座に治癒していく。



「……確かに強い……私だけでは防ぎきれませんね……」



 ヨナが言うと同時に、ライースとザイが声を上げた。



「なら俺の出番だな。炎には水だ、『アクアウォール』!」

「土だって炎を消せるんだぜ、『クレイレイン』!」



 炎と俺達の間に水の壁が出現し、紅い空から土の雨が降り注いでいく。それらによって炎の勢いは和らいでいったが、それでもまだ完全には消えていない。

 しぶとく燻っている残火へと俺とフリートとサラが片手をかざした。



「『ライトニングブラスト』!」

「ふん」

「はあっ!」



 水の壁の前に、俺が魔法陣を展開して光の衝撃波を、フリートが巨大な魔力塊を、サラが巨大な魔力の矢を、それぞれ撃ち出していく。俺達の反撃によって燻っていた残火は跡形もなく吹き飛び、さらにその先にいるであろうグレンへと飛んでいく。

 が、それらはまったく同時に、一瞬にして、立ち上った火柱とともに消し飛ばされていく。グレンがその魔剣によって斬り払ったのだ。



「この争奪戦で生き残った者達が勢揃いしたというわけか」



 黒く燃え上がる火柱を通り抜けて、グレンがその姿を見せる。右手に純黒の剣、左手に漆黒の魔界の炎、その身からは立ち上る紅蓮の魔力。奴から放たれる圧倒的な威圧感は、まさに先代の炎魔と同等、いやそれ以上だった。



「新たな炎魔となった俺に、お前達が勝てると思っているのか? 炎魔源の力に溺れて自己の研鑽を怠っていた先代の炎魔を、俺は既に超えている。お前達には欠片も勝ち目はない」

「……っ!」



 俺を含めて、みんなが身構える。奴の言うことはまさにその通りであり、充分に理解している。だが……。



「それでも、俺達はここに立っている。それが答えだ!」



 俺の返答に、グレンが目を眇めた。



「なるほどな。差し詰め、魔王に立ち向かう勇者一行といったところか。クハハッ、いいだろう、確かに近い未来に魔王になる俺から、お前達に割の良い条件を出してやろう」

「……どういうことだ?」



 訝しむ俺達に、奴は言ってきた。



「俺の側につけ、お前ら。そうすれば、いまいる魔存在共の後任として、この魔界の一部をそれぞれ統治させてやろう」

「……っ⁉」



 フリートとヨナとトリンの三人以外の俺達に、衝撃と動揺が走る。奴はなおも続けた。



「無論、俺が手に入れた魔存在共の力も部分的だが分けてやろう。どうだ、悪い話ではないだろう。絶対に勝つ俺についてくるだけで、お前らは強大な力と魔界の一部を手に出来るのだ。だが、そこにいる光の神格継承候補者だけは別だがな」

「……っ」



 俺はグレンに言った。



「おまえ……本気か? 本気でそんな世迷い言を……」

「クハハッ、本気だとも。そしてお前に決める権利はない。選ぶのはお前と共にいるそいつら……」



 そのとき、グレンの周囲にいくつもの小さな魔法陣が浮かび上がり、そこから幾本もの鎖が伸びて奴の身体を締め上げた。



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