126 / 235
第二部 炎魔の座
第三十八話 ……おまえは、新たな炎魔になる気があるのか……?
しおりを挟む「あーっ、この前の美人さんもいるじゃーんっ」
トリンとともに屋敷へと戻ると、風呂上がりのエイラを見つけたトリンが彼女へと駆け寄っていく。ちなみにエイラはパジャマ姿で、まだ乾ききっていないのか、金色の髪はほのかに湿っていて、拭き取れていないわずかな水滴が明かりを反射してキラキラと光っているようだった。
「なんかいい匂いもするしーっ、わぁーっ」
「わ、わ、え……⁉」
さっきみたいにすんすんと匂いを嗅いだと思ったら、いきなりトリンはエイラに抱きついた。
「はわぁーっ」
トリンはうれしそうな、和んだ顔になっている。だからおまえは犬か? いい匂いってのも、風呂上がりだからシャンプーとかの匂いだろうし。
二人を見ていたヨナが、無表情のまま声をかける。
「……トリン、夕食の準備は出来ています……それともお風呂に先に入りますか?」
「うーんとねーっ……」
トリンの腹の虫が鳴る。
「ご飯が先ぃーっ」
「……分かりました……それでは一緒に食べましょう……」
「わぁーいっ」
食堂のほうへとトリンが駆けていく。静かな足取りでそのあとを追おうとするヨナに。
「……フリートはどこにいる?」
「……フリート様なら、先ほど瞑想していた部屋にいます。いまもまた瞑想しているかと……」
「そうか。……トリンとの夕食が終わったら、その部屋まで来てくれないか? トリンも一緒に。話しておきたいことがある」
「…………」
さっきの散歩のときになにかあったことを察したのだろう。
「……急用であれば、夕食をあとに回しますが……」
「いや、トリンはめちゃくちゃ腹が減っているみたいだし、そっちが先でいい。ヨナも腹が減ってるだろ?」
「…………、……分かりました……シャイナさまがそう仰るのなら……では、またのちほど……」
「ああ」
今度こそヨナはトリンのあとを追って、食堂へと向かっていく。その後ろ姿を見送りながら、エイラに声をかける。
「エイラ。フリートの部屋に向かうぞ。エイラも知っておいたほうがいい」
「……うん、分かった」
さっきまでの和やかな雰囲気から、真面目な顔つきになって、エイラはうなずいた。
そしてエイラとともにフリートがいる部屋へと行き、ノックを鳴らす。ドアの向こうからフリートの声。
「……誰だ……」
「俺だ。シャイナだ。おまえに話しておきたいことがある。入っていいか?」
「……ふん、好きにしろ」
なんか、ヨナがドアをノックしたときと違って、不機嫌な色が声音に滲んでいた。瞑想に集中していたのを邪魔されたからか、それとも俺だからか。
……やれやれ……。
まあ、前に敵対して、真正面から戦って負けた相手を良くは思わないだろうしな。
ドアを開けてなかに入る。相変わらず部屋のなかが薄暗い。
「やっぱり暗いな。明かりつけていいか?」
「好きにしろ」
手のひらくらいの大きさのライトボールを天井付近へと飛ばす。空中に留まった光の球体は部屋の隅々まで照らし出し、さっきはよく見えなかった部分までくっきりと見えるようになった。
「最初からこうすりゃよかったかもな」
「ふん。それで、何の話だ。つまらないことで我輩の瞑想を邪魔したのなら、容赦はしないぞ」
「いちいち言うことが怖ええなあ」
やっぱり目の敵にされているらしい。まあ、それはともかく。
「……さっき外に出たとき、ダークエルフのサラって奴と出会った。おまえと同じ炎魔宿命だった奴だ。知ってるか?」
「…………」
返答はなし。
「まあいい。本題は、そいつに、自分が炎魔になるための協力をしてくれと言われたことだ。それに際して、いまの炎魔の力の継承に関する説明も聞いた」
「…………」
フリートは相変わらずの無言。その代わりにエイラが、
「ええっ……⁉」
と、びっくりした声を漏らしていた。そんなエイラへの説明も兼ねて、さっきサラと話した事柄を、順を追って話していく。
フリートもエイラも静かにその話を聞いていて……話し終えたあとも、二人はしばらく無言のままだった。エイラは単純に、話の内容に驚いて声を出せないみたいだったが……フリートは、なにかを考えているような雰囲気があった。
……やはり、サラのことも含めて実はこのことをすでに知っていて、サラの行動や言動の真意について考えているのか……?
とにかく、黙っていても埒が明かないので、フリートに声をかけた。
「おまえは知ってるのか? 炎魔宿命だった最後の一人のこと」
「…………」
依然、返答はなし。
……まったく……。
息をつきながら、口を開く。
「知らないならしょうがねえけどよ……でも、これだけは確認させてくれないか? おまえは炎魔に……」
聞こうとしたとき、おもむろにフリートが口を開いて、言ってきた。
「……グレンだ……」
「……え……?」
「……かつて炎魔宿命だった男のことだ……全身をマントで隠し、頭にもフードをかぶっている、悪魔的な実力を持つ剣士だ……その真の姿は、おまえに倒された炎魔しか見たことがないと言われ、おそらく炎魔宿命のなかで、ひいては炎魔と契約した者のなかで、最強の力を持っているだろう……」
その声はこれまでになく重々しく、それだけで、そのグレンという謎の剣士の脅威が推し測れた。
「……いまは炎魔宿命の力を失っているだろうが、それでも、その剣技だけで一騎当千の実力はあるはずだ……」
「…………」
気になっていたことを尋ねる。
「……おまえは、新たな炎魔になる気があるのか……?」
だが、フリートは直接的には答えなかった。
「…………、……もし仮に炎魔の力を得ようとするのなら、グレンが最大最強の敵になるだろう……」
「…………」
……グレン……そいつの名前は、覚えておく必要があるだろうな……。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

【完結】投げる男〜異世界転移して石を投げ続けたら最強になってた話〜
心太
ファンタジー
【何故、石を投げてたら賢さと魅力も上がるんだ?!】
(大分前に書いたモノ。どこかのサイトの、何かのコンテストで最終選考まで残ったが、その後、日の目を見る事のなかった話)
雷に打たれた俺は異世界に転移した。
目の前に現れたステータスウインドウ。そこは古風なRPGの世界。その辺に転がっていた石を投げてモンスターを倒すと経験値とお金が貰えました。こんな楽しい世界はない。モンスターを倒しまくってレベル上げ&お金持ち目指します。
──あれ? 自分のステータスが見えるのは俺だけ?
──ステータスの魅力が上がり過ぎて、神話級のイケメンになってます。
細かい事は気にしない、勇者や魔王にも興味なし。自分の育成ゲームを楽しみます。
俺は今日も伝説の武器、石を投げる!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる