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プロローグ「別離があるから新たに出逢う」

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「キミたち一緒に来なさいよ。未知の世界を見せてあげるから」
すれ違いざまの低い声。右肩をつかむ手のひらもこじわだらけ。

「セクハラじゃねぇ?」ダレよこいつ。洒落た格好のお爺さん。


「……こいつ誰だよ?」きっと警戒感まるだしね。子猫みたい。
おおきな猫目でにらみつけたよ。ちいさな右の手のひらL字形。

した向けさし指とベロだしの挑発だ。パンクな人生だからいい。
横から延びる痩躯は長い腕。とめられなければ無言で殴打した。

ただの通りすがり。ひと時の邂逅は永遠に二度目も起こらない。
あたしたちの命運が動きだす瞬間。すべては逆回転に一周した。


お互いに名乗ってもない。相当あとから教えられたフルネーム。
イケてる洋装は超有名なお爺さんだ。伝説のイッセイ・ヨアケ。

あたしたちは白と黒。コスプレ姿で撮影帰りの格ゲーキャラだ。
なにが琴線に触れたのかもわかんない。すべてはあとの祭りか。

パフォーマーの集団として界隈で話題にされるきっかけになる。
白のクレオパトラと黒いファラオ。おかしな通り名なんだけど。

古代のエジプト。王朝の創始者と世界に名高い美人な女王陛下。


あたしは成人した直後で本名が南国アカネ。双子の弟シラハだ。
ホンモノの姉弟なんだけど。外見の面じゃ正反対かもしんない。

ガリガリの弟ちゃん2メートル。あたしは超絶チビッ子ちゃん。
黒髪の弟は三つ編みロング。色抜きボブカットのあたしだから。


高校でたばっか。施設を追放されてあてもないままに来阪した。
和歌山の出身だけど海と山だらけ。すんげぇ田舎者だったんだ。


懐に幾ばくかの金銭。夢と野望だけで今夜の寝床もないんだよ。
あっはっは。このまま野たれ死に。そんな未来しかないのかな。


冒頭おもらしから数年さかのぼる……一人だけの身内が消えた。
犯罪被害か遠くに男と逃げたかな。完全に行方不明のままだよ。

もしかしたらだけどね……裏面で弟が関わってるかもしんない。
奇妙な男たちにジロジロ見られたの。直後に誰もいなくなった。


東西横に長い離れ小島の国。それほど珍しくもないあたしたち。
生まれるかなり前から景気は最悪。場末に育った品のない母だ。

最初から父親が存在した形跡なし。戸籍はもちろん空欄で白い。
県庁所在地でも繁華街の奥が住処。幼稚園や小学校に通えない。

水商売で染まり切った忙しい生活。さほど母に不満もなかった。
あたしらに虐待された意識はない。最低限の食事が与えられた。


地上波テレビと弟がひろい集めた本や雑誌。そこからの知識だ。
あたしはおバカ。だけど弟くんが正しい意味の天才少年なんだ。

なんでもできる。一を聞いて十……百まで理解できる能力者だ。
IQ180超え。ギフテッド……超天才児。役場に伝えられた。


あたしら姉弟。この世界に生まれおちた瞬間から戸籍がないの。
流れ者の母に戸籍がなかった。民族的に南方アジア系の顔立ち。

遺伝子上の父親はスラブ系かもしんない。おかしなミックス種。



施設暮らしも悪くはなかった。影の帝王に君臨した弟のおかげ。

シスターコンプレックス……そんな生易しいモノじゃないから。
女神崇拝するみたいに守られ優先された。あたしもビックリだ。

それでも女王さまタイプじゃない。バカで間抜けな小娘だから。
徒歩圏の中高一貫私立。入学と卒業できたのも弟のおぜん立て。


いろいろ考えるだけでも無駄になるから。人生すべてお任せだ。
それ以上でも以下でもない。もちろん弟くんは超絶正しいから。

あたしが弟よりできることってなんだろう。そんなものあった?

あぁあれ。音楽センスとダンスの切れ味みたいな身体バランス。
本格的に学んだことのない超絶適当。だけど小金はひろえたよ。


誰もいない深夜の駅ビル。壁面に写しながら弟のギターで踊る。
たまたま通りがかったダンスの先生。ひろってくれたんだよね。

しばらくの間だけ日中ダンススクール。先生の補佐役するんだ。
無人になる教室。しばらく生活して弟がネットで小金を稼いだ。


「なんかおかしなひとにつながったんだ。一緒に行ってみる?」
ある日の早朝。おかしなひとに会いたがる弟なんて珍しいよね。

そもそもしらない誰かを信じることが奇跡だ。悪くもないかな?

「へぇ。ダンスの教室ないもんね。タイミングいんじゃないの」
なんとなく質問されて気軽に了承。とくに逆らう理由もないし。

和歌山から私鉄に乗った終着駅。ここは大阪ミナミの繁華街だ。
落ちつかないけどなんでもOK。懐もある下町だから楽しいよ。

「んー未来がわかんないな。まずは初対面だからインパクト?」
どこまで行くかわかんない。目立つコスプレ衣装がいいのかな?


「それならアレよ。白と黒の格ゲーでも有名キャラさんだっけ」
「あのコスなら目立つ。おかしな服装のお爺さんも釣れたんだ」

これが悪くない選択だったのかもしれない。あくまで結果論だ。
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