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【番外編5】強面黒にゃんこな課長を愛でる話
2月22日はにゃんこの日。
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「……なんだこれは」
金曜日。
キッチンのカウンターに並べられている多種多様な猫グッズがオレを出迎えた。
篠塚に今日は家に泊まれとねだられやってきたのだが、……一体、篠塚に何があった。
猫型ドーナツやら、猫型のクッキー、そして猫耳カチューシャに、猫の手を模したモフモフ手袋。そして、ひとつだけ露骨に卑猥な先端が付いた異質さを醸し出す猫のしっぽまである。
最後の一個、それは片付けろ。食事するところに置くんじゃない。
「猫の日だそうですよ」
篠塚がにこにこと笑いながらオレの手を引き、椅子へと案内した。
オレより早く帰宅した篠塚は、食事を準備して待ってくれていたらしい。
「あんまり時間なかったんで、こんなんで申し訳ないですが」
と出されたのはカレーだ。昨日の残りで温めただけだと篠塚は言うが、サラダやスープが付いた時点で、すげぇなこいつ、という感想しかない。
「いや、十分だ」
ついいつものように一言で終わらせそうになって、おっと、それじゃダメだと、何とか言葉を付け足す。
「仕事しながら、料理もして……お前はすごいな」
既にオレの家事力皆無っぷりを知ってる篠塚は、はにかむように笑った。
それにつけても、気になるのはテーブル脇のカウンターに乗っかってある猫グッズだ。
クッキーやドーナツはまあ良い。甘い物はそれなりに好きなので食後にいただこう。
問題は、猫耳、猫の手、そして卑猥な猫のしっぽだ。全て黒猫仕様でまとまっている。
篠塚は、何を思ってこれを準備しているんだ。
ちらりとそちらに視線を向けてから、次いで篠塚に視線を移す。それに気付いて篠塚は食事の手を止め、無言のままにっこりと胡散臭い笑顔を浮かべた。
ごまかしにかかっているのが分かるが、真正面で浴びせかけられた篠塚の笑顔。未だ慣れない。イケメンの笑顔、ぱねぇ。
ズキューンと胸を撃ち抜かれたので、へらりと笑いそうになるのを必死に堪えて、無言のままカレーを搔き込む。
猫耳とか別に嫌いじゃない。はっきり言おう、好きだ。いかんせん自分には似合わないことぐらいは自覚している。この厳つい顔と身体で苦しんだのは昨日今日の話ではないのだ。
ジョークで猫耳付けても、周りが引くレベルなのも分かっている。性格上、笑いを取れるほどのユーモアもない。
「やだ、こんなん、恥ずかしい……らめぇ……!!」ってやるには、ちょっと絵面がきつい。
あれを、オレが付けるのか。もしかしてそうなのか? 篠塚、それは、いくらなんでも羞恥プレイにも程があるぞ……って、考えたところで、不意に気付いた。
目の前に、オレと違ってこんなジョークグッズさえも似合う男がいるじゃないか。
そうか! これはお前が付けるんだな? 良いな、それも良い。
男前の頭に乗っかる猫耳、そしてモフモフ猫の手を付けて「ニャーン」とポーズをとる篠塚……。
やだ、かわいい……。
猫耳カチューシャと手袋付けて笑う恋人を想像して胸が高鳴る。
妄想がノンストップ。これで誘惑されるのか。何それおいしい。夜に付けてくれるのだろうか。
今日のカレーがやたらと美味い。興奮をごまかすように黙々と口の中に掻き込んでゆく。
にやけそうになる顔を必死に堪えた。
食べ終わり、篠塚のにゃんこ姿を妄想しながらうきうきと食器を片付け終わると、コーヒーとドーナツとクッキーがテーブルに準備されていた。
篠塚の隣に準備されたオレの分のコーヒーを見つけ、望まれるまま隣に腰を掛ける。
「お前……猫が好きなのか?」
篠塚の手の中で猫耳カチューシャが弄ばれていた。
それをちらりと見てから期待をごまかすために目をそらし、猫に仕立て上げられたドーナツをひとつつまみ上げながら胸のときめきをごまかす。
篠塚の猫耳姿、見たい。絶対かわいい。
早く着けてくれないかとワクワクしていると、篠塚はドーナツを弄ぶオレをじっと見つめて、楽しそうにうなずいた。
「ねこ、……そうですね。かわいいと思いますよ、きっと」
言い回しがなんか変だぞ、と気付く前に、スッと篠塚の手が近づいて、かぽっとカチューシャがオレの頭に頭にはめられた。
は? なんでオレ。
「……お前、何してんだ」
アホか。オレがやって似合うわけないだろ、バカかこいつは。予想外な行動に驚いて、思わず低い声が出る。
「課長に似合うかと思って。……やっぱり、かわいいです」
さてはお前、はにかめば許されると思ってるだろう。
……その通りだよ!! クッソ、首かしげて笑うとか、かわい過ぎるじゃないかこのやろう!
