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瑠色と寝た男5
今までの男たち・5
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「…あっ、あの…じゃあ、駅まで一緒に歩かせてもらえませんか…?」
「えっ」
「…久しぶりに…ルイさんとお話ししたくて」
「いいけど、すぐそこじゃん?」
「それでもいいんです…」
ハヤトは、ボクへの好意を隠さない。小柄で、顔も可愛いハヤトにそういう対応をされたら、コロッと落ちる男はたくさんいるだろう。
でも今のボクは、向けられる好意を上手く交わすことも、はぐらかす事も出来ない。
自分の気持ちに素直になれないことを、当たるのは良くないと解っているけれど、余裕が無くてどうして良いのか解らない。
ハヤトは嬉しそうにボクの隣を歩く。
「ごめんね、ハヤト。本当はゆっくりしてあげたいんだけど…」
「いえ、ぜんぜん、気にしないで下さい! 会えたらラッキーくらいに思っていたので…」
「じゃあ、ラッキーだったんだ」
思わず笑ってそう言うと、ハヤトが驚くほど赤くなった。
「…ルイさんの、いじわる…」
顔を覆う様にして、ハヤトは俯いた。
…まずかったかなと思ったけれど、言ってしまったものは仕方がない。
「ごめん…」
「あっ、いえ、僕の方こそ、すみませんっ」
「なんでハヤトが謝るの?」
ハヤトが、ボクを見上げる。その瞳はゆらゆらとしていて、何か躊躇う様だった。
「…噂で…聞いたんです、今日…ルイさんの初恋の人の結婚式だって。それでその…きっと斜陽に居るとおもって…、あの…会えたら…愚痴とか…お酒付き合うのとか、したいなって…思ってて…」
慰めてくれるつもりでいたのか、とボクは少し申し訳ない気持ちになった。
「そうなんだ。ボクの事、慰めてくれるつもりだった?」
「…僕なんかに慰められるわけないのに…、すいません」
「そんな風に自分を否定しちゃダメだよ。気持ちはすごく嬉しいから貰っておくけど、…今日はごめんね」
ハヤトが首を振る。顔を覗き込んで、ボクは精一杯笑った。
「さすがにこの格好でホテル行くのは気がひけるし、それに…今日はハヤトのこと抱いてあげられる気分にならないと思うからさ」
ハヤトが今度は首まで赤くなった。こういう反応がボクにも出来たら…、とおもったけど、ボクがしたところで誰にも刺さらないだろうな。
「…僕がそういうことしたいと思ってるの、やっぱり解りましたよね…」
「まあ…あんなに熱っぽい視線送られたら気づいちゃうよ。でも、ごめんね…」
「あっ、ぜんぜん、気にしないでください! こうしてお話させてもらっただけで、良いです」
こんなに、真っ向から好意を向けられることに、驚いてしまう。
僕は良い人間じゃない。
こんな風に、ボクを慕ってくれるこの子を、かわいそうに思ってしまう。
自分が、彼に気を持たせているというのが解っているのに。
「…ごめんね、ハヤト。ほんと…ゴメン…」
ボクがしんみりと頭を下げると、ハヤトはボクの肩を掴んだ。
「やめてください、僕が勝手にルイさんの事好きになっちゃっただけなんですから、頭なんて下げないでください」
「違うよ…ボクが、こんなだから…」
泣きそうだ。ボクはなんて自分勝手なんだろう。
こう言えば、ハヤトが慰めてくれると思っている。そういう所が、本当にダメなんだと思った。
「そんな風に言わないでください。少なくとも僕はルイさんの事、好きですから」
思った通りに慰められて、ボクは本当にダメだなと思った。
「ハヤト、ありがとうね。気持ちに答えてあげられなくてごめんね」
「いいんですって、僕が勝手にルイさんの事を好きで居るだけなんですから」
そう言われて、少しホッとしてしまう。
「あのさ、ハヤト…今日はこのまま帰るけど…来週の週末なら、会えるよ」
「…良いんですか?」
「うん。なんかこう…、お礼的な」
「いいです、そんな…」
「ボクがそうしたいと思ってるだけだから。昼間から空いてるなら、二人で遊びに行こう? 夜、ご飯食べに行ってそれから…って。ダメかな」
ボクの提案に、ハヤトは瞳をキラキラさせた。
「良いんですか!?」
「もちろん」
「じゃあ、来週、お願いします」
時間は改めて決めようと言って、ボクとハヤトは駅で別れた。
電車に乗って、ろくに外の見えない窓を眺める。
鏡のようになった窓ガラスには、悲壮感漂うボクが映っている。
もう…斜陽へ通うのは止めようかな。と思った。
行くにしても、不特定多数の人と関係を持つんじゃなくて…ちゃんと誰か…特定の人を作ろう。
いままでのツケが回って来たんだ。
それなら、それを受け止めて粛々と生きて行こう。
そんな決意を固めて、僕は家に向かった。
文也から渡されたコサージュは、途中のコンビニで捨ててやろうと振りかぶったけれど、どうしても捨てられなかった。
ビールと缶チューハイを5本ずつとおつまみをいくつか買って、家に帰った。
さすがに、蒼太はもう寝ていた。
引き出物とコサージュを放り投げ、スーツから部屋着に着替えて、リビングで缶ビールを開けた。
