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第五十四話 町の景色
しおりを挟む「今日もいい天気ですなあ。町の人々もいつも通りで、本当に事件が起きているとは思えないくらいですなあ」
馬車の窓から流れ行く町の景色を眺めて、サージが独り言のようにつぶやく。ルタとロウも窓を覗き込み。
「確かにな」
「……ええ」
男の言葉に相槌を打った。
町の景色自体はいつも見慣れているものと変わりはなく、昨夜の体験がなければ特に感慨に思ったりはしなかったかもしれない。しかし、昨夜の事件のあとに、および男の言葉を聞いてから改めて見ると、いつもとは違った印象を受けたのも確かだった。それには馬車のなかから見るという、いつもとは異なる視点も関係しているかもしれない。
ふとロウは思ってしまうのだ。
(平和そうに見えるこの町に、あの通り魔がいる……もしかしたらいますれ違っていく人達のなかの誰かがそうで……また今夜誰かを襲うかもしれない……)
自分達のときはルタのおかげでたいした怪我もせずに済んだ。だが、次に襲われる人はそうとは限らない。殺されたり重傷を負うかもしれない。
彼女と同じようなことを考えていたのだろうか、サージが口を開いて言う。
「ルタさん、ロウさん、私はね、この町に生まれてこの町で育ってきた。だからこの町が好きだし、事件を起こす悪い奴を捕まえるために官憲になった」
「「…………」」
「今回の通り魔に関しても、実は最初の事件から捜査に参加してるんです。この町の平和を守るために、絶対に捕まえてやるってね。…………」
と、そこで男は我に返ったように、二人に照れ隠しのような笑いを浮かべる。
「ははは……こりゃ失礼。お二人には関係ないことでしたな。いきなりこんな話をされても困るでしょうし、迷惑なだけでしょう」
「…………」「…………」
それからサージは顔つきをベテランの官憲のそれに戻すと、真剣な雰囲気を漂わせながら。
「現場に着くまで多少時間が掛かりますし、その間に事件についてもう一度話を聞かせてもらえませんか」
「……いいぜ」「……あたしも」
そして、昨夜の事情聴取で話したことではあるが、彼らは事件のことについて話し合った。
約十分後。
昨夜の現場に到着し、ルタとロウ、サージの三人が馬車から降りる。捜査中だったのだろう、現場には数人の官憲がいて、様々な道具を用いていろいろと調べていた。
「やあ、どうだ?」
サージが彼らに近付いて進捗を尋ねるが、彼らは首を横に振るだけだった。犯人の特定に至るような手掛かりはまだつかめていないらしい。
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