手に持っていたドーナツを皿に置く。
猫耳なくてもかわいすぎだ、このイケメンめ!!
悔しかったから、猫耳カチューシャをサクッと外し、篠塚の頭にはめ返してやった。
あ。想像以上に、かわいい。
きゅんと胸が高鳴る。ホント、イケメンは何しても似合うな。
オレにやりかえされポカンとしたイケメン面を眺めて、ふふんと見下ろして満足する。猫耳を付けられた篠塚は困ったように苦笑するだけで抵抗はないらしい。
すると篠塚は、今度は猫の手を手に取った。
「課長、こっちもお願いします」
猫耳の篠塚に手を取られると、そのままオレに猫の手がサクッとはめられた。
こいつ、こんな事するようなタイプには見えなかったんだがな……。
猫耳のイケメンに、猫の手のオッサン……シュールすぎる。完全なバカップルだ。
初めてのお付き合いにオレは浮かれきっていたが、もしかしてコイツもか。歴代の恋人が何人もいそうな篠塚でも、つきあい始めは浮かれるんだな。
それはそれでちょっとうれしい。バカなことをしている篠塚に少々呆れながらも、好きなようにしろとなされるがまま眺めたくもなるってものだ。
そうこうしているうちに両方の手袋がはめられ、そして手首をマジックテープで留められて気付く。
あれ? この手袋、自分で外すの、難しくね?
綿(わた)が詰まって指は役に立たない。
……ぢっと手を見る(ただしモコモコの猫の手)。
……口か。口でマジックテープを剥いでから引っこ抜くか。
外し方を考えている内に、再びかぽっとカチューシャが被せられた。
このやろう。これが目的か。と、睨むために顔を上げると、うれしそうにはしゃぐ篠塚の笑顔があった。
「……すっげ、かわいいです」
うそーん……篠塚の浮かれきった笑顔、マジかわいい……!
オッサンに猫耳と猫の手を付けて、心底うれしそうに笑うイケメン、プライスレス。
一瞬尊さに意識が遠のくが、しかしちょっとまて。
いやいやいやいや。失笑はされても、かわいいはないだろう。
「……お前なぁ……」
さすがに呆れて文句を言おうとすると。
「はい課長」
と目の前にドーナツを差し出され、思わず口を開ける。
あ。
反射的に口を開けてしまった間抜けな自分に気付いたが遅い。
かぽっとはめられるように口にくわえさせられるドーナツ。
ねぇ、篠塚君、知ってる? オレが今手を使えないって。……オレを黙らせるためにわざとだよな、分かってるよ!!
吐き出したり、噛みちぎったりするとドーナツが床に落ちるし、手袋で脂ぎったドーナツ掴むの嫌だし……え? これなんて罰ゲーム? 篠塚、鬼畜? うん、知ってた!
どうして良いか分からず、眉間に皺が寄っていく。
「……課長、困っていますか?」
困っているに決まってるだろう。
困惑したまま頷けば、なぜか篠塚がうれしそうに笑った。これ、なんてプレイ……? オレ、篠塚の気持ち、ぜんっぜんわかんねぇ……。
とりあえずドーナツを噛みちぎろうと皿の上まで顔を移動させる。
……と、そこで篠塚がオレの行動に気付いたのかドーナツが押さえられ、安心して噛みちぎって咀嚼する。
イケメン、ホント何したいのかわかんねぇな。でもかわいいから許す。イケメン無罪、上等。
口の中の水分を取られながらモグモグしていると、篠塚に「課長、ベッド行きましょう」とにこにこと笑いながら手を引かれた。
困惑しながら立ち上がって、そして気付く。
ちょっとマテ。君のその手に握られてるの、卑猥な猫のしっぽじゃね……?
いや、オレ、にゃんこプレイ、絶対似合わないと思うんだけどな?!
