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プロローグ 始まりの料理は自作自演

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 ボーダーライン――言葉の意味。あなたは何を想像しますか?
 日本語で境界線……昔から使用される言葉。……なのかなぁ。

 楽曲から洋の東西を問わずに映画。ドラマとゲームにマンガ。
小説まで知名度も関係ない。様々な作品のタイトルが存在する。

 社会的な意味の国境線だろう。社会で行政区画の境界線かな。
境界性パーソナリティ障がい。情緒不安パーソナリティ障がい。

 感情や思考の制御不全。自己破壊を特徴とする障がいだよね。
自傷。自殺。薬物乱用。高リスクで青年期に生じるらしいんだ。


 精神科の担当医から受け売りだけど。具体例で衝動的な行動。
二極思考。対人関係の障がい。慢性空虚感。自己同一性障がい。

 薬物アルコール依存。自傷行為。自殺企図。自己破壊の行動。

 激しい怒り。空しさや寂しさ。見捨てられ感。自己否定感だ。
めまぐるしい感情変化。それらの混在する調節も難しい症状だ。

 衝動の性的放縦からギャンブル。買い物の浪費。アルコールに
薬物の乱用。自己破壊のため摂食障がい。破壊的な行為の自殺。

 リストカットに自傷行為と過量服薬。死に至ることもおおい。


 性的放銃……どれだけ後悔しても過去は変われないものだよ。

 性的な物事にふしだらであることだ。具体的な例として容易く
肉体関係を結ぶ。複数の人と肉体関係を持つことも少なくない。

……発達障がい。知的障がいとは診断されない「境界知能」だ。

 昭和前なら知的障がいと認定された。知能指数70から84。
現代も増加中で公立小学校。クラスに平均五人もいるらしいよ。

 新生児の七分の一が……発達年齢。平均的数値の四分の三だ。


「軽度精神遅滞」知能指数50から69だ。支援も必要になる。
学校の授業は理解も難しい。読み書き計算が苦手な場合もある。

 情緒と社会性未熟……課題も様々。はっきりした原因はない。
状態や判断も難しい。「グレーゾーン」に位置づけられるんだ。

 わたしはグレーゾーンだよ。認識できたのはいつだったっけ?

