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プロポーズ 2 『織姫』
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『織姫』
朝のニュース番組によると
今夜は年に一度しか会えない夫婦が夏の夜空で再会するらしい
馬鹿馬鹿しい
そんなの夫婦って言わねぇだろう
「いらっしゃいませ」
ピカピカに磨かれた自動ドアが開くと同時にエアコンの冷気とそれに負けないくらい涼し気な声に迎えられ、今までに感じたことのない緊張感に襲われた
駅前の大通りに面した宝石店は、平日ということもあり客はほとんど見当たらず
すぐに近寄って来た若い女性店員が丁寧な口調で話しかけて来た
「いらっしゃいませ、本日は何をお探しですか?」
「えっと…」
ここまで来たら覚悟を決めるしかないと、意を決してカラカラになった喉から言葉を絞り出した
「指輪が、欲しいんです」
彼女とずっと一緒にいたい
そんな気持ちが強くなり始めたのはたぶん、高校を卒業した頃からだろう
会おうと思えばすぐに会える距離に住んでいるとはいえ、バイトをしながらプロボクサーとして試合やトレーニングをこなす生活は学生時代以上に忙しく
せっかくアパートの部屋を訪れてくれても両親の待つ家に帰さなければいけない恋人と、もっと同じ時を過ごしたいと思っている自分自身に気がついた
とはいえ
結婚はままごと遊びではない
ほんとうに彼女を幸せにすることが出来るのか、この数ヶ月自問自答を繰り返した結果
出来るか出来ないかではなく、何があっても幸せにしたいという気持ちを抑えられなくなり
もうすぐやって来る、彼女の誕生日にプロポーズすることを決意した
まずは
「プレゼントでらっしゃいますか?」
7月の半ばに予定されているジムの合宿までに婚約指輪だけでも探しておこうと下見に来たのだが
「ええ、まぁ」
勝手がまるでわからない
「お誕生日のプレゼントでしたら、誕生石のリングはいかがですか?」
誕生日に渡すことに違いはないが
「一応…婚約指輪にしたいと思って」
小さな声でそう告げた途端
「まぁ、おめでとうございます」
さっきまでのすました営業スマイルから、満面の笑みに変わった店員の言葉に焦ってしまう
「いや、まだ決まった話ではなくて」
察しがいいのか、こういうシチュエーションに慣れているのか
「かしこまりました。サプライズで渡される、ということですね」
こちらの予算や渡す時期、彼女の年齢や雰囲気をサクサクと聞きだすと
「こちらなんていかがでしょう?」
良い感じに可愛いらしく彼女に似合いそうな指輪を選んでくれ、ほっと胸を撫で下ろした
ただ、問題は
「指輪のサイズはおわかりになりますか?」
それだ
「なんとなく、だいたいは…」
なんならこの店員の指とほとんど変わらないようにも思えたのだが
「だいたい、ではピッタリ合う物がご用意出来ませんのできちんとしたサイズを測って来ていただきたいのですが」
だよな、でも
「できれば、彼女には内緒で用意したいので」
どうすりゃいいんだ?
「ご心配はいりません」
何かいい方法でもあるのだろうか
「お相手の方が眠ってらっしゃる時に、薬指にメジャーを巻いて測っていただければ大丈夫です」
はぁ?
※次回に続きます
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