上 下
34 / 131

第三十四話 ソワソワ

しおりを挟む

 おやっさんが店内を忙しそうに動いている店員の一人に言う。

「ニーサ、客だ。あいてるテーブルに案内して注文を聞いてこい」
「はーい、ただいまー」

 言われた女性店員が入口にいる二人へと早足で向かっていく。……と、来客が二人であることに、特にルタがいることに気付いた彼女はパアッと顔を輝かせると。

「あ、ルタさんじゃないですかっ」

 心底からうれしそうな声を出した。
 その女性店員は昨日の騒ぎでルタが助けた人であり、それに関して彼女は彼に恩を感じているようだった。

「うれしいですっ。また来てくれたんですねっ」
「あ、えーっと、まあ、行きつけの店だし?」
「あはは」

 ルタの言葉に、ニーサはうれしそうな笑顔を浮かべる。特に面白いことを言ったわけでもなかったが、彼女にとってはそれでも楽しいことだったらしい。
 対してルタのほうはというと、さっきまでのひょうひょうとした自然体の態度はどこへやら、ソワソワとどこか落ち着かない様子だった。

「えーっと、ニーサさん? あいている席に案内してもらっても?」
「あ、はい、そうでしたね。こちらです」

 店員としての対応を思い出したらしく、彼女は二人の前に立って、入口から少し離れた場所のあいていたテーブル席へと案内していく。

「こちらになります」

 二人が向かい合って座るのを待ってから、メニューが書かれたリストを二人に手渡して。

「こちらメニューになります。ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」

 そう言って頭を下げると、ニーサは他の作業をするために去っていった。
 彼女が離れたのを見てとって、ルタが安心したというようにホッと息をつく。

「やれやれ……んじゃ、なに食おっかなー」

 ついさっきまでの緊張したような感じはどこへやら、またひょうひょうとした雰囲気に戻って、楽しそうにメニューを眺めている。ニーサがいるのといないのとであまりにも態度が違うことに、疑問を覚えたロウが彼に聞いた。

「なんか、どうかしたんですか?」
「え、なにが?」

 ウキウキとメニューに視線を落としながら彼は聞き返す。質問の意味を分かっていないみたいだったので、ロウは続けて。

「だから、ニーサさんのことですよ。彼女と話すときだけ、あからさまにぎこちなくなってるじゃないですか」
「へ、そうか?」
「そうですよ。なんか、官憲に職務質問される不審者みたいですよ、はたから見てると」
「不審者とは失礼なやっちゃなー」
「実際にそう見えるんですから。なんで彼女だけ、そうなるんですか?」
「え、あ、あーっと……」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
電車をおりたら普通はホームでしょ、だけど僕はいつもの電車を降りたら異世界に来ていました 第一村人は僕に不親切で持っているものを全部奪われちゃった 服も全部奪われて路地で暮らすしかなくなってしまったけど、親切な人もいて何とか生きていけるようです レベルのある世界で優遇されたスキルがあることに気づいた僕は何とか生きていきます

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...