天使がねたあとで

にあ

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red 8

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☆side-he⭐︎




これは


はたして、ただの偶然なんだろうか


「えっ…と?」


俺と桜井を交互に見つめて説明を求めている彼女に先に話しかけたのは


「お久しぶりです奥様。以前、祝勝パーティーの席でご挨拶させていただいた東西スポーツの桜井です」


「あっ、あ…すみません。わたしったら物覚えが悪くって。主人がいつもお世話になってます」


「いえ、こちらこそ。先日も無理を言って雑誌の取材を引き受けていただいて、ほんとに助かりました」


「やだっ、そうだったんですね。主人はそういうこと、あまり教えてくれないから」


女ふたりのギクシャクしたやりとりに耐えられず、娘を片手で抱き上げ彼女の腕を取り先を急ぐことにする


「もういいだろ、行くぞ」


「おかあさん、お腹空いた。フードコートで何か食べようよ」


7歳の息子も、知ってか知らずか助け舟を出してくれたおかげで


「そ、そうね。では、失礼します」


なんとかその場を離れようとした時


「そうだ、先日話した『お願い』のことなんですけど…」


桜井が俺を引き留め、彼女の目の前で面倒な頼み事をし始めた



その夜



「ねぇ、行ってあげるんでしょ?っていうか行ってあげて」


子どもたちが寝た後、ソファでテレビを見ながらくつろいでいると


パジャマ姿でハーブティーを持って現れた彼女が真剣な顔で迫って来た


「いや、それは…」


「お願いだから」


昼間、桜井から聞いた話を真に受けている彼女には何を言っても無駄だろうが


病気がちで近々大きな手術をする小学生の甥っ子が、俺の大ファンで会いたがっている…などというあからさまな作り話をこんなに簡単に信じてしまうなんて


「よく今まで詐欺に引っかからずに生きてこれたよな」


「えっ?」


「なんでもない。わかった、行ってやるよ」


ガラスのティーカップに入れられたハーブティーを飲み干しながら覚悟を決めた


鈍感な俺でもはっきりわかるほどのモーションをかけられること2年以上


今までも散々食事や飲み会の誘いを断って来たが、彼女の純真さを利用するようなマネをした今回だけは看過できない


「良かった、その子もすごく喜ぶだろうし手術もきっと頑張れるんじゃないかな」


「…そうだな」


彼女の手から飲みかけのティーカップを取り上げテーブルに置くと


「あなた?」


漆黒の美しい瞳に吸い込まれるように


「んっ」


爽やかなハーブの香りがするキスに酔いしれていった






※次回に続きます
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