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第一部 始まりの物語

第二十話 『ミストルテイン』

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「行くぞ」


 地面を蹴って、サムソンがこちらへと飛び出してくる。
 くっ……⁉
 振り抜かれた斬撃をバックステップで避けつつ、俺は叫んだ。


「待て! なんで俺たちが戦う必要があるんだよ⁉」
「言っただろ、僕ときみのどちらが強いのかはっきりさせるためだと」
「だからなんでそんなことする必要があるんだ⁉」
「分からないのか?」


 言いながら、サムソンはまたもこちらへと猛スピードで迫ってきて、剣を振り上げた。
 くそっ!
 それを防御するための光の盾を作ったとき、一瞬にしてやつの姿が目の前から消える。


「瞬身斬」


 刹那、声が背後から聞こえた。


「っ!」


 振り返る余裕はない。俺は真横に跳び、側転するように地面に片手をついて、くるりと回りながら、背後から振り下ろされた斬撃をギリギリで回避する。


「さすがだ、シャイナ。いまの一撃がかすりもしないなんて」


 いまのはサムソンが使う剣術の一つだ。目にも止まらぬ速さで瞬時に移動し、相手を斬り裂く。
 俺が避けられたのは、ただ単にやつのこの技を知っていたからに過ぎない。初見なら、完全な回避はまず無理だろう。


「……本気で殺す気かよ」
「きみならこれくらいじゃ死なないことは分かってるさ。それに死なない限りは、エイラに治してもらえる」


 無茶苦茶なこと言いやがる。


「不意打ちもしないんじゃないのかよ」
「それはあくまで空間転移魔法に関してだ。これはただの技術だよ」
「……ハッ、目の前で消えるくせに、ただの技術で済ませんなよ」


 相変わらず人間離れした剣術してやがる。


「ウォーミングアップはこれくらいにして、そろそろ本気でいこうか……『エレメントエンチャント』」


 属性付与魔法。魔法剣の基本的な戦術だが、サムソンの場合は炎、水、土、風の四つを一度に付与し、状況に応じて自由に使いこなすことができる。


「炎風双連斬」


 サムソンが業火をまとった剣を振り抜き、その業火の剣筋が二本、俺へと迫ってくる。


「くっ……⁉」


 慌てて俺は身を伏せて一本目を回避し、続く二本目をさっきのように側転するようにしてかわす。背後で炎の剣筋が小さな丘を焼き斬ったとき、俺の目の前にやつがいた。


「氷瞬四身斬」


 その瞬間、前後左右、四つの方向から氷の斬撃が迫ってくる。


「くそっ!」


 とっさに俺は地面を蹴って上に跳ぶが、


「瞬身流星斬」


 背後からサムソンの声が響く。これは相手の上空から無数の小隕石を落とす技だ。俺は振り向き様に手をかざし魔法陣を展開させて、


「『グロウアローズ』!」


 その手の魔法陣から無数の光の矢を撃ち出して、降りかかる小隕石群を相殺させていった。


「やっぱりこの程度じゃ、傷一つ負わせられないか」


 互いに地面に降りたって、やつが言う。


「でも負けるわけにはいかないんだ、僕は……!」


 地面を蹴ってサムソンが迫ってくる。他のやつならいざ知らず、いくらなんでもサムソン相手に近接武器なしというのはきつすぎる。


「『ライトブレイド』!」


 俺は手に光の刃を作り出すと、斬りかかってくるやつの刃を受け止める。


「なんでだサムソン! なんでどっちが強いのか、はっきりさせる必要があるんだ⁉」


 右、左、上、下、背後、正面突き……縦横無尽に降りしきる刃の雨を、ときにかわし、ときに光の刃で防ぎながら俺は叫ぶ。しかしやつはその斬撃の雨をやめようとはしない。


「逆に聞こう! なんできみはそんなに強いのに、いつまでもFランクで満足しているんだ⁉」
「……!」


 あらゆるものを焼き尽くす業火の刃、全てを凍てつかせる氷の剣、はるか彼方まで斬り刻む風の太刀、大地の形を変える土の猛攻……。
 それらによって周囲の荒野は、あるところは焼き払われ、あるところは氷に閉ざされ、あるところは鋭い傷跡を残し、あるところは地面に亀裂が入っていく。
 剣術だけでも人間離れしたやつが魔法剣を扱うということは、ここまで周囲の様相を変貌させてしまうんだ。


「僕はAランクだ! だがきみは最低ランクのFランクだ! 本来なら、僕はきみに負ける道理はないし、闘いにすらならないはずなんだ!」
「……っ」


 やつの言っていることも、言いたいことも分かる、分かっているつもりだ。


「答えろシャイナ! なぜランクを上げようとしない⁉ なぜ……僕と本気で闘おうとしないんだ⁉」


 荒野に広がる業火が周囲を照らし、同じく広がる氷原がその明かりを反射して煌めいていく。


「決闘を始めてから、きみは守ることしかしていない! 本気を、全力を出せ、シャイナ!」
「……っ」


 やつの顔は怒りに似た感情に満ちているのに、その声は悲痛に似た響きをまとっていた。
 叫ぶやつに、俺は答える。


「……追放されたとはいえ、おまえは俺の仲間だったからだ……それに、俺にはおまえと戦う理由がない」


 それを聞いて、やつがつぶやく。


「……そうか……」


 サムソンは一度攻撃を止めると、バックステップで距離を取り、剣を高く掲げた。


「なら、本気を出させてやる……『マクスウェルフォース』!」


 その剣身に四元素の力が集約されていき、まるでオーロラのような神秘的な輝きをまとっていく。


「構えろ、シャイナ。きみも本気を出さないと、本当に死ぬぞ」
「……」


 ……俺は静かに手をかざす。


「『……我が名はシャイナ。光魔を導く者なり。我が眼前に対峙する者を退けよ……『ミストルテイン』」


 その手の先に眩い輝きに満ちた魔法陣が展開され……。


「うおおおおっっ!」
「……」


 サムソンが雄々しき猛りとともに剣を振り下ろし、俺は静かにそれを見据えて……そして二つの輝きは放たれて、激突した。



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