【第二部完結】 最強のFランク光魔導士、追放される

はくら(仮名)

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番外編 第一話

後編(1) 仲間がいりゃあ

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 次々と飛び掛かってくるヘルハウンド達を、光の矢で射抜き、光の剣で斬り裂き、光の球をぶつけて爆散させていく。
 先ほどからそうやって討伐し続けているのだが、どこから湧いてくるのか、途切れる気配が感じられなかった。


「はっ! この森にいるヘルハウンドどもが全部群がってきてるってか⁉」


 またそうして襲ってくるヘルハウンドとは別に、距離を置いて様子見をしている個体もいやがる。そいつは片目に斬撃の傷があり、いかにも群れのボスという貫禄だった。


「上等だ。どうせこの森のヘルハウンドは一掃するつもりだったからな。好都合だぜ」


 その片目傷の個体をちらりと見やりながら言う。そいつ的には、昼間に仲間が返り討ちに遭ったことに対するお礼参りも兼ねているのかもしれない。
 それはそれとして、この宵闇の中、どうして奴らは居場所を正確に特定して襲ってきているのか。


「てめえらは他の魔物よりも鼻がいいんだったな」


 ヘルハウンドは犬型の魔物であり、それゆえに嗅覚もずば抜けているという。おそらくは、昼間に遭遇した仲間の死体に付着していたにおいを覚えたのだろう。


「……ちっ。……ってーことは、目眩ましをしても意味がねえってことか」


 たとえ光魔法で視覚を潰したとして、一瞬ひるんだとしても、すぐに持ち前の嗅覚によって何の問題もなく襲い続けてくるだろう。


「……その点だけは厄介だな」


 視覚以外の感知手段を持つ相手全般に言えることではあるが。
 何体目になるか分からないヘルハウンドを光の剣で斬り裂きながら、この群れを掃討する方法を考える。
 地道に一体ずつ倒していくと時間が掛かり、また疲労も蓄積してどこかのタイミングで負傷してしまうかもしれない。昼間の事例から、こいつらの中には毒を持つ個体もいることが分かっている。それの攻撃を受けて、また動けなくなることは避けなければいけない。
 一体ずつの討伐が面倒なら、広範囲の攻撃で一気に倒すか……? 選択肢の一つとしてはありだが、奴らの総数が分からない以上、もし一体でも取り逃してしまえば、反撃を受ける可能性も否定出来ない。繰り返しになるが、もしその反撃で動けなくなれば、そのまま殺されてしまうだろう。


「……ちっ……こんなとき、仲間がいりゃあ、もっと楽になんとかなるのかもな……」


 その仲間が敵を探知出来れば、敵の総数を把握し、広範囲攻撃で取り逃す可能性はぐっと低くなるだろう。
 その仲間の攻撃能力が高ければ、ともに前線に立って敵を倒していけるだろう。
 その仲間が回復手段を持っていれば、怪我や毒を受けたとしても、すぐに治療出来るだろう。


「…………、いまいねえ存在を考えてもしょうがねえ。とにかく、一人でなんとかしねえと……」


 鋭い牙で噛みついてこようとした一体の、その口に光の球をぶつけて爆散させる。肉片と血飛沫が舞う中、こいつらへの対策として思い付いたのは……。


「おら、これならどうする?」


 足に光の魔力を込めて、地面を蹴ってジャンプする。身体を若干傾けながら木の幹に着地いや着木すると、再びジャンプしてそばの木の幹へと移る。それを繰り返して上空へと上っていき……。
 案の定、いままで襲ってきていた奴らはそのままあとを追って、同じように木の幹から幹へと跳び移って迫ってきた。


「そうだ。それでいい」


 木の頂上を越えて、下弦の月が照らし出す宵闇へと躍り出る。眼下には迫るヘルハウンドどもと、いまだ地面から見上げてくる何体かの幹部格の姿。
 上空からなら、奴らの全てを見通すことが出来る。
 それら全ての居場所を見定めて、眼下に手のひらをかざした。


「『ブライトレイン』!」


 光の矢の雨が森へと降り注ぎ、奴らの身体を貫いていく。


「はっ、俺の身体は上空、てめえらの頂点にある。これなら攻撃を外したとしても、背後から不意討ちされる可能性はないだろう」


 そして地面に着地する頃には、攻撃時の光はやんでしまうため、その光に乗じての不意討ちも出来ない。
 身体を光の矢で貫かれて絶命した奴らのあとを追うように、地面へと自由落下を始めていく。この戦法の唯一の欠点は、着地に失敗すれば普通に重傷を負うか死んじまうってとこだな。なんせ高所からの飛び下りと変わらねえんだから。
 着地時の衝撃を少しでも和らげるために、落下中にそばにある木の幹へと光の剣を突き立てて、ザザザッと減速させながら降下していく。その甲斐あって、無事に着地に成功した。
 ……が、それと同時に仕留め損ねた残りの数体が牙を剥き出しにして襲い掛かってくる。地上で見上げていた奴らで、光の雨をうまいこと回避したのだろう。


「はっ、しゃらくせえ!」


 いくら幹部格とはいえ、わずか数体での突撃。自爆特攻にも近いそれらを、手にした光の剣で斬り伏せていく。
 最後に残ったのは、いまだなお襲撃に加わらず様子見を続けていた片目傷のボスだけだった。そいつへと光の剣先を向けながら。


「さあ、てめえで終いだ」
「……グルルル……ッ!」


 そのとき初めて奴が臨戦態勢に入る。驚いたことに、その足元に簡素なものではあるが魔法陣が浮かび上がり、牙を含めた奴の全身が魔法の淡い光をまとっていく。


「……驚いたな。それは強化魔法か……? まさか簡単なものとはいえ魔法を使える魔物が出てくるとはな」


 人間が魔法を使える以上、同じように魔法を使える魔物も世界には存在している。しかしそれはあくまで知能が高い種族や個体とされており、全ての魔物が使えるわけではない。
 このヘルハウンドのボスは、まさにそれだったということだ。


「ガアアア……ッ!」


 魔法の光をまとい、牙を剥き出しにしながら猛スピードで迫ってくる奴を。


「その程度の強化じゃ、俺は倒せねえぜ」


 紙一重で避けながら、すれ違っていくその身体を、光の剣を振り抜いて斬り裂いた。



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