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瑠色と寝た男1
ハヤト・20歳*1
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振り返ると、そこに立っていたのは、小柄で黒目がちなかわいい男の子だった。
もしボクに興味アリで声をかけてきたのなら、今晩のお相手はこの子に決まりかな。
そんな感じで、割とドンピシャな子だった。
「一人だよ?」
「…お隣、いいですか?」
「もちろん。キミみたいにカワイイ子なら、大歓迎」
ニコッと笑ってみると、その子は恥ずかしそうに俯いた。
どうやら、これはボク狙いとみて間違いないね。
「ボクはルイ。キミの名前はなんていうの? あ、もちろん本名じゃなくてもいいよ?」
「は…隼翔、ハヤトです」
「へえ! カッコイイ名前だね」
ハヤトは手元にボクと同じカクテルグラスを持っている。
「いくつ?」
「あっ、二十歳です…」
「そっか。じゃあ、大丈夫だね。一杯奢るけど、飲める?」
「あっ、はい。…ルイさんは、おいくつですか?」
「ボク?」
カクテルをオーダーしつつ、指をピースの形に出して、
「22歳」
と答えると、ハヤトは少しびっくりした顔をしていた。
「予想より低かった? ボク、割と老けてるかんじ?」
あはは、って笑うと、ハヤトは首を振って、
「そうじゃなくて、すごく落ち着いて見えるから…。ここも、慣れてるみたいだし…」
と言った。
「そうだね、ここは慣れてるかも。常連さんだもん。ね、ママ?」
ボクはカウンターの中にいるママに声をかける。
「そうねえ、毎週居るから常連さんね。あ、ハヤトちゃん気を付けなさいよぉ? そのコ、かなりアレなコだから」
余計な一言まで添えて返ってきた。
「ちょっと、ヘンな事言わないでくれる!? そんな風に言われる筋合いはないよ!」
「まーァ、どうだか!」
カクテルが2つ、サーブされてくる。
ハヤトはカクテルグラスの縁をなぞりながら、ボクに視線を流してきた。
まるで、誘うみたいな、色っぽい視線だ。
「ん? ママの話、信じた?」
ボクがそう聞き返すと、ハヤトは少し口元に笑みを浮かべて、
「…ルイさんって、どういう意味で【アレ】なんですか?」
と聞いて来た。
ママが言うのは間違いなく『誰とでも寝る』ってヤツだと思うけど…。
ボクの口からそれをわざわざ話題にするのも嫌だったし(間違ってないけど間違ってるし)、意味ありげな感じで笑って流してみようと思ったんだけど、ハヤトはどうやら流させてくれるつもりはないようだった。
「とある人から聞いたんですけど、僕の見た目、ルイさんの好みだって」
うつむきがちだったが、はっきりと聞き取れる言葉でハヤトは言った。
先を促す様に首をかしげると、ハヤトはボクの方にスッと近づいて来て、
「…もし、僕がルイさんの好みだったら、今夜、お持ち帰りしてくれませんか?」
と、甘えるように囁いて来た。
ハヤトのその言葉には少しの恥じらいが含まれていた。
人を誘うのって、やっぱり恥ずかしい。しかも、相手が男で、更に自分が抱かれる側になるという誘い文句ならなおの事だ。
緊張と不安に、ドキドキした感じが加わって、答えを待つ間の高揚感。そう言ったものが、ハヤトの声や息遣いから感じられる。
この瞬間、ボクは最高にゾクゾクする。イエス・ノーを待つ相手の表情が、ボクの一言で変わるんだ。
ボクが答えを出すまでの間、相手を支配している。この感覚を味わいたくて、毎回、相手から誘われるのを待ってしまうのだ。
「そうだなあ…」
ハヤトが、ごくりと喉を鳴らした。その様子にまた煽られるような気持ちになる。
黒目がちな瞳が、ゆらゆらと不安に揺れている様に見えるのが、たまらない。
もう少しじらしてもいいのかもしれないけど、あまりやりすぎるとせっかくボクを選んでくれた相手が可哀相だから、返事した。
「いいよ」
短い返答に、ハヤトはパッと顔を輝かせた。
「本当ですか…!」
