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第五十九話 すみませんでした
しおりを挟む通り魔が殺し屋かもしれないという推測は、ルタのデバフを受けても機敏に動けるほどの身体能力を有していると思われるから。
その殺し屋がルタを標的にしているという推測は、ルタ自身が言ったように、彼が昨夜の襲撃で先に狙われたから。通り魔として襲うのなら、彼よりも弱いと見られるロウのほうを先に狙った方が殺せた可能性が高かったのにもかかわらず。
しかし、それ以外の根拠はまったくないことは確かだった。またその二つの推測ですら当たっているとは限らないのも確かであり……。
「そんな憶測や妄想の域を出ないもんを官憲に話したところで、おっさん達を困らせたり捜査の邪魔をしちまうだけだって。最悪、その憶測に振り回されて、あの通り魔に逃げられて迷宮入り、なんてこともあり得るかもしんねーし」
「それは……」
彼の言うことにも一理ある。だがそれでもロウは。
「けど、万が一ってこともあります。もしも官憲に言わなかったせいで、ルタさんが危険にさらされて、死んでしまったら……っ」
「え、なに、おれのこと心配してくれてんの?」
「当たり前じゃないですかっ。だって……」
彼女がその先を言おうとしたとき、ルタがニヤリとからかうように言う。
「もしかして、おれに惚れたん? いままで助けてくれてカッコイイっ、好き好き大好きっ! って」
「…………っ」
その言葉に、思わず彼女は赤面してしまう。言おうとしていた言葉が頭から瞬間的に吹き飛んで、声を上げて否定していた。
「違いますっ! なんであたしがっ! うぬぼれないでくださいっ!」
そして頭に戻ってきた言葉を言う。
「あたしは、誰かが死んだり殺されたりするのが嫌なだけですっ! あたしが知っている人や、いい人なら特にっ! たとえあなたみたいにいつもひょうひょうとしていて、なに考えてるか分かんなくて、ちゃらんぽらんにしか見えないような人だとしてもっ!」
真面目に心配していたのに、からかうように言われてしまい、恥ずかしさと怒りで顔を赤くしてしまった。
そしてルタ自身もさすがにふざけすぎたと思ったのか、真面目な顔つきになって。
「……いや、悪い……まさかそこまで怒るとは思わなかった……悪かった……」
謝って、それから気まずさで目をそっとそらしてしまう。
いままで見せたことのない、本当に反省した様子を見て、ロウも沸騰していた頭が冷静に戻っていくのを感じていた。彼と同じように目を少しそらしながら、口から声を出す。
「いえ、その、あたしもすみませんでした、いきなり怒鳴ったりして……でも、ただあなたのことが心配なのは本当で……だから、その……」
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