嫌いじゃないぞ! むしろやってみたいけど!! でもな、でもな……さすがに、これは、やばくね?(主に絵面的に)
おっさんが猫のしっぽツッコまれてにゃーにゃー言ってるの、さすがに、どん引き案件じゃね? いくら篠塚がオレの天使だからって、お前の許容量の限界を試すのはさすがに勇気が……そうだ、逃げよう。
それ以外の選択肢があるはずない。
立ち止まって寝室への入室拒否するオレに「嫌ですか?」と悲しそうな顔をされて尋ねられ、ぐっと言葉に詰まる。そもそも口にドーナツ詰まってしゃべれないけどな!
困った。篠塚にこんな顔をさせたくない。でも猫耳は嫌だ(似合わないから)。どんどん顔が強ばっていく。
「抱きたいです。ダメですか?」
抱きしめられるようにして耳元で囁かれ、ダメだと頷くのに躊躇った。
……と、そのまま縦だっこされて、寝室に詰め込まれ、ベッドに下ろされる。
いやん、強引な篠塚かっこいい。
最近、篠塚の押しが強い。
つきあい始めてからは、距離を測るように、オレに気遣いすぎるぐらい気遣って、オレが嫌がらないか、オレに無理強いをしてないか異常なほどに気を使っていたというのに。
このところオレがホントに何一つ拒まないことに気付いたらしい篠塚は、やたらと押しが強くなった。
さすが篠塚。物覚えがいい。お前のその堂々とした俺様感、最高に好き。しおらしい篠塚も最高にかわいかったけど、やっぱ、こっちのが篠塚らしくてホントオレ好み。
だが、それはそれ。これはこれだ。
その強引さは好ましくても、いくら何でも、オレを使ってのにゃんこプレイはダメだろう。
猫耳つけて、猫の手つけて、ベッドに転がるスーツの厳ついオッサン……何の罰ゲーム。
状況を把握しただけでどん引き案件だ。
呆然とするオレを見下ろして、篠塚がうれしそうに笑った。
「課長、すっげ、かわいい……」
うっとりと囁きながら、オレの上にのしかかってくる。
篠塚、落ち着け。状況を鑑みろ。
そう思ったが、篠塚の妙な迫力を前に、言葉が出なかった。
シャツのボタンを外されながら、こいつ、いつか眼科に行った方が良いよなー。と、心底思う。
まあ、こんなんで篠塚がその気になってくれるのなら、それも良いんだけどさ。
金曜日。
キッチンのカウンターに並べられている多種多様な猫グッズがオレを出迎えた。
篠塚に今日は家に泊まれとねだられやってきたのだが、……一体、篠塚に何があった。
猫型ドーナツやら、猫型のクッキー、そして猫耳カチューシャに、猫の手を模したモフモフ手袋。そして、ひとつだけ露骨に卑猥な先端が付いた異質さを醸し出す猫のしっぽまである。
最後の一個、それは片付けろ。食事するところに置くんじゃない。
「猫の日だそうですよ」
篠塚がにこにこと笑いながらオレの手を引き、椅子へと案内した。
オレより早く帰宅した篠塚は、食事を準備して待ってくれていたらしい。
「あんまり時間なかったんで、こんなんで申し訳ないですが」
と出されたのはカレーだ。昨日の残りで温めただけだと篠塚は言うが、サラダやスープが付いた時点で、すげぇなこいつ、という感想しかない。
「いや、十分だ」
ついいつものように一言で終わらせそうになって、おっと、それじゃダメだと、何とか言葉を付け足す。
「仕事しながら、料理もして……お前はすごいな」
既にオレの家事力皆無っぷりを知ってる篠塚は、はにかむように笑った。
それにつけても、気になるのはテーブル脇のカウンターに乗っかってある猫グッズだ。
クッキーやドーナツはまあ良い。甘い物はそれなりに好きなので食後にいただこう。
問題は、猫耳、猫の手、そして卑猥な猫のしっぽだ。全て黒猫仕様でまとまっている。
篠塚は、何を思ってこれを準備しているんだ。
ちらりとそちらに視線を向けてから、次いで篠塚に視線を移す。それに気付いて篠塚は食事の手を止め、無言のままにっこりと胡散臭い笑顔を浮かべた。
ごまかしにかかっているのが分かるが、真正面で浴びせかけられた篠塚の笑顔。未だ慣れない。イケメンの笑顔、ぱねぇ。
ズキューンと胸を撃ち抜かれたので、へらりと笑いそうになるのを必死に堪えて、無言のままカレーを搔き込む。