 普通高校には入学できないんだ。両親が哀れんだ結論だった。
大阪下町で暮らす父方の祖母。大金を担保にした育児の放棄だ。


 当時から祖母は大阪の片隅。ちいさな粉もの店を営んでいた。
祖父の話題がでたことはない。店に仏壇もなく墓参りもしない。

 離婚したのか祖母が入籍したことがあるのかもわからないよ。

 開店当初からの常連客によれば若い時代。祖母は飛田遊郭……
現在の料理組合。表向きの名で呼ばれる飛田新地にいたらしい。

 現在は西成区山王町になる。大正時代築かれた遊郭で赤線だ。

 昭和一桁生まれで……祖母は厳しい。それでも優しいひとだ。
 いまのわたしが形作られた。それは祖母あってのものだから。


 中学を卒業したばかりで金髪パーマ。バリバリのヤンキーだ。
東九州でも海辺の田舎育ち。世の中をなめ切ったわたしだった。

 戦前生まれ。荒波にもまれながらしぶとく生き抜いた祖母だ。
一目見るなり鬼もかくやの顔をして風呂場に引きずりこまれた。

 問答無用で手芸の大ハサミ。縦横無尽に振るわれたんだよね。

 一言も返せないわたし。気づけば金と黒が混じるザンバラ頭。
有無をいわせない修行の毎日も始まった。わけがわからないよ。

 狂気を感じる恐ろしさ。無言の圧迫感。強靭な身体と精神だ。

 しばらく返事は「はい」「わかりました」「了解です」他には
許されなかった。どこかの国の軍事教練。想像する迫力だった。


 なぜか気づけば二年も経過した。歩いて通える距離で超有名な
調理師学校通い。一年間学ばされた。調理クラスで毎日勉強だ。

 帰宅して粉もの店直行。日付変更線を跨ぐ時刻までお手伝い。
現代日本だけど。ほとんど自由のない奴隷みたいな生活だった。

 そんな毎日を人間は耐えられる。慣れるらしい。時間の経過に
従って余裕ができた。わき目をそらせない日々。やがておわる。

 調理師免許を渡した祖母が微笑んだ。ほんとに唐突だったよ。

 翌朝……目覚めると書置きだけだ。書類すべてが整えられた。
店舗経営についてすべての問題点。解決法まで記された書類だ。

 しかも知人の名刺ケースがあった。筆頭が弁護士。税理士だ。
特殊な食材の仕入れ先。丁寧に記された。驚いたのが預金残高。

 驚くほどの高額だ。八桁を軽く超える金額。恐れおののいた。

 祖母は昔馴染み。数人と共に暖かい南の島に移住するらしい。
連絡先を調べたけれど残されなかった。お互いに自由だからね。


「おもしろい。自由……なんでも選べる。なんでもできるんだ」
 十八歳になったばかり。自分の夢。希望なんにもないけどね。

「おバカなわたしだから。最低限生活できる場所。技能はある。
この粉もの店を受け継げばいい。それも悪くはないんだけどね」

 独り言と同時。お店の照明をともして分厚い鉄板に着火した。
大阪生まれじゃない。こじんまりとした雰囲気は大好きだけど。


 まず大目に油をひいた。鉄板が温まるまでは静かに見つめる。
水道水を一滴。鉄板の端に垂らし適温に上昇したかを確認する。

 山芋入りのメリケン粉。白ダシで溶きながら冷蔵庫を確認だ。
大きな卵を二個。ゆっくりメリケン粉に投入して混ぜあわせる。

 しばらく冷蔵庫に寝かせるんだ。粉と卵をダシに馴染ませた。

 春キャベツは走りものだけど綺麗。形もいいよ。柔らかいね。
ざく切りしてからちいさめに刻む。あとは小ねぎもみじん切り。

 なんの気なし生ものルームを見た。新鮮な生食用のカキ発見。

 問題ないはずだけど一応汚れの除去だ。ていねいに塩水洗い。
十分に寝かした粉。生ガキと野菜を入れてエキスも吸収させた。

 熱々の鉄板に鰹節をひいた。甘くて優しい香りが周囲に漂う。


 ここにいない祖母の分。二分割で鰹節に被せて円形に整えた。
白い上面に再びうすく鰹節。満遍なくかけるとダシが倍増する。

 粉ものが焼ける香ばしさ。なぜか郷愁も漂わせ空腹感を誘う。

 コテ二枚を使用。丁寧に裏返すと鮮やかだ。綺麗なうす茶色。
調理師学校で学んだ技術の成果になる。両面が綺麗な焼き色だ。

 片割れは皿に載せた。祖母が休憩で使用していた丸椅子の前。
祖母の愛して止まない大阪生ビール。サーバーから注いだんだ。


 わたしは水で十分。鉄板には湯気をあげるカキのお好み焼き。
ソースも祖母の直伝。大阪地ソースのヘルメスと広島オタフク。

 イカリとカゴメ中濃。甘辛い同量ブレンドに辛子マヨネーズ。

 コテで適度に切りわけたお好み。小皿に載せてから頬張った。
「新しいメニューだね。名前は……『まん丸カキ焼き』かなぁ」

 あわい笑みと同時だ。頬には一筋の涙。勝手にこぼれ落ちた。
おバカなわたし。わからないし見えない未来。不安ばかりだよ。


 だけど一月末……魔物のいるダンジョン。すぐ近所にできた。
「なんとなく楽しそうな場所だ。祖母の伝手をたどろうかなぁ」

 死んじゃうかもしれないよ。でも泣いてくれる家族はいない。
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