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五十一話 信康処刑?!

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その時の才蔵は、己の油断を悔いていた。

忍びとして己が持つの技量に自負があり、それ故に兄、伊蔵から再三にわたって注意され続けてきた事であった。


才蔵の存在を察知した信康は、身構えた姿勢を崩すと、ゆっくりと腰を下ろし、手に持った脇差しを床に置いた。


「‥‥どうじゃな、一つ、酒でも……」

「……」


突然に向けられた言葉に才蔵は、応えようもない。
まして、自負していた忍びの技量で、完全に気配を断っていたはずの自分を感じとられたショックの動揺が収まりきらないうちの事である。


『殺るか!?……まさか……』


才蔵は、自嘲ににも似た笑みを漏らすと、かけていた刀の柄からじっとりと汗ばんだ手を放した。


攻撃を仕掛ける様子が見られない以上、それは暗殺者であるはずはない?
物事というものは、信康が考えるほど単純明快で割り切れるものではない。攻撃の意志を見せないからといって、それがイコール敵ではないに結び付く訳ではない。

しかし、この時の信康は、常に生命の危機に瀕している幽閉されている状況というのにも関わらず、なにものとも解らない相手、才蔵に対して受け入れる姿勢を見せたのである。


苦労を重ねた才蔵が、この城に漸く辿り着いたのは、重治が家康を訪ねる一日前の事である





岡崎の街から姿を消した才蔵は、まずその足で徳川家の居城でもある浜松の町へ向かった。

これまで何度も重治の事を亡き者にせんとしてきた、言わば敵の本陣真っ只中に、たった一人で乗り込まんとしたのである。


才蔵がどれだけ忍びとして彩輝にあふれていようとも、守るは、現伊賀の忍びの頭領、服部半蔵である。

他の出城にどれだけ忍び込めようとも、忍びの事を知り尽くした半蔵の守護するこの浜松の城は、おいそれと攻略させてくれよう筈もない。

あちらこちらに数多く仕掛けられた鳴子に忍び返し。そして、忍び足さえ許さない鶯張りに仕上げられた廊下。
ありとあらゆる工夫を凝らし侵入者を防ぐ。
それは、忍びの事を知り尽くした者だからこそ出来る完全なる防御と言えた。




「……ふうぅ。さてさて、どうしたものか…………」


城の外堀の障害を何とか乗り越えた才蔵は、まだまだ先に見える本丸を見上げ、ため息をついた。


流石に忍びを知り尽くした者が守る城である。才蔵の技量をもってしてもおいそれと城内部への侵入を許さない。

例えば番兵の巡回一つとってみても、そのタイミングはまちまちであり、せっかく入り込んだ城内でも容易に移動をさせてはくれない。



「……!!!」


影に身を潜め、移動の好機を探り続けていた才蔵にゆっくりと近づく人影があった。才蔵は、潜めた体を更に小さくし気配を断った。
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