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第五章 エンドの街にて

十六話 たまごの正体?(その二)

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その噂話は瞬く間にエンドの街を駆け巡った。
クエストの目的地薬草の森からエンドの街に辿り着いたその時から、おっさんの抱き抱えたたまごは噂の的である。

足元に降ろせば、ヒヨコのようにおっさんの後を付いて転がる。そんなたまごの噂は、とんでもないスピードで拡散し、やがてはエンドの街の統治者となる辺境伯の耳にまで届いていたのである。


「頼む、これはこれからのエンドの街にも関わる事、どう対処すべきか賢者たるローリー嬢の見解を…どうかお願いする」


謙る辺境伯にローリーは固まった。
かなりの長い付き合いとなるローリーと辺境伯。貴族前とした態度はないものの人に簡単に頭を下げるほどフレンドリーな関係でもない。
そんな辺境伯の謙る態度は、ローリーのこれまでの人生で見てきたものの中でもかなり珍しいものでもある。


「頭をあげて、辺境伯。」


眼前のテーブルに両手をつき頭を下げていたロッシーニ伯は上目遣いにゆっくりと頭をあげた。


「判ることは、殆どない。でも、‥今の魔素工学的観点からの考察から、そのたまごに善も悪もないと考えられる」


「魔素工学的?」


「うん。ここ最近発表された学説に、魔素には同じような成分を持ちながら全く違う性質を現す二つの種類があるらしい…」


真剣な表情でローリーの話しを聞くのは、ロッシーニ伯爵だけではない。この食事会に参加している者全ての興味をかっ攫い、ローリー先生の講義ほと変貌していた。


「ここで、文献の記述から判る幾つかのことがある。過去数度、動くたまごの発見された場所が、魔素の濃い神域付近であったということ‥」


「……???」


「つまりは……」


ローリー先生は、たまごへの考察を次のように掻い摘まんで説明する。

*借りに魔素の二種を聖の性質と邪の性質とすると、魔素の濃い場所にある聖域こそがその二種の魔素が両立している場所なのではないか。

*義弘からの報告にあった薬草の森の異変。魔物の姿の消失。つまりは薬草の森自体が聖域化したのではないか。

*もともと、魔素の濃い薬草の森が聖域化したとすると、文献あるたまごとの類似が確定的になる?

*文献によると、たまごが厄災を起こしたこともなければ、幸運をもたらしたことも記述されていない。現在、義弘の後ろを付いて歩くたまごに、悪意や敵対行動を示す様子は見受けられない事から、たまごへの干渉さえ避ければ大きなトラブルとはあり得ない。


「…ごめんなさい。ほんとはもっと考察できるといいんだけど…」


ローリー先生は軽く頭を下げ謝罪した。


「いや、今のところは十分だ」


「……」


ロッシーニ伯爵は、ローリーに微笑むと、毛むじゃのおっさんを睨みつけるようにつぶやく。


「ゴルド、頼むぞ。お前だけか頼りだ!!」


ロッシーニ伯爵のつぶやきは、おっさんを知る者の全ての願いだったのかもしれない。
異世界からの異邦人。性格は天然お人好し、しかし持てる力は人外指定。権力者から見れば、確実に危険人物指定、間違いなしである。

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