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第一部 始まりの物語
第四十五話 これが俺らしさだ!
しおりを挟む「飲み込みなさい、シャドーボール」
ヨナの命令に反応して、彼女のそばに佇んでいた漆黒の球体が俺たちへと迫ってくる。
「避けるぞ、ルナ!」
俺が右、ルナが左に避けると、漆黒の球体は俺を追ってきた。追尾性能があるのか、それともヨナが操っているのかは分からないが、追いかけてくるのなら迎撃するまでだ。俺は漆黒の球体へと片手をかざす。
「ライトボール!」
そっちが黒い球体なら、こっちは光の球体だ。意趣返しとばかりに俺が放ったとき、落ち着いたヨナの声が聞こえてきた。
「言ったでしょう。私は影魔を導く者だと」
光の球体が漆黒の球体にぶつかろうとした直前に、漆黒の球体は一瞬、倍くらいに大きくなり、そして光の球体に直撃すると同時にそれを粉々に粉砕した。
「なにっ⁉」
漆黒の球体が元の大きさに戻るも……目の前まで迫ったそれを避け切れずに、俺はもろに受けてしまう。
「ぐっ⁉」
「シャイナ⁉」
傷を負って息を荒げる俺へと駆け寄ろうとするルナの足元にいくつもの影の筋が出現し、黒い刃と変化したそれらが彼女に襲いかかっていく。
「くっ……⁉」
「あなたはそれらと戯れていて下さい」
引き抜いた剣でなんとか黒い刃たちに応戦するルナに、女が言う。そして女は俺へと視線を向けると、
「シャイナ様、確かにあなたはお強いです。しかし、その強さは私の影魔法には逆効果になってしまう」
光と影。対照的な魔法。
「……なるほどな」
俺は舌打ちを漏らす。
「影は光によって作られる。俺が光魔法を使えば、その分、おまえの影魔法の威力も上がるってことか」
「理解が早くて助かります。つまりあなたの使う光魔法の多くは、私には意味を成さないのです」
「チッ……なら、これはどうだ……!」
光魔法の"多くは"。ヨナは確かにそう言った。ならば、それに当てはまらないであろう残りの魔法を探して、それを試していけばいい。
「ライトブレイド……!」
俺は右手に光の刃を作り出すと、ヨナへと斬りかかっていく。やつも手に影の刃を作り出すと、その光の刃を受け止めた。
「シャイナ様、先程あなたは、私が自分の苦手な魔法の使い手だったときのことも考えておられました。そしてそれは当たっていた。その判断力と強さを兼ね備えているからこそ、私達の仲間になって頂きたいのです」
「ハッ! どんなに褒め殺してこようが、おまえらの仲間になるつもりはねえ!」
その意志を表すように、俺は女と斬り結んでいく。
「どうしても、ですか? あなたが私達に力を貸して頂ければ、不要な争いや怪我人を出さなくともよくなるのに?」
「さっきも言ったが、おまえらのことを信じるつもりはない! おまえがフリートを説得すると言ってたが、もしそれができるなら、俺がいないときにすでにできていたはずだ!」
「……残念です……」
光の刃の輝きを吸い取ったのか、影の刃が一際大きくなりライトブレイドを粉砕する。
「シャドーランス」
「くそっ!」
それと同時に女が撃ち出した影の槍を、横に跳ぶことでギリギリ回避する。その影の槍は周囲に展開されていた風魔法の結界……風の壁に当たっていった。
「……ふむ。この程度では傷一つ付きませんか。中々良い風魔法の使い手を仲間にしていますね」
どうやらヨナの魔力の強さ自体は並み程度らしい。俺の光魔法に対しては相性の関係で強く出れるというだけで……それはすなわち、この戦いで鍵を握っているのは……。
「この風の結界を消すためにも、まずはあちらのお仲間を先に倒した方が良さそうですね」
「ルナ! 気を付けろ!」
女がルナに視線を向け、俺もそちらに大声をかける。だがその注意も虚しく、ルナを襲っていた複数の影の刃は壁のように伸びて彼女を取り囲むと、ドーム状になって彼女を閉じ込めた。
「くっ、しまった!」
影のドームの内側でルナが声を出す。手にした剣でドームを壊そうとする斬撃の音が聞こえてくるが、影のドームには亀裂一つ入っていない。
「このまま彼女が倒れるまで、シャドードームの中で攻撃し続ければ、あなた達の敗北は確定します」
俺の光魔法では女への有効打に乏しく、いまルナを失うわけにはいかない。
「させるかよ!」
俺は影のドームへと駆け出して、ルナを覆うそのドームへと手を触れた。その手に光をまとっていく。
「無駄ですよ。光魔法で壊そうとしても、シャドードームはその魔力を吸収して巨大化するだけです」
女のその言葉通り、そしていままでの光魔法の影響を受けた影魔法と同じように、影のドームは上部や、俺のいる反対側のほうが、風船が膨らむように大きくなっていく。
「ルナ、聞こえるか? 聞こえてたら、俺のこの声から離れて、ドームの中心部に向かうんだ」
「シャイナ、いったいなにを……?」
疑問を投げかけるルナを諭すように、俺は続ける。
「詳しく説明している時間はないし、やつに気付かれる可能性もある。俺を信じて、言う通りにしてくれ」
「……分かった……なにをするつもりなのかは分からないが、シャイナを信じよう」
おそらくはドームのなかで影の攻撃を防いだり弾いたりしているのだろう、剣戟の音を響かせながら、ルナが離れていく駆け足の音がして……それを耳に入れながら、俺は手から放つ光をさらに強くしていく。
「無駄だと言ったはずです。あなたらしくもないですね」
「いや、これでいいのさ」
俺の言葉に、それまで無表情だった女の眉が訝しげにひそめられる。
「おまえの影魔法は確かに俺の光魔法の魔力を吸収して、強く巨大になるらしい。だが、それに限界はないのか? いやそんなはずはない。必ず限界はあるはずだ」
「……! まさか……⁉」
俺は不敵な笑みを浮かべて、手にまとった光の出力を上げていき、
「光魔の魔力を吸い取るってんなら、思う存分吸い取りやがれ!」
そして俺の魔力を吸って巨大化していった影のドームは、周囲を取り巻く風の結界に触れるか触れないかのところまで巨大化すると、空気を入れすぎた風船のように、耳をつんざく衝撃音を響かせながら破裂した。
「まさか……これほどとは……」
驚愕に目を見開く表情を初めて見せるヨナに、
「これが俺らしさだ!」
人指し指をつきつけながら、俺は言った。
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