天使がねたあとで

にあ

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☆side-she☆


                     『back 1』



「残念だったな、あいにくの天気で」

目の前に広がる灰色の海と今にも泣き出しそうな真っ暗な空を交互に見ながら彼が言った

「いいの、べつに泳ぐわけじゃないし」


9月最後の日曜日


久しぶりに彼のアルバイトが休みなので、『午後からどこかに出かけないか』と誘われて

「えっとね、海!海が見たい!」

なぜか咄嗟に頭に浮かんだのは秋の浜辺でのお散歩デート、だったのだけれど


「風も出てきたし、ここからしばらく眺めたら戻ろう」


電車を乗り継いでやって来た海岸沿いの遊歩道を、手をつないで歩くだけでもわたしはすごく楽しいのだけれど

「ごめんね、せっかくのお休みにわがまま言って」

「いや…天気が悪いの差し引いても、やっぱり海は気持ちいいな」

「ほんとに?無理してない?」

「してねぇよ」

風で乱れたわたしの髪を優しく指で梳きながら立ち止まった彼は、目を細めるようにしてじっと水平線を見つめている

「なにか見えるの?」

「早く海の向こうでも試合出来るくらい強くなりてぇなぁ、って思って」

「試合って、ボクシングの?」

それって、つまり世界チャンピオンを目指してるってことだよね

「まだ日本ですらタイトル取ってねぇのに、何言ってんだって感じだけどな」

少し自嘲気味につぶやいた瞳には強い光が宿っていて、胸が高鳴るのを抑えられなくなったわたしは思わず彼の背中にしがみついた

そう言えば

出会ったばかりの中学生の頃


臨海学校で訪れた海辺の古い宿舎から彼に連れ出され、夜の海を見ながらこんな風に背中にくっついてドキドキしたこともあったっけ
 

「その時はわたしも連れて行ってね」


あの時とは比べものにならないくらいたくましい背中に顔を埋め、思い出に浸っているわたしに彼は呆れたような声を上げた

「ついて来なくていい。戦う時はひとりなんだし、ちゃんと帰って来るから…おまえはここで大人しく待ってろ」

「えっ?」

「ガキじゃねぇから、保護者の付き添いなんか必要ないってこと」

ポツポツと降り出した雨の中で、わたしの腕をほどいてこっちを向いた彼は耳元でそう囁いて

「雨も降って来たことだし、ちょっとついて来て欲しい場所がある」

持って来た唯一の折りたたみ傘を広げながら、はにかんだ笑顔で空を見上げた




※次回に続きます

































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