猫耳とか別に嫌いじゃない。はっきり言おう、好きだ。いかんせん自分には似合わないことぐらいは自覚している。この厳つい顔と身体で苦しんだのは昨日今日の話ではないのだ。
ジョークで猫耳付けても、周りが引くレベルなのも分かっている。性格上、笑いを取れるほどのユーモアもない。
「やだ、こんなん、恥ずかしい……らめぇ……!!」ってやるには、ちょっと絵面がきつい。
あれを、オレが付けるのか。もしかしてそうなのか? 篠塚、それは、いくらなんでも羞恥プレイにも程があるぞ……って、考えたところで、不意に気付いた。
目の前に、オレと違ってこんなジョークグッズさえも似合う男がいるじゃないか。
そうか! これはお前が付けるんだな? 良いな、それも良い。
男前の頭に乗っかる猫耳、そしてモフモフ猫の手を付けて「ニャーン」とポーズをとる篠塚……。
やだ、かわいい……。
猫耳カチューシャと手袋付けて笑う恋人を想像して胸が高鳴る。
妄想がノンストップ。これで誘惑されるのか。何それおいしい。夜に付けてくれるのだろうか。
今日のカレーがやたらと美味い。興奮をごまかすように黙々と口の中に掻き込んでゆく。
にやけそうになる顔を必死に堪えた。
食べ終わり、篠塚のにゃんこ姿を妄想しながらうきうきと食器を片付け終わると、コーヒーとドーナツとクッキーがテーブルに準備されていた。
篠塚の隣に準備されたオレの分のコーヒーを見つけ、望まれるまま隣に腰を掛ける。
「お前……猫が好きなのか?」
篠塚の手の中で猫耳カチューシャが弄ばれていた。
それをちらりと見てから期待をごまかすために目をそらし、猫に仕立て上げられたドーナツをひとつつまみ上げながら胸のときめきをごまかす。
篠塚の猫耳姿、見たい。絶対かわいい。
早く着けてくれないかとワクワクしていると、篠塚はドーナツを弄ぶオレをじっと見つめて、楽しそうにうなずいた。
「ねこ、……そうですね。かわいいと思いますよ、きっと」
言い回しがなんか変だぞ、と気付く前に、スッと篠塚の手が近づいて、かぽっとカチューシャがオレの頭に頭にはめられた。
は? なんでオレ。
「……お前、何してんだ」
アホか。オレがやって似合うわけないだろ、バカかこいつは。予想外な行動に驚いて、思わず低い声が出る。
「課長に似合うかと思って。……やっぱり、かわいいです」
さてはお前、はにかめば許されると思ってるだろう。
……その通りだよ!! クッソ、首かしげて笑うとか、かわい過ぎるじゃないかこのやろう!
手に持っていたドーナツを皿に置く。
猫耳なくてもかわいすぎだ、このイケメンめ!!
悔しかったから、猫耳カチューシャをサクッと外し、篠塚の頭にはめ返してやった。
あ。想像以上に、かわいい。
きゅんと胸が高鳴る。ホント、イケメンは何しても似合うな。
オレにやりかえされポカンとしたイケメン面を眺めて、ふふんと見下ろして満足する。猫耳を付けられた篠塚は困ったように苦笑するだけで抵抗はないらしい。
すると篠塚は、今度は猫の手を手に取った。
「課長、こっちもお願いします」
猫耳の篠塚に手を取られると、そのままオレに猫の手がサクッとはめられた。
こいつ、こんな事するようなタイプには見えなかったんだがな……。
猫耳のイケメンに、猫の手のオッサン……シュールすぎる。完全なバカップルだ。
初めてのお付き合いにオレは浮かれきっていたが、もしかしてコイツもか。歴代の恋人が何人もいそうな篠塚でも、つきあい始めは浮かれるんだな。
それはそれでちょっとうれしい。バカなことをしている篠塚に少々呆れながらも、好きなようにしろとなされるがまま眺めたくもなるってものだ。
そうこうしているうちに両方の手袋がはめられ、そして手首をマジックテープで留められて気付く。
あれ? この手袋、自分で外すの、難しくね?
綿(わた)が詰まって指は役に立たない。
……ぢっと手を見る(ただしモコモコの猫の手)。
……口か。口でマジックテープを剥いでから引っこ抜くか。
外し方を考えている内に、再びかぽっとカチューシャが被せられた。
このやろう。これが目的か。と、睨むために顔を上げると、うれしそうにはしゃぐ篠塚の笑顔があった。
「……すっげ、かわいいです」
うそーん……篠塚の浮かれきった笑顔、マジかわいい……!
