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第二部 炎魔の座
第十五話 ……そうだった……師匠が使えるのは……
しおりを挟むドゴンッ! バゴンッ! 森のなかのいたるところに、ロリババアが振り下ろした拳骨でできた穴が増えていく。このロリババア、マジで殺りにきてんじゃねえか⁉ と思わず文句を言いたくなる。
「おい! ロリババア! この森を穴だらけにする気かよ⁉」
「おまえが避けまくるからだろうが。そんなこと言うなら、素直に可愛いお師匠さまの拳骨をくらえよ」
「ぜってー嫌に決まってんだろうが! あと自分で可愛いとか言うな! ロリババアのくせに!」
「かっちーんっ」
ロリババアが振り下ろした拳骨が、しかし今度はいままで以上の大量の土を舞い上がらせて、地面に隕石が落ちたときのようなでかいクレーターを作る。その衝撃に巻き込まれて、周囲の木々がクレーター内に倒れ込んでいった。
どうやら少しだけ怒ったらしい。
「相変わらずのばか力だな!」
「ただの基本的な強化魔法だよ。まあ、ちょっぴり細工してるけどね」
「くそがっ!」
その『ちょっぴりの細工』がメチャクチャなんじゃねえか!
なおも追いかけてくるロリババアの攻撃をかわし続けているとき、腕に抱いていたエイラが言ってきた。
「シャイナっ、わたしを下ろしてっ。わたしなら大丈夫だからっ。そうすれば……」
より簡単に回避できるようになるだろうし、反撃もしやすくなるだろう。エイラはそう言いたいのだろうが。
「そう言われてもな、そうする余裕がねえんだ」
「……っ⁉」
拳骨だけではなく蹴りまで繰り出し始めたロリババアが、笑いながら言ってきた。
「はっはっはっ。いつも言ってただろ。戦いに勝ちたければ、相手が本気を出せないときを狙えって」
「うっせーよっ! ただの卑怯じゃねえかそんなの!」
「卑怯上等。姑息上等。いつの時代も勝った奴が正義で、負けた奴が悪なんだよ。歴史を振り返れば分かるだろ?」
「うっせーロリババア!」
つまるところ、エイラを抱いているからこそ、弱体化してると思われてるわけだ。悠久の時を過ごし、卑怯で姑息なロリババアの考えそうなことだ。
だが、相手がそう考えているなら、それを逆手に取ればいい。
「エイラ! 魔力強化の魔法を頼む!」
「……! うんっ! マジックアップ!」
全身にまとっていた光の魔力が一際強く輝き、力がみなぎる感覚。
それと同時に。
「グロウアローズ!」
身体の周囲の空中にいくつもの魔法陣を展開させて、大量の光の矢を放つ。
エイラのサポートがあるからだろう、それらの光の矢は通常時よりも一回り大きく、威力も底上げされていた。
「わあっ。マジかよ。大事なお師匠さまを殺す気かい?」
とかなんとか言っているが、ロリババアは光の矢の群れのわずかな間隙を縫うようにして、無傷で避けながら迫ってくる。
「ふざけやがって! 殺しても死なねえような奴が言ってんじゃねえよ!」
「なっはっはっ。だてに長生きしてないからねえ」
楽しそうに笑いながら、ロリババアが拳を振りかぶる。見た目こそ華奢な子供の腕だが、当たったら最後、マジで死にかねない。かすっただけでも、相当なダメージを食らうことは確かだ。
くそっ! また技を借りるぜ、サムソン!
「瞬身斬!」
「…………!」
一瞬にしてロリババアの背後へと回り込む。ロリババア自身、初めて目にする技のはずで、少なからず驚いているのが伝わってくる。
このロリババアに同じ手が何度も通用するはずがない。このチャンスは絶対に逃すわけにはいかない。
「食らいやがれ! ディヴァイングレイ……」
戦いを終わらせるための魔法を使おうとした刹那。背後からロリババアの声。
「まったく。弟子の成長には驚かされるね。いつの間にそんな技覚えたんだい?」
「……っ⁉」
マジか⁉ このロリババア、あの一瞬で瞬身斬を真似しやがったのか⁉ いやあり得ねえ! 真似自体はできるとしても、いま、ロリババアの動きを絶対に見逃さないために、瞬き一つすらしていなかったんだぞ!
その視界のなかに、ロリババアがなにかしたような動きも気配も、微塵もなかった。
それこそ、時間を止めでもしない限りは……。
…………っ……そうだった……師匠が使えるのは……。
「わたしを感心させたご褒美だ。痛みを感じないように、一撃で沈めてあげよう。はあああっ!」
師匠が気合を込めて、拳を振りかぶる。いままでよりもさらに力を込めた、少なからず本気の混ざった一撃。直撃すれば、確かに即座に気絶してしまうだろう。
回避する時間も、防御する余裕もない。負け……。
「プロテクトバリア!」
エイラの声。瞬間、目の前に張られる透明な防護の壁。そのバリアが師匠の拳を受け止める。
「「!」」
師匠の一撃は強力だ。いまのエイラの防壁では、完全に防ぐことはできず、すぐに亀裂が入って粉々になってしまう。
だが。
「シャイナ! いまだよ!」
たとえ一瞬でも時間を稼ぐことができるのなら。
「サンキュー、エイラ! ディヴァイングレイヴ!」
地面から巨大な光の十字架を出現させて、眼前に迫る師匠の身体へとたたきつけて、高い木々が見下ろす空中へと押し上げた。
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