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後日談
副団長の葛藤
しおりを挟む私は、魔王となり得る淫魔をこの手中に捕らえている。彼は私なしでは力を得られず、生きられない。
……そう、単純に思えたのなら、幸せだったのだろう。
一見そう見えなくもない。だが現実を振り返った時、込み上げるのはなんとも言えぬ苦みだ。
私は彼の手綱を手放すことができないよう、囲い込まれたのだ。
私は彼に、彼の元へと縛り付けられたのだ。
意図的ではないと信じているが、本当のところは不明だ。
だが、彼の行動は常に正しい。
彼の考えている最善の結末へと誘導されているのでは、というほど、彼の有利に働く。
それは勘に近い、「こうしたほうがいいような気がする」という程度のものかもしれない。だが、結果的に、彼にとって都合よく私は動いてしまっている。
私だけではない、周りの者は自由に動いているようでいて、自然に、彼にとって都合のよい結果を持ち帰ってくる。
人間も無意識にそういった人を誘導する言動を取っているものだ。だがその効果が格段に違うと感じるのは、気のせいか。
彼は感情を読む。人の望むものをわかっている。それゆえ起こりうる可能性を選ぶ精度が高いのだろう。息をするように、何気ない言動で人を思い通りに動かす。
もしかしたら、魔性を統べる魔王の特性なのではとも思う。
恐らく彼は考えてなどいない。あたりまえに見える道筋など、わざわざ考えるまでもないものだ。
私ですら、どれだけ先が見えているのかと言われることがある。私はその考えに至った道筋を説明できるが、あたりまえに起こりうることを後付けで説明しているに過ぎない。
判断とは、多くの裏付けのもとはじき出されるが、基本的に直感的なものだ。そして持っている情報が多いほど、その精度は高くなる。その精度を上げるために裏付けのある情報を精査する必要はあるが、日常のことなら、わざわざ考えるまでもない。どうすればよいかなど、直感的に、勝手に見えるものだと思っている。
彼は恐らく、私の比ではないほど先が見えているのだ。騎士団に入った時のように、時折突飛でもないことをするのは、想定が付かないことこそを、楽しんでいるのではないかと思っている。そして、彼の無自覚な予測の精度は更に上がってゆくのだ。
そうして無邪気に、ただ直感で動いて喋って、彼は自分の望み通りにことが運ぶのを、あたりまえに享受している。
敵うはずがない存在なのだと、時々ふとそんな考えがよぎる。
己のしでかした事は、もう取り返しの付かないところまで来ている。もはや私も彼には敵わない。彼が人間に害をなそうとすれば、私では止められないほどの力を得てしまった。
私がそれを、与えた。
今更、考えても詮ないことだ。
ただ、彼が求めるのは私だけだ。
副団長と私を呼んで、うれしそうに駆け寄ってくる彼の姿が真実であると、信じているのだ。
それだけを頼りに、私は己だけに身体を開く淫魔を側に置き続けるのだ。
けれど何かがひとつ違えれば、魔王が復活するかもしれない。
その不安は心の底に、くすぶり続けるだろう。
できうる限り、彼の側に。
そう願う。
そうすれば彼が魔王になることはない。
そうではない可能性があることを知りつつ、私は「彼が私に向ける感情」を信じていた。
このまま囲われ続けてやる覚悟はできている。
だから、彼が幸せな無邪気な笑みを浮かべていられるよう、ずっと私が守るのだと、それができるようにと、私は願い続けるのだ。
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