上 下
100 / 104

六十四話 最後の旅へ(その二)

しおりを挟む
「それで、その古文書の内容と俺が関係があると?」


「いやいやいやいや…、そんな事、俺は信じていないんだが‥爺ちゃんがなぁ」



『♪♪♪♪♪間もなく武生、越前武生、お降りの方はお忘れ物なきよう…』


「!おっ、到着するみたいだ♪」


タイミングよく流れる車内アナウンスに、ごまかすように話を終わらせた智のいつもの笑顔は、何の企みも感じさせないいつもの笑顔である。


『まあ、手詰まりの俺にとって渡りに舟。どう転んでも悪くはならないだろう』


一人、確信した重治は、頭の上の荷物置きに置かれた小さなボストンバッグを降ろした。





「ほう、ここは初めてだなぁ」


「まあ、JRの駅がある割には、まあまあ‥、正直いって都会とは…」


重治は、その駅舎の入口から、周りをゆっくりと眺めていた。

ゴールデンウィークはじめにしては、この年の天候は、最早、初夏。うっすらと汗さえ浮かぶ、眩し過ぎる、暑さのこもった日差しが二人を照りつける。


『ファーファー!』

その時、智と重治の二人は、駅前にある乗り合いスペースで、その迎えを待っていた。

白い軽ワゴンが、迎えですよと軽快なクラクションを響かせ、重治達の前えと停車する。


「智、待ったかい?」


運転席から降り立った男性。
その男性は、見るからに智との血の繋がりを感じさせた。


「いや、そんなに‥それより、叔父さん、お迎えご苦労さまです」


「はっははは、オヤジ、いや爺さまの言うことは、今でも絶対だからなぁ‥お迎えの御用ぐらい大したことじゃないさ」


智が叔父さんと呼んだ男性は、智の父親の兄にあたり、本来なら伊藏家の跡取りとなる人物である。


「叔母さんと恭子ちゃんは元気?正月は会えなかったからなぁ」


「ああ、相変わらず口うるさいくらい元気さ…。さあさあ、それより早く乗った乗った」


智は社交事例ともよべるようなありきたりの挨拶を済ませながら荷物を後部ハッチドアから放り込み、助手席へと滑り込む。


「チッ、後ろの席かあ、智、俺はお客様じゃ、なかったのか?」


後部シートに座席指定が決まった重治は、文句の1つも言わずにはいられなかった。

重治の旅の予習によれば、目の前の軽ワゴンの後部シートで1時間以上の山道をドライブすることになる。
特に車酔いする訳ではない重治ではあるが、初めての土地せめて景色を、愉しむぐらいの配慮は欲しかった。


「なに言ってる♪俺とお前の仲に、そんな配慮があるわけないだろうがハハハ♪」



やっぱり、むかつく奴である。親友なのは間違いない。親友だからこその無遠慮。重治にしてみれば!背中を任せられるほどの相棒に似てるからこそ、やっぱり、むかついた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

女子竹槍攻撃隊

みらいつりびと
SF
 えいえいおう、えいえいおうと声をあげながら、私たちは竹槍を突く訓練をつづけています。  約2メートルほどの長さの竹槍をひたすら前へ振り出していると、握力と腕力がなくなってきます。とてもつらい。  訓練後、私たちは山腹に掘ったトンネル内で休憩します。 「竹槍で米軍相手になにができるというのでしょうか」と私が弱音を吐くと、かぐやさんに叱られました。 「みきさん、大和撫子たる者、けっしてあきらめてはなりません。なにがなんでも日本を守り抜くという強い意志を持って戦い抜くのです。私はアメリカの兵士のひとりと相討ちしてみせる所存です」  かぐやさんの目は彼女のことばどおり強い意志であふれていました……。  日米戦争の偽史SF短編です。全4話。

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

処理中です...