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第一部 始まりの物語
第六十一話 やつが目的とプライド、どちらを優先するかだ
しおりを挟む「グロウアローズ!」
「炎風四連斬!」
「気功爆撃波!」
大量の魔物の群れを、いくつもの光の矢が刺し貫き、宙を飛ぶ炎の刃が斬り刻み、広範囲の爆発が吹き飛ばしていく。
「みんな、補助魔法だよ! ガードアップ! それとリジェネレーション!」
エイラの掛け声とともに、俺たちの身体に淡い光がまとわれる。ガードアップは防御強化、リジェネレーションは自動回復の魔法だ。
「サンキュ!」
前線に出ているのはサムソンとトウカ。剣士と武闘家という冒険職上、魔物と最も近い位置で戦うのが二人の役割だ。
後方で俺たちの回復や補助をするのが、ヒーラーであるエイラの役割。一応、エイラも下級の攻撃魔法くらいなら使えるが、これだけの数と強さの魔物との戦いでは、後方支援に専念したほうがいい。
そして、その前線と後方の両方を攻撃魔法で支援するのが、俺の役割。前線の二人が対処しきれない魔物を処理し、なおかつ後方にいるエイラが回復と補助に専念できるように、彼女を狙う魔物を片付けていく。
「お礼を言うのはこっちだよ。いつも守ってくれてありがとね、シャイナ」
そう言いながら、エイラの前に魔法陣が展開される。
「スピードアップ!」
身体が軽くなる感覚。ただでさえ速いサムソンとトウカの動きがさらに速くなり、瞬く間に魔物の数を減らしていく。
「でもシャイナ、フリートは本当にこっちに来るの?」
「さっきも言ったが、可能性は五分五分だな。やつが目的とプライド、どちらを優先するかだ」
次の魔法陣を展開させながら聞いてくるエイラに、俺は答える。
俺の考えはこうだった。
…………
「シャイナ達四人だけで魔物の群れを? いやそもそも、本当に南の荒野に魔物の群れがやってくるのか?」
城の会議室。俺が言った言葉にウィズが疑問を投げかけてくる。
「可能性は高い」
「何故そう言い切れる?」
順を追って説明するように、俺は考えを口にしていく。
「フリートは帝国を攻め落とすために、こちらの戦力を可能な限り削っていくつもりだ。だから三つの町をまず襲撃している」
「それは分かっている。つまり、だから南の荒野から魔物をけしかけて、帝都の戦力をそちらに向かわせるつもりなのか?」
「それもあるだろうが、厳密には、俺を疲弊させるためだ」
「シャイナを?」
そのとき、俺が言いたいことを察したのか、ディアさんとエイラが「「あっ」」と小さな声を漏らした。
「さっきウィズは言ってたよな、俺は唯一単身でフリートに対抗し得るって。それは向こうも分かっているはずだ。こっちが最も危険視しているのがフリートであるのと同様に、向こうも俺のことを最も警戒しているだろう」
神殺しの力を使ったとはいえ、俺はフリートを重傷に追い込んだ。やつがその俺を警戒しないはずがない。
気に入らないと言いたげに、サムソンが口を開く。
「……なるほどな。癪だが、シャイナの言う通りだろう。ずっと気になっていたんだ、フリートはその気になれば騎士団と魔導士団を一人で倒せる力があるのに、何故こんな回りくどいことをしてるのか、と」
俺はうなずく。
「三つの町を襲撃したのは、そのどれかに俺が参戦して、俺を少しでも疲弊させるのが一番の狙いだった」
「しかし実際には外れた」
「ああ。だが外れたとしても、フリートの仲間が戦うときのために帝都の戦力を減らしておくことはできる」
「そして、その第二波として、南の荒野から魔物の群れを進攻させる訳だな」
「そうだ」
「……ちっ……!」
忌々しそうにサムソンは舌打ちをした。
難しい顔でウィズが言う。
「本当に大量の魔物の群れが来るとすれば、帝都の戦力の大部分をそちらに割く必要があるだろう。被害も甚大になる。……すまないが、シャイナなら殲滅できるのではないか?」