オッサンに猫耳と猫の手を付けて、心底うれしそうに笑うイケメン、プライスレス。
一瞬尊さに意識が遠のくが、しかしちょっとまて。
いやいやいやいや。失笑はされても、かわいいはないだろう。
「……お前なぁ……」
さすがに呆れて文句を言おうとすると。
「はい課長」
と目の前にドーナツを差し出され、思わず口を開ける。
あ。
反射的に口を開けてしまった間抜けな自分に気付いたが遅い。
かぽっとはめられるように口にくわえさせられるドーナツ。
ねぇ、篠塚君、知ってる? オレが今手を使えないって。……オレを黙らせるためにわざとだよな、分かってるよ!!
吐き出したり、噛みちぎったりするとドーナツが床に落ちるし、手袋で脂ぎったドーナツ掴むの嫌だし……え? これなんて罰ゲーム? 篠塚、鬼畜? うん、知ってた!
どうして良いか分からず、眉間に皺が寄っていく。
「……課長、困っていますか?」
困っているに決まってるだろう。
困惑したまま頷けば、なぜか篠塚がうれしそうに笑った。これ、なんてプレイ……? オレ、篠塚の気持ち、ぜんっぜんわかんねぇ……。
とりあえずドーナツを噛みちぎろうと皿の上まで顔を移動させる。
……と、そこで篠塚がオレの行動に気付いたのかドーナツが押さえられ、安心して噛みちぎって咀嚼する。
イケメン、ホント何したいのかわかんねぇな。でもかわいいから許す。イケメン無罪、上等。
口の中の水分を取られながらモグモグしていると、篠塚に「課長、ベッド行きましょう」とにこにこと笑いながら手を引かれた。
困惑しながら立ち上がって、そして気付く。
ちょっとマテ。君のその手に握られてるの、卑猥な猫のしっぽじゃね……?
いや、オレ、にゃんこプレイ、絶対似合わないと思うんだけどな?!
嫌いじゃないぞ! むしろやってみたいけど!! でもな、でもな……さすがに、これは、やばくね?(主に絵面的に)
おっさんが猫のしっぽツッコまれてにゃーにゃー言ってるの、さすがに、どん引き案件じゃね? いくら篠塚がオレの天使だからって、お前の許容量の限界を試すのはさすがに勇気が……そうだ、逃げよう。
それ以外の選択肢があるはずない。
立ち止まって寝室への入室拒否するオレに「嫌ですか?」と悲しそうな顔をされて尋ねられ、ぐっと言葉に詰まる。そもそも口にドーナツ詰まってしゃべれないけどな!
困った。篠塚にこんな顔をさせたくない。でも猫耳は嫌だ(似合わないから)。どんどん顔が強ばっていく。
「抱きたいです。ダメですか?」
抱きしめられるようにして耳元で囁かれ、ダメだと頷くのに躊躇った。
……と、そのまま縦だっこされて、寝室に詰め込まれ、ベッドに下ろされる。
いやん、強引な篠塚かっこいい。
最近、篠塚の押しが強い。
つきあい始めてからは、距離を測るように、オレに気遣いすぎるぐらい気遣って、オレが嫌がらないか、オレに無理強いをしてないか異常なほどに気を使っていたというのに。
このところオレがホントに何一つ拒まないことに気付いたらしい篠塚は、やたらと押しが強くなった。
さすが篠塚。物覚えがいい。お前のその堂々とした俺様感、最高に好き。しおらしい篠塚も最高にかわいかったけど、やっぱ、こっちのが篠塚らしくてホントオレ好み。
だが、それはそれ。これはこれだ。
その強引さは好ましくても、いくら何でも、オレを使ってのにゃんこプレイはダメだろう。
猫耳つけて、猫の手つけて、ベッドに転がるスーツの厳ついオッサン……何の罰ゲーム。
状況を把握しただけでどん引き案件だ。
呆然とするオレを見下ろして、篠塚がうれしそうに笑った。
「課長、すっげ、かわいい……」
うっとりと囁きながら、オレの上にのしかかってくる。
篠塚、落ち着け。状況を鑑みろ。
そう思ったが、篠塚の妙な迫力を前に、言葉が出なかった。
シャツのボタンを外されながら、こいつ、いつか眼科に行った方が良いよなー。と、心底思う。
まあ、こんなんで篠塚がその気になってくれるのなら、それも良いんだけどさ。
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