マッチョサキュバス♂はご飯が食べたい

水瀬かずか

文字の大きさ
上 下
26 / 28
後日談

副団長の葛藤

しおりを挟む


 私は、魔王となり得る淫魔をこの手中に捕らえている。彼は私なしでは力を得られず、生きられない。
 ……そう、単純に思えたのなら、幸せだったのだろう。

 一見そう見えなくもない。だが現実を振り返った時、込み上げるのはなんとも言えぬ苦みだ。
 私は彼の手綱を手放すことができないよう、囲い込まれたのだ。
 私は彼に、彼の元へと縛り付けられたのだ。

 意図的ではないと信じているが、本当のところは不明だ。
 だが、彼の行動は常に正しい、、、、、
 彼の考えている最善の結末へと誘導されているのでは、というほど、彼の有利に働く。
 それは勘に近い、「こうしたほうがいいような気がする」という程度のものかもしれない。だが、結果的に、彼にとって都合よく私は動いてしまっている。
 私だけではない、周りの者は自由に動いているようでいて、自然に、彼にとって都合のよい結果を持ち帰ってくる。
 人間も無意識にそういった人を誘導する言動を取っているものだ。だがその効果が格段に違うと感じるのは、気のせいか。

 彼は感情を読む。人の望むものをわかっている。それゆえ起こりうる可能性を選ぶ精度が高いのだろう。息をするように、何気ない言動で人を思い通りに動かす。
 もしかしたら、魔性を統べる魔王の特性なのではとも思う。
 恐らく彼は考えてなどいない。あたりまえに見える道筋など、わざわざ考えるまでもないものだ。
 私ですら、どれだけ先が見えているのかと言われることがある。私はその考えに至った道筋を説明できるが、あたりまえに起こりうることを後付けで説明しているに過ぎない。
 判断とは、多くの裏付けのもとはじき出されるが、基本的に直感的なものだ。そして持っている情報が多いほど、その精度は高くなる。その精度を上げるために裏付けのある情報を精査する必要はあるが、日常のことなら、わざわざ考えるまでもない。どうすればよいかなど、直感的に、勝手に見えるものだと思っている。
 彼は恐らく、私の比ではないほど先が見えているのだ。騎士団に入った時のように、時折突飛でもないことをするのは、想定が付かないことこそを、楽しんでいるのではないかと思っている。そして、彼の無自覚な予測の精度は更に上がってゆくのだ。
 そうして無邪気に、ただ直感で動いて喋って、彼は自分の望み通りにことが運ぶのを、あたりまえに享受している。

 敵うはずがない存在なのだと、時々ふとそんな考えがよぎる。
 己のしでかした事は、もう取り返しの付かないところまで来ている。もはや私も彼には敵わない。彼が人間に害をなそうとすれば、私では止められないほどの力を得てしまった。
 私がそれを、与えた。

 今更、考えても詮ないことだ。
 ただ、彼が求めるのは私だけだ。
 副団長と私を呼んで、うれしそうに駆け寄ってくる彼の姿が真実であると、信じているのだ。
 それだけを頼りに、私は己だけに身体を開く淫魔を側に置き続けるのだ。
 けれど何かがひとつ違えれば、魔王が復活するかもしれない。
 その不安は心の底に、くすぶり続けるだろう。

 できうる限り、彼の側に。
 そう願う。
 そうすれば彼が魔王になることはない。
 そうではない可能性があることを知りつつ、私は「彼が私に向ける感情」を信じていた。
 このまま囲われ続けてやる覚悟はできている。
 だから、彼が幸せな無邪気な笑みを浮かべていられるよう、ずっと私が守るのだと、それができるようにと、私は願い続けるのだ。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

勇者と冥王のママは暁を魔王様と【番外編】

蛮野晩
BL
『勇者と冥王のママは暁を魔王様と』の番外編ストーリーです。 本編が長かったので分けました。 魔界の城にハウストとブレイラの第三子として赤ちゃんのクロードがやってきた。次代の魔王である。 こうしてイスラ、ゼロス、クロードと三兄弟になったわけだが、まだ三歳のゼロスは知らなかった。弟ができるという意味を…。 新しい弟の存在に荒れまくる三歳児、魔王の父上に協力してもらって赤ん坊からブレイラを取り戻そうとする番外編です。 楽しい話しです。 ※暁には5作の番外編を収録しています。 今回公開するのはそのうちの1作です。 勇者のママシリーズ 1作目『勇者のママは今日も魔王様と』 2作目『勇者のママは海で魔王様と』 3作目『勇者のママは環の婚礼を魔王様と』 4作目『勇者と冥王のママは今日から魔王様と』 5作目『勇者と冥王のママは創世を魔王様と』 6作目『勇者と冥王のママは創世を魔王様と【番外編】』 7作目『勇者と冥王のママは暁を魔王様と』 上記7作をアルファポリスで公開中です。 Kindleで電子書籍配信もしているので興味のある方はどうぞ。 表紙イラスト@阿部十四さん

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

処理中です...