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第九十九話 それ以外は

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「で、まあ、追い出されたあと、おれは一人でギルドのクエストを受けて、日銭を稼ぐ生活に戻っていったってわけさ。金が上手いように稼げないときは、糊口をしのぐために狩った魔物の肉を食ったりもした」
「…………それが始まりですか……」

 食べたいからとか好きで食べ始めたわけではなく、腹を満たすために、生きるために魔物の肉を食べ始めた。おそらくは彼も最初は抵抗があったはずだ。

「まあ、最初はかなり迷ったぜ。もしなんか変な病気にでもなったらどうしようとかな。だが、背に腹は代えられねえってな。いや腹が背になりそうだった、って言ったほうが合ってっかな?」
「…………」

 空腹のせいでお腹が背中にくっつきそうだった、と彼は言いたいのだろう。いまでこそ、そんな半ば冗談めいたふうに言っているものの、当時はそれなりの決心を要したはずだった。

「いまも貧乏なのは変わらねーけど、おやっさんがやってるこの店に来れるくらいには稼げるようにはなったからな。前よりは強くなったから、報酬のいいクエストが受けられるし」
「……でもランクは上げないんですね」
「それは言うな」

 彼は苦笑いをする。いまの生活も苦労はしているが、そこそこ楽しいというふうに。
 ロウは話を促した。

「……話の続きをお願いします。流れから察するに、ルタさんが抜けたあとで失踪者が出たんですよね」
「……ああ」

 真面目な顔に戻って彼はうなずいた。

「それをおれに知らせに来たのは、最後に残った奴だった。一人目がリーダーで、金を持ち逃げしたことに二人目が憤慨した書き置きを残したってな」
「でも残った人がそれをルタさんに言いに来たってことは……」
「ああ。そいつは一人目の理由も二人目の理由にも納得していないみたいだった。横領がバレたらヒドイ目に遭うのに、リーダーにそんなことする度胸はないとか、二人目が書き置きだけ残して消えるわけがないってな。絶対に自分にも協力させてリーダーのことを地の果てまで追っていくはずだって」
「……ある意味、仲間のことをちゃんと分かっていたんですね」
「ある意味な」

 皮肉を込めるように口の端をつり上げながらルタは応じる。奴らには奴らなりの仲間意識があったのだと。

「……そして、最後に残った人もいなくなってしまった……」
「ああ」

 ロウの言葉にルタが小さくうなずく。

「最後に残ったそいつがおれのところに来たのは、もしかしたらリーダーや二人目がおれのところに来たんじゃないかって思ったからだそうだ。リーダーは追っかけてくるそいつらから守ってほしくて、二人目はリーダーのことをおれに聞きに来たんじゃ、ってな」
「でもどちらも来ていなかったんですよね」
「ああ。二人が失踪したこともそのとき知った」
「さっき官憲に話した内容も、そのとき聞いたことですね」
「おれがまだパーティーにいたふうな話し方にはなってたけどな」

 それ以外は本当のことということだ。

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