「うん。ハヤト可愛いし。今日は、ビビッと来る相手が見つからなくてもう少しで帰ろうとしてたとこだったからさ。ハヤトみたいに可愛い子に声かけてもらって、ラッキーかなって」
帰ろうとしていたのはウソだけど、こういうウソも気持ちを盛り上げる為には必要だ…と思う。
「かわいいだなんて、そんな」
「謙遜しなくていいよぉ。ボクが可愛い子好きって聞いて、自分ならイケるって声かけてきたんでしょ?」
意地悪のつもりでふふっと笑ってやると、ハヤトはとたんに顔を赤くして手をパタパタと振った。
「そ、そんなんじゃないです。ただ、…何度かここでルイさんを見かけて…、いつも声をかけられないでいたら、他のお客さんに…僕なら大丈夫って言われたんです。だから、今日…もし会えたら、絶対、声をかけてみようって、思ったんですよ」
「そんなにボクの事、気にしてくれてたの? なんだ、勿体ない。もっと早く声をかけてくれたらよかったのに」
ボクがママにお酒の支払いをしていると、ハヤトが財布を出そうとしていた。
「いいよ、ここは。ボクが出してあげる。さっき奢るって言ったでしょ?」
「一杯、おごってくれるとは言われましたけど…っ、全部なんて申し訳ないです!」
「そんなたくさん飲んだ?」
「いえ…、全部で2杯です…」
「じゃあ別会計めんどくさいから全部払うよ」
「でもっ…」
引き下がらないハヤトに、ボクは少し意地悪な考えが浮かんだ。
ハヤトの耳元に近づいて、
「これから行くトコで、ボクにいーっぱいサービスしてくれたら良いからさ」
と甘く囁いてやった。
やっぱりハヤトは真っ赤になって、ボクを見上げている。
「ね?」
カードを差し出しながら見たママの顔は、心の底から『このやろう』と思っている表情だった。
ボクはママにウィンクを一つ飛ばす。
「ハヤトちゃん、ほんと気を付けなさいよ!」
レシートを渡しながら、ボクをにらみつけつつ、ハヤトに忠告をするママ。
「ボクの噂知ってて声かけてきてるんだろうから、平気だよ。ね、ハヤト」
「はい…」
こっくり頷くハヤトに、ママはひょいと眉毛を上げて溜息をついた。
バーを出て、ネオンきらめく夜の街を、ボクとハヤトはホテルを目指して歩いて行った。
もしボクに興味アリで声をかけてきたのなら、今晩のお相手はこの子に決まりかな。
そんな感じで、割とドンピシャな子だった。
「一人だよ?」
「…お隣、いいですか?」
「もちろん。キミみたいにカワイイ子なら、大歓迎」
ニコッと笑ってみると、その子は恥ずかしそうに俯いた。
どうやら、これはボク狙いとみて間違いないね。
「ボクはルイ。キミの名前はなんていうの? あ、もちろん本名じゃなくてもいいよ?」
「は…隼翔、ハヤトです」
「へえ! カッコイイ名前だね」
ハヤトは手元にボクと同じカクテルグラスを持っている。
「いくつ?」
「あっ、二十歳です…」
「そっか。じゃあ、大丈夫だね。一杯奢るけど、飲める?」
「あっ、はい。…ルイさんは、おいくつですか?」
「ボク?」
カクテルをオーダーしつつ、指をピースの形に出して、
「22歳」
と答えると、ハヤトは少しびっくりした顔をしていた。
「予想より低かった? ボク、割と老けてるかんじ?」
あはは、って笑うと、ハヤトは首を振って、
「そうじゃなくて、すごく落ち着いて見えるから…。ここも、慣れてるみたいだし…」
と言った。
「そうだね、ここは慣れてるかも。常連さんだもん。ね、ママ?」
ボクはカウンターの中にいるママに声をかける。
「そうねえ、毎週居るから常連さんね。あ、ハヤトちゃん気を付けなさいよぉ? そのコ、かなりアレなコだから」
余計な一言まで添えて返ってきた。
「ちょっと、ヘンな事言わないでくれる!? そんな風に言われる筋合いはないよ!」
「まーァ、どうだか!」
カクテルが2つ、サーブされてくる。
ハヤトはカクテルグラスの縁をなぞりながら、ボクに視線を流してきた。
まるで、誘うみたいな、色っぽい視線だ。
「ん? ママの話、信じた?」
ボクがそう聞き返すと、ハヤトは少し口元に笑みを浮かべて、
「…ルイさんって、どういう意味で【アレ】なんですか?」
