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第二部 炎魔の座

第百九話 水魔の力

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 それからウィズはフリートが包まれている影塊のほうを見て。



「……詳しい状況は分からないが、フリートがグレンにやられて、いまはあの影の中にいるということでいいのか?」

「ああ。炎魔の炎に焼かれ続けているけどな。なんとかして消火しねえと……」

「それなら、水魔の力を頼るべきだな」



 ウィズの言葉に、ヨナとエイラが彼女を見やる。ウィズは言葉を続けた。



「水魔、すなわち水魔法なら、炎魔の炎を消せるだろう。物理法則における、水が炎を消すように」

「ウィズ。ウィズは使えないのか? その水魔法を」

「使えるには使える。だが、私のはあくまで魔法士としての水魔法だ。炎魔存在に近いグレンの炎魔法を相殺するには力が足りないだろう。もっと位階の高い者でなければ、最低でも水魔司宰くらいでないと……」

「「「……水魔司宰……」」」



 俺とエイラとヨナがつぶやく。次の瞬間、俺達は同時に察して互いの顔を見交わした。



「「「……ライース……っ」」」



 この争奪戦の始まりのとき、ヨナを襲撃してきた槍使いの男。いまはヨナの影に捕縛されて、どこか別の場所にいる水魔司宰の男だ。

 正直、いままでずっと放置していたせいで、いま言われるまで忘れかけていたくらいだった。



「ヨナ、奴をここに運んでくれっ。ライースならフリートを焼いている炎を消せるかもしれない」

「……いますぐ転移させます……っ」



 ヨナのそばの足元に魔法陣が浮かび上がり、そこに影で拘束された男が姿を見せる。男は横たわっていて、のんきなことにいびきをかいて眠っていた。



「おい! 起きろ!」



 そいつの元まで行って、俺はその胸ぐらを掴んで揺らす。しかしライースは一向に目覚める様子を見せず。



「ぐへへ……きみー、可愛いねー、何て名前ー?」



 とかなんとか寝言を言ってやがる。とりあえずなんかムカついたので頬を殴り飛ばした。



「ぐぶぇっ⁉」

「よお、起きたか?」

「て、テメー、殴りやがったのか⁉ イテーじゃねーか!」

「さっさと起きないテメエが悪い」

「何だと⁉」



 俺達の言い合いにヨナが口を挟んでくる。



「……ライース、貴方は水魔司宰でしたね……」

「ああっ⁉ ヨナもいたのか⁉ ああそうさっ、俺は水魔司宰だっ、最初にテメーを殺そうとした時に言っただろうが!」



 俺達は顔を見合わせた。それなら……。



「ライース、ここにグレンに焼かれているフリートがいる。おまえの水魔法でその炎を消すんだ」

「はあ? 焼かれてる? 炎?」



 一瞬なにを言われたのか分からなかったようだが、ライースはすぐに理解したようだ。



「なるほどな。グレンの野郎は炎魔源を手に入れたってわけか。ククク」

「そうだ。分かったのなら……」

「誰が消火するかよ。奴が炎魔源を手に入れたってのなら、俺達の目的は達せられたわけだ。俺はいま以上の力を手にするし、こんな拘束くらいとっとと脱出出来るし、フリートを助ける必要もねえなあっ!」

「…………」



 俺達は黙り込む。ライースの言っていることはもっともだろう。こいつがフリートや俺達に協力する動機がない。

 そのとき、ライースのそばに淡く光る長方形の枠が出現する。通信魔法を使うときに出るウィンドウだった。俺も含めて、この場の誰も通信魔法は使っていないはずだが……。

 ノイズの砂嵐が広がる向こうから、グレンの声が聞こえてきた。



『ライース、ザイ、聞こえているな。俺だ』



 奴がライースとザイ……帝国に捕縛されている土魔司宰の大男……に宛てた通信のようだ。ライースが大声で応答する。



「聞こえてるぜ! 炎魔源を手に入れたらしいな! ならさっさと俺に力を分け与えてくれ! ここにいる奴らを蹴散らしてやるぜ!」



 しかしグレンは反応しない。こちらの声や様子は分からないようだった。



『これは俺からの一方的な通告であり、お前達の声はこちらには届かない。またお前達に拒否権もない』

「はあ? どういうことだよ⁉」

『前置きはこれくらいにしよう。ライース、ザイ、俺は炎魔源を手に入れた。よって、これより貴様達を抹殺しに向かう』

「な……っ⁉」



 ライースの顔が驚愕に彩られる。いま聞いた宣告を信じられないようだった。



『貴様らには失望させられた。ライースもザイも敵に敗れて捕まり、エフィルに至っては殺された。役立たずは必要ない』



 ヨナが口を挟む。



「……通信魔法には登録した相手の名前の一覧が表示される機能があります……死亡などの理由により通信出来なくなった者の名前は暗くなりますが、それでライース達の状況を推測したのでしょう……」



 表示されているのに戻ってこないライースとザイは捕縛され、名前が暗くなったエフィルは死んだ……ということが分かったということか。



「……いままでライースとザイに通信しなかったのは、私やウィズさまなどによって逆探知されるのを警戒したのでしょう……」



 砂嵐の向こうからグレンの声が続いてくる。



『特にライース、貴様は真っ先に始末する。対処出来るとはいえ、貴様の水魔法は炎魔の力にとって面倒だからな。そもそも貴様は何の成果も挙げず、早々にこの争奪戦から離脱した。生かす理由が微塵も見当たらない』

「……っ! それは……っ!」

『精々首を洗って待っていろ。自慢の水魔法でな』



 皮肉のつもりの言葉を残して、プツリと通信が途絶える。話を聞き終えたライースはうつむいていた。間もなく訪れる死の刻に絶望しているのだろう。



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