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第一部 始まりの物語

第七十五話 『神殺の光剣ミストルテイン』

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 フィールド魔法。周囲の地形を任意の状態に変化させる魔法の総称であり、細かく分ければいくつかの種類が存在する。
 城下街にあった建物など、元々の状態そのものが見られず、溶岩地帯に塗り替えられていることから、フリートが使ったのはどちらかというと空間転移に近い魔法かもしれない。
 つまり別の空間に溶岩地帯を作り出し、そこに自分と俺を転移させた……そういうようなものだ。ただ、フリートを倒さないと解除できないのだとすれば、結界魔法の役割も担っているとも言える。


「行くぞ、シャイナ。『ファイアボール』」


 フリートの頭上に無数の火球が現れて俺へと飛来してくる。その威力と勢いは凄まじく、ティムたち騎士団が使っていた同じ魔法のそれを遥かに上回っていた。


「くっ、『ライトボールズ』!」


 こちらも無数の光の球を撃ち出して、なんとか相殺していく。やはり強い。俺が持つ神殺しのミストルテインこそフリートを一撃で倒せるくらいの威力があるが、それ以外の魔法の平均値はあいつのほうが上だろう。
 さすが魔司宰だと言うべきだろう。なんとか魔力を多量に込めることでギリギリ相殺させているものの、純粋なぶつかり合いではこちらが不利だ。


「『ファイアドラゴン』」


 火球の群れを一通り相殺したところで、やつが次の魔法を放ってくる。やつの頭上に今度は炎でできたドラゴンが現れて、雄々しい炎の翼をはためかせると、空中を滑るように勢いよく俺へと突っ込んできた。


「くっ!」


 横に飛び込むように回避すると、地面に焦げ跡を残しながら炎の竜は再び飛翔し、上空で旋回行動をしている。数秒後にはまた突っ込んでくるつもりだろう。
 トリンが使っていた召喚魔法ではなく、火球や炎の剣と同じ生成魔法の一種だ。その形状がドラゴンであり、フリートが操れるというだけで……おそらくモデルは、以前俺が戦ったようなレッドドラゴンだろう。あれよりも厄介だが。


「『我が名はシャイナ。光魔を導く者なり。我に迫り来る炎の竜を射落とせ。『グロウアロー』!』」


 左手の人差し指と中指を揃えて炎の竜へと伸ばし、それに右手を重ねて、弓を引くように手前に引いていく。その左手と右手の間に現れた眩い光の矢を、こちらへと再度襲いかかってくる炎の竜へと撃ち放った。
 矢が竜の身体を貫き、弾けるように消滅させていく。


「ふむ。やはりこの程度では準備運動くらいにしかならないか」
「……よく言うぜ」


 やつを見据えながらつぶやく。呪文の詠唱をしていないやつの魔法に対して、こっちは呪文の詠唱ありで撃ち破ったのだから。
 おまけに、やつはその場から一歩も動いていない。
 やはり魔導士と魔司宰では、素の平均値が違っている。やつを倒すには、なんとかしてミストルテインを当てる必要がある……が……。


「やはり貴様を倒すにはこれしかないようだ。『魔炎剣フランベルジュ』」


 やつがその魔法を唱えると、右手にそれまでの炎とは比べ物にならない魔力が集約されていき……漆黒に燃え盛る炎の剣が握られる。


「おまえ……その炎の色は……っ⁉」


 以前見たフランベルジュの炎色は他と同じ紅色だったはずだ。それが漆黒に変化している。魔力を一点に集約させているとはいえ、この禍々しい炎はまるで……。


「魔界の炎の剣、フランベルジュ。これこそが魔炎剣フランベルジュの真価に過ぎない、それだけだ」


 そう言うやつの右の瞳には、フランベルジュと同じ漆黒の炎がまとわれていた。


「その目……⁉ おまえ、まさか『宿した』のか⁉ 炎魔を⁉」
「……。ふん。神殺しを持つ貴様を倒す為だ。貴様こそ神殺しの力を与えられているではないか」
「……」


 俺が持つ神殺しの力……ミストルテインはいわば借りているようなものに過ぎない。またそれはあくまで魔法の一種であって、『魔』を宿しているわけじゃない。
 『魔』を宿すこと……それは即ち、自身の身体を『魔』に明け渡すことに他ならない。絶大な力を得ることと引き換えに、取り返しのつかない事態を引き起こしかねない諸刃の契約。


「我輩はもはや魔司宰の力を超えている」


 黒炎をまとった瞳で俺を見据えながらやつが言う。


「我輩はフリート。炎魔をこの身に宿し者、炎魔宿命のフリートだ。光魔導士シャイナ、貴様も本気を出せ。ミストルテインの真価を見せてみろ」
「……」


 言われるまでもなく、あの黒炎のフランベルジュと渡り合えるのは、俺が使えるなかではミストルテインしかないだろう。それもただ撃ち放つだけではおそらく勝てない。やつと同じように魔力を集約させなければ。
 俺は右手をかざす。


「『神殺の光剣ミストルテイン』」


 右手に光の魔力が集約されていき、剣の形を取っていく。これほどまでに魔力を集約させれば、一目見ただけで視力を奪うほどの強さの光になるはずなのに、なぜかそうはならなかった。


「それが神殺しの真の姿か」
「さあな。だが視力は奪わないらしいな」


 極白の光剣と漆黒の炎剣。
 俺とフリートは互いに構えると、地面を蹴って刃と刃を激突させた。



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