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第百二十一話 我が名はベルゼー
しおりを挟むロウが持っていたのは発光玉だったのかと、とっさに地面に伏せるルタが察した瞬間。
「これは対魔の光か……⁉」
それまで聞いたことのない第三者の声が響き渡り、ルタとロウの目に、閃光のなかに現れる一つの影が映り込む。その影は、まさしくニーサの足元にある影から出現したモノだった。
閃光がやみ、地に伏せるルタとロウがニーサのほうを見やる。ニーサもまた気絶したように地面に倒れており、そしてそのそばに一つの存在が現れていた。
「おのれ、ぬかったわ……っ! まさかこんなもので姿を見せる破目になるとは……っ!」
頭に二本の角、耳の先は尖っており、腰には黒くて長い尻尾が生えている。はたして衣服と呼んでいいのか、人間が着るものとは明らかに異質な格好をしていて、胸や腰回りの露出度はやけに高い。
長い髪と瞳の色はワインレッドであり、ともすれば鮮血を浴びたような印象を受ける。背には禍々しい形状の小さな羽根が生えていて、それらの見た目から人間でないことはおおよそ察せられた。
「「……悪魔……」」
現れた存在にルタとロウが小さくつぶやく。おやっさんも口走っていた。人間とは異なる、人間を超越した異質な存在。
はたしてそれにも性別というものがあるのかは分からない。ただ少なくとも、目の前に現れた悪魔は、人間でいうところの妖艶な女の姿をしていた。
「ふむ、悪魔か。確かに、うぬら人間共に言わせれば我輩は悪魔であろうな」
気持ちを切り替えたように不遜な態度をする悪魔に、ルタとロウはすぐさま身体を起こして臨戦態勢を取る。ロウが小さくつぶやいていた。
「まさか本当にいたなんて……店長さんから渡された対魔光弾であぶり出せたけど……」
ルタが発光玉だと思ったのは、対魔光弾と呼ばれるものだった。魔物を始めとした魔のモノに効力を発揮し、武器としてぶつければダメージを与え、発した光に曝せばその正体を暴くことができる。
「人間というものの成長ぶりには目を見張るな。ほんの数百年ほど前は我らの足元にも及ばなかったのにの」
時代がかったしゃべり方に、数百年という言葉。あるいはこの悪魔はそれだけの長い時を生きているというのだろうか。
「我が姿を暴いた褒美だ、教えてやろう。我が名はベルゼー。魔界の悪魔が一である」
「「……ベルゼー……」」
瞳を鋭くさせてルタが言う。確信を持った口振りで。
「てめえがすべての元凶ってことでいいんだな。半年前にメディ達を殺したのも、いま起きている通り魔事件も、そしてニーサさんを操っているのも」
「半年前?」
一瞬、悪魔は首を傾げると、思い当たったように。
「おお、あのマズイ人間共のことか。まったく、いったい何を食えばあんなにマズくなるのだろうな」
「「……っ……」」
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