疑問形ではあるが、ウィズは俺に魔物の群れを殲滅するように頼もうとしているらしい。俺は肯定しつつも、
「魔物の数にもよるが、できるだろう……が、さっきも言ったが、それこそがフリートの狙いだ。大量の魔物を殲滅すれば、当然その疲弊も大きくなる。さすがの俺でも、疲弊して魔力を大幅に減らした状態でフリートと戦えば……死ぬだろうな」
「そんなの絶対ダメ!」
エイラが大きな声で言う。ウィズたちも押し黙り、
「なにか他に方法はないんですか?」
とディアさんが問う。俺は答えた。
「その答えが、さっき俺が言った、俺とサムソンたちで討伐すること、だ。これなら魔物を殲滅できるだろうし、帝都の戦力の被害も少なくできるし、俺の疲弊も抑えられる」
「あっ……そういうことだったんですね……」
「そしてディアさんはここに残って、戦況の把握と情報の分析を頼みたい。ウィズは仲間への指示や連絡、移動のための空間転移とかで、どうしても把握と分析に集中できないだろうからな」
「分かりました」
うなずくディアさんに、
「すまないな、仲間外れみたいにして」
「いえ、自分の実力不足は、自分が一番よく分かっています。でも、だからこそ、わたしはわたしにできることをやり遂げてみせます」
強くまっすぐな目で言う彼女に、俺はうなずきを返す。
その様子を見ていたサムソンが口を開いた。
「シャイナ、さっきから聞いていれば、君は自分のことですら戦いの駒のように言っているな」
「俺は自分の戦力をできる限り客観的に見て、その上で最善策だと思うことを言っているだけだ。こんな状況だ、下手に謙遜や遠慮をして、みんなをピンチにしたり死なせるわけにはいかねえだろ」
「……ふん……なら、南の魔物を殲滅した後、フリートはどう出ると思う? さらなる魔物を出してくるのか?」
「いや……南に俺が出向けば、そこに魔物を全投入するだろうな。あくまで俺を少しでも疲弊させるためで、フリート自身はその気になればいつでも帝都に進攻できるんだから」
「つまり、君が魔物と戦っている隙に、フリートは帝都に来る、と」
「その可能性ももちろんあるが……」
俺は顎に手を当てて、少しの間考える。そして地図の南側を人差し指で示して、
「やつは一度俺に負けている。もしやつが自分のプライドを優先するのなら、俺のほうに来るはずだ」
次に帝都を指で示す。
「だがプライドより目的を取るのなら、帝都に来るはずだ。こればかりは五分五分で、どっちかは俺にも分からない」
ウィズが言った。
「……なるほどな。では、もしフリートが帝都や他の場所に現れた時の為に、四人には転移の為の魔法具を渡しておこう。すぐにこの部屋に戻ってこれるように」
「分かった」
俺はうなずき、サムソンたちもうなずく。
「俺たちが戻ってくるまで、騎士団と魔導士団のみんなで帝都を守ってくれ」
「言われるまでもない」
俺の言葉にウィズもうなずきを返して、
「すまないな、君達に頼りきってしまっているみたいで」
「気にすんな」
俺がウィズに言うと、サムソンたちも同じ気持ちだったのか、もう一度うなずいた。
…………
地平線の彼方から現れた魔物たちをかなり倒していったはずなのに、どこから湧いてくるのか、一向に数が減る気配がない。
「くそっ、埒が明かないな」
「シャイナ、自分で言ったこと忘れないでね。シャイナが疲れすぎないように、わたしたちがいるんだから。全体魔法とか使わないように」
エイラが忠告してくる。
「分かってるよ」
そう答えたものの……本当にどうしようもない場合は、使わざるを得ないかもな。そのあとのことは、そのとき考えよう。
と、そんなことを思っているとき、
「やったー! さっきの光魔導士がいるー! フリート様の言った通りだー!」
「ククク、へえ、あいつがフリート様をあんな風にしたやつか、ククク」
数時間前に出会ったトリンと、もう一人、バンダナのような布を両目に巻いて塞いでいる男が、俺たちの前に現れた。
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