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第二部 炎魔の座
第八十九話 いつものこと
しおりを挟む俺が契約している光魔も、確か魔界にいたはずだ。いまもそこにいるのかは分からないが……そのときはそうだった。
また以前、ヨナとともに炎魔源を追跡していた際に、雷魔の領域に入ると彼女は言っていた。魔界はそれぞれの魔存在によって分割統治されていると。
魔存在すなわち、魔源の保有者のこと。魔界には炎魔や光魔、雷魔以外にも数多くの魔源が存在するということだ。
それらすべてがそうなのかは不明だが、もし仮に炎魔源と同じような出自だとしたら、あまりにも偶然が重なり過ぎていると思ったのだ。
「「…………」」
俺達は一瞬間口を閉ざす。エイラが言ってきた。
「……お師匠さまと連絡を取ったらどうかな、シャイナ? もしかしたらなにか知ってるかも……」
「……そうだな、聞いてみよう」
師匠は自称、悠久の時を過ごしてきた人間だ。もしかしたらそれぞれの魔源が生まれる前から生きていて、その成り立ちについて知っているか、そうでなくても心当たりがあるかもしれない。
通信魔法具を兼ねた指輪に魔力を込める。メッセージウィンドウが立ち上がり、画面にノイズが走る……相手が応じれば、通信が始まるのだが……。
「…………出ないね……」
「ああ……」
あの気紛れで気分屋で猫みたいな師匠のことだ、どうせ面倒くさいとかそんな理由で無視しているのだろう。正直、こうなるだろうなということは、連絡先を交換したときから予感していたが。
「もしかして、なにかトラブルに巻き込まれてるとか……」
「それだけは絶対にない」
それだけは完全に断言できた。
あの師匠は『時間操作』の『力』を持っている。どんな怪我や病気も一瞬で『回帰』させ、どんな強敵や難題も即座に解決もしくは逃走できる。自他ともに認める、まさに無敵で不老不死に近い人間だ。
そんなバケモンじみた奴がトラブルに巻き込まれて苦戦し続けているなんて、あり得ないし考えられない。
「あの師匠は勘がメチャクチャ鋭いからな。俺が連絡すること自体が、面倒くさいことに巻き込まれると思って無視してんだろうな」
「それじゃあ、話を聞くには直接会うしかないんだね……あの森に行って……」
「いや、それもこの通信でできなくなったっぽいけどな」
「え……」
思い立ったが吉日。善は急げ。
あの師匠は面倒くさいことになりそうだと思ったら、次の瞬間にはその場から一目散に離れていた。野生動物以上に危機察知能力に長けていて、一緒に旅していたときはついていくのが大変だった。
いわく。
『長生きしたいなら逃げな。立ち向かうのは危険に身を晒すようなもんだから、本当にどうしようもないとき以外は避けるのが上策だよ』
とかなんとか。
「うっかりしてた。師匠に会ったり話を聞くなら、不意打ちするか、それこそ偶然会うしかねえってな」
「……もしかして、余計なこと言っちゃった、わたし……」
師匠に連絡すれば、と言ったのはエイラだ。だから、そのせいで師匠と連絡できなくなったと思ったのだろう。
「エイラのせいじゃないさ」
俺は首を横に振る。
「うっかり忘れてたのは俺のほうだし。だいたいなにかありそうだったらすぐに逃げる師匠のほうが圧倒的に悪い。まともに会ったり相談すらできねえんだからな」
責任を感じていそうなエイラに、そんな必要はないと。
「だから、エイラのせいじゃない。気にするな。っていうか、師匠にとってはいつものことだから、気にするだけ損だ」
「…………」
なにやらエイラは複雑な顔で聞いていた。俺にそう言われても、やっぱり……とかなんとか思っているのだろう。
と、そこでキッチンからヨナが姿を見せる。手には料理の乗った銀盆を持っていた。
「……この料理に魔界の食材は使用しておりませんのでご安心ください……」
料理を俺達の前に並べながらヨナが言ってくる。ここは人間界だから、現地の食材を使っているということだ。郷に入ればなんとやら、だな。
「別にもう気にする必要もないと思うがな」
魔物の肉や魔界の食材を使った料理なら、もうすでに食べたことがある。いまさら気にしても遅いだろう。俺の言葉に対して、ヨナは無言で受けたあと話題を転じてきた。
「…………、……先程、何か話していたようですが……」
「ああ……炎魔源が人間界から魔界に移動した原因とか、俺の師匠についてだ」
「……あなたの師匠ですか……」
そういえば、ヨナは師匠と面識がありそうなことを、ずっと前に聞いたことがあるような、ないような……。まあ、それはともかく。
「師匠のことはもういいんだ。そんなことより、どうして炎魔源は人間界に生まれて、そして魔界に移ったのか……ってことのほうが気になってな」
「…………」
料理を並べ終わったヨナは俺達の真向かいの席に座る。
「……どうぞお召し上がりください……」
「ああ……いただきます」「……いただきます」
俺達はナイフとフォークを手にして、ハンバーグやムニエルなどを口に運んでいく。ヨナもまた静かに自分の皿に手をつけていた。
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