もう、明日は休みだから、どうにでもなれ。
そんな思いでボクは夜中まで空き缶を積み上げた。
「えっ」
「…久しぶりに…ルイさんとお話ししたくて」
「いいけど、すぐそこじゃん?」
「それでもいいんです…」
ハヤトは、ボクへの好意を隠さない。小柄で、顔も可愛いハヤトにそういう対応をされたら、コロッと落ちる男はたくさんいるだろう。
でも今のボクは、向けられる好意を上手く交わすことも、はぐらかす事も出来ない。
自分の気持ちに素直になれないことを、当たるのは良くないと解っているけれど、余裕が無くてどうして良いのか解らない。
ハヤトは嬉しそうにボクの隣を歩く。
「ごめんね、ハヤト。本当はゆっくりしてあげたいんだけど…」
「いえ、ぜんぜん、気にしないで下さい! 会えたらラッキーくらいに思っていたので…」
「じゃあ、ラッキーだったんだ」
思わず笑ってそう言うと、ハヤトが驚くほど赤くなった。
「…ルイさんの、いじわる…」
顔を覆う様にして、ハヤトは俯いた。
…まずかったかなと思ったけれど、言ってしまったものは仕方がない。
「ごめん…」
「あっ、いえ、僕の方こそ、すみませんっ」
「なんでハヤトが謝るの?」
ハヤトが、ボクを見上げる。その瞳はゆらゆらとしていて、何か躊躇う様だった。
「…噂で…聞いたんです、今日…ルイさんの初恋の人の結婚式だって。それでその…きっと斜陽に居るとおもって…、あの…会えたら…愚痴とか…お酒付き合うのとか、したいなって…思ってて…」
慰めてくれるつもりでいたのか、とボクは少し申し訳ない気持ちになった。
「そうなんだ。ボクの事、慰めてくれるつもりだった?」
「…僕なんかに慰められるわけないのに…、すいません」
「そんな風に自分を否定しちゃダメだよ。気持ちはすごく嬉しいから貰っておくけど、…今日はごめんね」
ハヤトが首を振る。顔を覗き込んで、ボクは精一杯笑った。
「さすがにこの格好でホテル行くのは気がひけるし、それに…今日はハヤトのこと抱いてあげられる気分にならないと思うからさ」
ハヤトが今度は首まで赤くなった。こういう反応がボクにも出来たら…、とおもったけど、ボクがしたところで誰にも刺さらないだろうな。
「…僕がそういうことしたいと思ってるの、やっぱり解りましたよね…」
「まあ…あんなに熱っぽい視線送られたら気づいちゃうよ。でも、ごめんね…」
「あっ、ぜんぜん、気にしないでください! こうしてお話させてもらっただけで、良いです」
こんなに、真っ向から好意を向けられることに、驚いてしまう。
僕は良い人間じゃない。
こんな風に、ボクを慕ってくれるこの子を、かわいそうに思ってしまう。
自分が、彼に気を持たせているというのが解っているのに。
「…ごめんね、ハヤト。ほんと…ゴメン…」
ボクがしんみりと頭を下げると、ハヤトはボクの肩を掴んだ。
「やめてください、僕が勝手にルイさんの事好きになっちゃっただけなんですから、頭なんて下げないでください」
「違うよ…ボクが、こんなだから…」
泣きそうだ。ボクはなんて自分勝手なんだろう。
こう言えば、ハヤトが慰めてくれると思っている。そういう所が、本当にダメなんだと思った。
「そんな風に言わないでください。少なくとも僕はルイさんの事、好きですから」
思った通りに慰められて、ボクは本当にダメだなと思った。
「ハヤト、ありがとうね。気持ちに答えてあげられなくてごめんね」
「いいんですって、僕が勝手にルイさんの事を好きで居るだけなんですから」
そう言われて、少しホッとしてしまう。
「あのさ、ハヤト…今日はこのまま帰るけど…来週の週末なら、会えるよ」
「…良いんですか?」
「うん。なんかこう…、お礼的な」
「いいです、そんな…」
「ボクがそうしたいと思ってるだけだから。昼間から空いてるなら、二人で遊びに行こう? 夜、ご飯食べに行ってそれから…って。ダメかな」
ボクの提案に、ハヤトは瞳をキラキラさせた。
「良いんですか!?」
「もちろん」
「じゃあ、来週、お願いします」
時間は改めて決めようと言って、ボクとハヤトは駅で別れた。
電車に乗って、ろくに外の見えない窓を眺める。
鏡のようになった窓ガラスには、悲壮感漂うボクが映っている。
もう…斜陽へ通うのは止めようかな。と思った。
行くにしても、不特定多数の人と関係を持つんじゃなくて…ちゃんと誰か…特定の人を作ろう。
いままでのツケが回って来たんだ。
それなら、それを受け止めて粛々と生きて行こう。
そんな決意を固めて、僕は家に向かった。
文也から渡されたコサージュは、途中のコンビニで捨ててやろうと振りかぶったけれど、どうしても捨てられなかった。
ビールと缶チューハイを5本ずつとおつまみをいくつか買って、家に帰った。
さすがに、蒼太はもう寝ていた。
引き出物とコサージュを放り投げ、スーツから部屋着に着替えて、リビングで缶ビールを開けた。
もう、明日は休みだから、どうにでもなれ。
そんな思いでボクは夜中まで空き缶を積み上げた。
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