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第二部 炎魔の座

第三十九話 シャイナさまは協力するのですか? そのサラという方の目的に……

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 ずっと立っているのも疲れるので、フリートの前の床にあぐらをかいて座る。エイラも横座りで腰を下ろした。
 フリートは現状を分析するように、言葉を続けていく。


「……ダークエルフがおまえに接触してきたのは、おまえと我輩が手を組むと思って、焦ったのだろうな」
「まあ、実際に協力し合うつもりだしな。炎魔関連じゃあねえけど」
「ふん、早とちりも甚だしいな」
「しないのか? 協力」
「……まずは皇帝の思惑を確かめてからだ」
「…………」


 フリートが不機嫌になることは間違いなかったので、声や顔色にこそ出さなかったが、内心で、よし、と思う。即座に否定しないということは、少なからず可能性はあるということだ。
 無論、今後の状況や立ち回り次第なため、油断はできねえが。まあ、それはともかく。


「だけど、なんでサラはもっと早く協力を申し出なかったんだろうな。俺を尾行してたのは、俺がフリートに勝ったことを知ったからだろうけど」


 帝国内の新聞や雑誌で、連日その記事が掲載されていたからな。サラはそれを読んで、帝国に起きたことを知り、尾行してきたということだろうが。


「ふん。おまえが真に手を借りるに足る奴かどうか、見定めていたのだろう。実力的には申し分ないとしても、信用ならない奴なら意味がないのだからな」


 言ってから、チッ、とフリートが不機嫌そうに舌打ちする。自分に勝った奴の実力を評価するということは、自分がそいつより弱いことを否が応でも認めることになるからだ。
 誇り高いフリートにとっては、屈辱的なことに違いない。こうして向かい合ってるだけで、心底ムカついてくるはずだ。
 ……なんつーか、きっついなあ……いろいろと……。
 フリートはさらに続ける。


「だが、裏を返せば、それはダークエルフに他の協力者がいないことの証左でもある。わざわざ炎魔を倒したおまえを頼るくらいなのだからな」


 確かに、炎魔を倒した奴に、次の炎魔になりたいから協力してくれというのは、少しちぐはぐな感じもする。もしかしたら自分も倒されるかもしれないのに。


「でも、確定はできないんじゃないか? おまえが知らないだけで、サラにも仲間がいるかもしれないだろ?」
「ふん。あの根暗なダークエルフに仲間がいるなど聞いたことがない。奴は常に単独で行動し、得意の隠密で対象を暗殺するような輩だからな」
「その口振り……やっぱ、サラのこと知ってんのか」
「……魔界では少しは名の知れている女だ。『孤高の射手』などとも言われている。我輩に言わせれば、背後から敵を暗殺する、卑怯者のはぐれダークエルフだがな」


 ……はぐれダークエルフ……。


「ずいぶんな言いようだな。根暗とか卑怯者とか。特に根暗って部分は、ヨナが聞いたらどう思うことか」
「…………ふん……」


 ……ん……? 気のせいか、フリートの雰囲気にかすかな揺らぎがあったような……? いや、やっぱり気のせいか……?
 フリートは続けて言う。


「そもそも、暗殺稼業をやっているくせに名前を知られているというのが、未熟者の証だ。本物の暗殺者は決して表には出てこない」
「そんなもんか……? でも、おまえより先に炎魔宿命になったんだろ? なら実力は確かだと思うがな」
「……ふん……炎魔がなぜ奴に『宿命』の位階を与えたのか、知らん。おおかた、あの炎魔のことだ、ただの気まぐれだろう」
「おまえも炎魔のことをそう思ってたのは意外だな」


 あの炎魔は多くの奴から嫌われてたんだな……まあ、あの傲慢さなら仕方ないだろうけど。
 そこまで話したとき、ドアにノックの音がした。フリートが声をかけて、ヨナの声が返ってくる。ドアを開けてヨナとトリンが室内に入り、トリンがエイラの隣、ヨナはそのトリンの隣に座った。


「……それではシャイナさま、二度手間かと思いますが、私とトリンにもお話をお願いします……」
「ああ。実は……」


 ヨナに促されて、フリートにしたのと同じ話を二人にもしていく。確かに二度手間ではあるが、こうするように手配したのは自分自身なので仕方ない。
 話を聞き終えて、真っ先に口を開いたのはトリンだった。いつものような元気な声で。


「ねえねえ、そのサラってひと、可愛かった⁉」
「え? まあ、可愛かったっちゃあ、可愛かったな。ダークエルフだし」
「おおーっ」


 あくまで人間の美的基準での判断だが、エルフの一族は美形が多いとされている。その亜種であるダークエルフもまたしかり。


「おっぱいは大きかった⁉」
「…………」


 いきなり出たワードに目を丸くしてしまう。それから、どう答えたらよいのか分からず、思わずヨナのほうに目を向けた。ちなみにエイラも目を丸くしていた。
 ……トリンはいつも、こんなふうなのか? いやトリンらしいっちゃ、らしいけど。たぶん、いやらしい気持ちとかはなくて、子供らしい純粋な好奇心……みたいなもんなんだろう。たぶん。きっと。おそらく。


「…………」


 向けられた視線が含んでいる戸惑いを察したのだろう、ヨナは静かな口調でトリンに言う。


「……トリン、そのような質問はぶしつけかと……特にシャイナさまは真面目な殿方みたいですし……」
「えーっ⁉ でもヨナも気にならない⁉」
「……なりません……」
「えーっ⁉」


 トリンがエイラに向く。


「エイラは気にならない⁉」
「えっ⁉ え、えーっと、そのー、ふ、普通かなあー?」


 普通ってなんだよ。質問と答えが微妙に噛み合ってない気がするぞ。どうやらエイラも困惑しているらしい。自分だって変態発言をしてるくせに、言われることには慣れていないのか?
 この話題を終わらせるように、ヨナが。


「……ところで、シャイナさまは協力するのですか? そのサラという方の目的に……」


 そう尋ねてきた。



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