天使がねたあとで

にあ

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⭐︎side-she⭐︎





数日後


サラちゃんが言っていた通り、修学旅行から帰ったハルくんがお土産のお菓子を届けてくれた


「ありがとう、旅行は楽しかった?」


「うーん、お寺巡りばっかで退屈だった。でも、旅館のご飯は美味しかったよ」


「そっかぁ、ところで今日はサラちゃんは一緒じゃないの?」


「サラのやつ、昨日から風邪引いてんだって。母さんにうつすといけないから当分ここには行くなって、父さんが」


「えっ!?」


「あっ、でも大したことないから心配しなくていいよ」



わたしは、ほんとうに情けない母親だ



息子の修学旅行の準備もしてやれなければ、風邪をひいている娘の看病もしてやれない



あの日から5年



7歳と3歳だった兄妹は12歳と8歳になり



ふたりともわたしが産んだとは思えないくらい賢くて優しい子に成長しているのは、きっと父親であるあの人がとても大切に育ててくれているから…だよね?


ぱっと見はちょっと怖い感じがするけど、とても繊細で思いやりのある人なんだってことはわかってる


それでも『彼』と会うのが苦痛になってしまったのは、ただただ申し訳ないからに他ならない


だって


8年間も交際して結婚した初恋の相手を全く覚えていないなんて、わたしが相手の立場だったら辛過ぎるもの
 

でも、さすがにこれ以上こんな状態を続けるわけにはいかないのかもしれない


子どもたちのためにも


『彼』のためにも


そんな決意をして、窓の外の葉桜を見上げていたわたしに


「あの、コレ…」


ハルくんが躊躇いがちに、何か小さなものを差し出した


「なあに、それ?」


「ミカンが庭を掘ってたら出てきたんだ」


み、みかん?


「近所で飼われてる黒猫なんだけど、たまに脱走してうちに来るんだ。前にサラが食べ物をあげたからだと思うんだけど」


「猫?」


その猫ちゃんが掘り出した物って、いったい…


「母さんのだよ。昔、クリスマスに父さんがプレゼントしてたのを覚えてるんだ」

 
そう言って手渡されたのは
 

「これって?」


「髪飾り…バレッタっていうんだっけ?ずっと庭に埋まってたみたいで金具の部分は錆びちゃってるけど、これでも洗ってきれいにしたんだよ」


真珠がついた、とっても素敵な髪飾りで


「やっぱり、思い出せない?」


泣きそうな表情でわたしを見つめているハルくんに、なんて言えばいいのか悩んだのだけれど


「ごめんなさい…」


どう頑張っても、記憶は蘇りそうになかった


ただ


手のひらに握った瞬間、胸の奥にじわっと温もりが広がっていくのを感じて


「ハルくん、お願いがあるんだけど」


「えっ?」


「お父さんに、わたしが会いたがってるって伝えてもらえる?」

 




※次回に続きます














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