と聞いて来た。
ママが言うのは間違いなく『誰とでも寝る』ってヤツだと思うけど…。
ボクの口からそれをわざわざ話題にするのも嫌だったし(間違ってないけど間違ってるし)、意味ありげな感じで笑って流してみようと思ったんだけど、ハヤトはどうやら流させてくれるつもりはないようだった。
「とある人から聞いたんですけど、僕の見た目、ルイさんの好みだって」
うつむきがちだったが、はっきりと聞き取れる言葉でハヤトは言った。
先を促す様に首をかしげると、ハヤトはボクの方にスッと近づいて来て、
「…もし、僕がルイさんの好みだったら、今夜、お持ち帰りしてくれませんか?」
と、甘えるように囁いて来た。
ハヤトのその言葉には少しの恥じらいが含まれていた。
人を誘うのって、やっぱり恥ずかしい。しかも、相手が男で、更に自分が抱かれる側になるという誘い文句ならなおの事だ。
緊張と不安に、ドキドキした感じが加わって、答えを待つ間の高揚感。そう言ったものが、ハヤトの声や息遣いから感じられる。
この瞬間、ボクは最高にゾクゾクする。イエス・ノーを待つ相手の表情が、ボクの一言で変わるんだ。
ボクが答えを出すまでの間、相手を支配している。この感覚を味わいたくて、毎回、相手から誘われるのを待ってしまうのだ。
「そうだなあ…」
ハヤトが、ごくりと喉を鳴らした。その様子にまた煽られるような気持ちになる。
黒目がちな瞳が、ゆらゆらと不安に揺れている様に見えるのが、たまらない。
もう少しじらしてもいいのかもしれないけど、あまりやりすぎるとせっかくボクを選んでくれた相手が可哀相だから、返事した。
「いいよ」
短い返答に、ハヤトはパッと顔を輝かせた。
「本当ですか…!」
「うん。ハヤト可愛いし。今日は、ビビッと来る相手が見つからなくてもう少しで帰ろうとしてたとこだったからさ。ハヤトみたいに可愛い子に声かけてもらって、ラッキーかなって」
帰ろうとしていたのはウソだけど、こういうウソも気持ちを盛り上げる為には必要だ…と思う。
「かわいいだなんて、そんな」
「謙遜しなくていいよぉ。ボクが可愛い子好きって聞いて、自分ならイケるって声かけてきたんでしょ?」
意地悪のつもりでふふっと笑ってやると、ハヤトはとたんに顔を赤くして手をパタパタと振った。
「そ、そんなんじゃないです。ただ、…何度かここでルイさんを見かけて…、いつも声をかけられないでいたら、他のお客さんに…僕なら大丈夫って言われたんです。だから、今日…もし会えたら、絶対、声をかけてみようって、思ったんですよ」
「そんなにボクの事、気にしてくれてたの? なんだ、勿体ない。もっと早く声をかけてくれたらよかったのに」
ボクがママにお酒の支払いをしていると、ハヤトが財布を出そうとしていた。
「いいよ、ここは。ボクが出してあげる。さっき奢るって言ったでしょ?」
「一杯、おごってくれるとは言われましたけど…っ、全部なんて申し訳ないです!」
「そんなたくさん飲んだ?」
「いえ…、全部で2杯です…」
「じゃあ別会計めんどくさいから全部払うよ」
「でもっ…」
引き下がらないハヤトに、ボクは少し意地悪な考えが浮かんだ。
ハヤトの耳元に近づいて、
「これから行くトコで、ボクにいーっぱいサービスしてくれたら良いからさ」
と甘く囁いてやった。
やっぱりハヤトは真っ赤になって、ボクを見上げている。
「ね?」
カードを差し出しながら見たママの顔は、心の底から『このやろう』と思っている表情だった。
ボクはママにウィンクを一つ飛ばす。
「ハヤトちゃん、ほんと気を付けなさいよ!」
レシートを渡しながら、ボクをにらみつけつつ、ハヤトに忠告をするママ。
「ボクの噂知ってて声かけてきてるんだろうから、平気だよ。ね、ハヤト」
「はい…」
こっくり頷くハヤトに、ママはひょいと眉毛を上げて溜息をついた。
バーを出て、ネオンきらめく夜の街を、ボクとハヤトはホテルを目指して歩いて行った。
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