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第二部 炎魔の座

第百十二話 行き先

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 まるで霧や霞のような大量の水蒸気が再び洞窟へと集約されていく。その後は水蒸気が洞窟の外へと漏れてくることはなく、数秒の時間が過ぎたとき、ライースが洞窟の入口から姿を見せた。

 くい、とライースが親指で洞窟内を示しながら言う。



「終わったぜ。炎魔の炎は消した。……あんな状態で生きているとは思えないがな」



 その言葉は焼かれていたフリートのことを言っているのだろう。真っ先にヨナと、彼女のそばにひっついていたトリンが洞窟内へと入っていく。

 俺達も続いて入っていき、見るも無残なフリート……だったものを見つけてしまう。辛うじて人としての原型は保っているものの、その身体は完全な黒焦げになっていた。一見してフリートには見えないし、フリートだと言われても気付けないほどに。

 まるで、以前相対した炎魔の召し使いのクロを彷彿とさせる姿へと変わり果てていた。炎魔の召し使いは生み出した奴が違う、もしかしたらアカとアオは炎色を示しているが、クロはものが焼けたこの状態を表しているのかもしれない。

 傲慢だった先代の炎魔なら、そんな皮肉をやりそうだな……俺がそう思ったとき、黒焦げのフリートの前で膝を折って屈み込んだヨナがエイラへと振り返る。



「……まだ息をしています、虫の息ですが……エイラさま、治療をお願いします……」

「は、はい……っ」



 息をしている……⁉ フリートはまだ生きているのか……⁉ こんな黒焦げの状態で……⁉

 思わず俺は、いや俺だけではなくウィズやライースも目を開いて驚いていた。そして俺は気付く。かなり薄く弱まっていて見えにくかったが、フリートの身体の周囲にか細い魔力のオーラがまとわれていた。

 フリートの奴……おそらく炎に直接焼かれないようにするために、いままでずっと魔力をまとっていたらしい。いまこの状態で意識があるとは思えないから、おそらくは無意識のうちに。

 だが炎魔の炎は強すぎて、まとった魔力越しに高熱で焼いていた……ということか。あと少し消火が遅れていれば、フリートは死んでいただろう。

 エイラが手をかざして治療している最中、ヨナはずっとそばから離れないトリンに言った。



「……トリン、フリート様の衣服を作ってください……フリート様自身は気にしないでしょうが、ここには女性が多くいますから……」

「…………」



 黙ったままトリンは小さくうなずき、フリートへと手をかざす。フリートの身体の下に小さな魔法陣が出現し、フリートの身体にエイラの治療とは別の光がまとわれていく。

 トリンの契約魔法は縛魔法、糸や鎖などを作る魔法だ。つまりその糸を編んで、即席の衣服を作ることもできるということなのだろう。

 まずフリートの下半身にズボンができあがっていく。いまは黒焦げでなにがなんだか分からなかったが……まあトリンは空気を読んだということだ。

 続いてフリートの上半身へと、かざしているトリンの手が向いたとき、ヨナがエイラに聞いた。



「……エイラさま、いますぐ上着を作っても大丈夫ですか……? ……治療に差し支えるようなら、後に回しますが……」

「わたしなら、服を着てても治せますけど……火傷が見えなくなるから、時間は少し掛かるようになると思います……」

「……なるほど、分かりました……」



 回復魔法は怪我や病気の状態が分かっていたほうが治しやすいということだろう。

 ヨナも回復魔法を使えるから分かっているはずだが、一応念のために聞いたということか。あるいは、エイラに聞くという形で、間接的にトリンに伝えた感じかもしれない。

 ヨナがトリンに言う。



「……トリン、上着の前ボタンを開けた状態で作ってください……それなら火傷は見えますから……」

「…………」



 トリンがまた小さくうなずき、フリートの上半身にいつもの白ワイシャツができあがっていく。……もしかして、いつも着ているあの服もトリンが作ってたりするのだろうか……?

 ちなみに、トリンに指示を出し終えたあとはヨナもフリートの治療に加わっていた。それらエイラとヨナの治療やトリンの衣服作成を見て、ライースがヒューと口笛を吹く。



「おお凄え、可愛いだけじゃなかったんだな」



 チャラそうなその口振りに、しかし三人は完全に無視して自分のやるべきことに集中していた。トリンは衣服を作り終えていたが、ヨナのそばから離れずに治療の様子を見守っていた。ライースは肩をすくめると、今度は俺に言ってくる。



「んで? これでグレンの追跡はひとまず撒けたかもだが……」

「いや、まだだ。このままここに居続けるのは危ない。移動したほうがいい。……ヨナ」



 俺が呼び掛けると、ヨナは振り向いてうなずいた。俺達に言ってくる。



「……転移しましょう。行き先は……」



 そこでウィズが口を挟んだ。



「それなら帝城に向かおう。先程の会議室だ」



 その提案に、思わず俺はウィズに言っていた。



「だがウィズ、それはちょっと憚られるんじゃないか。俺達の問題に、帝国を巻き込んじまうかも……」

「何、もう既に巻き込まれているさ。グレンは帝国に捕らえているザイを殺すと言ってきた。それはすなわち帝国を襲撃するということだ。そもそもザイ自身が襲撃してきたしな、いまさらだ」

「…………」



 ウィズの提案に、ヨナはうなずく。あえて反対する理由もなかったからだろう。



「……分かりました……では私の周りに集まってください……」



 俺達はヨナの周りに集まり、そして全員で帝国の城……もうすっかりお馴染みになっているあの会議室へと転移していった。



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