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1 副団長! お腹がすきました!
しおりを挟む「おなかが、すきました……」
そう言って彼は涙目で私にしがみついてきて、そのまま倒れ込んだ。
ぐぅ~……。
気の抜けるような音が彼の腹から聞こえる。
「……いや、さっき散々食ってただろう……」
気のせいでなければ、先程彼は山盛りのパンと生野菜、それから山盛りの肉、皿いっぱいのスープを数杯平らげていたはずだ。
なぜ、腹がなる……。
ガチムチの部下にすがりつかれた状態で、私は心底困惑して呟いた。
ニコニコと愛想のいい青年がこの騎士団に入団したのは1年以上前のこと。
その時はスラリとした細身の、小綺麗……と言うには過ぎるほど美しい青年だった。
なぜこんなひ弱そうな男が……、と、疑問に思ったのは当然だろう。顔でアイドル気分で選んだんじゃあるまいなと、採用を決めた事務方を睨んだものだ。
そう長くは持つまいと思いながらも入団した以上はとそれなりに鍛えていたのだが、この青年、思いがけず力もあり、剣の筋もいい。何より荒くれ者の多いこの団内で全く怯むことなく、愛想よく悪意を躱してゆく。更には人懐っこくノリがよいとくれば、すぐさま団内に溶け込み可愛がられた。
そこで危機感を覚えたのは私を含む管理職の者たちだ。
このままでは良からぬことを考える団員も出てくるだろう。なにせ彼はとんでもなく美しい。
団での共同生活を始め、部屋が空いてないからと副団長の私が彼を預かることとなり、私と同室になることで、彼の貞操を守ることとなった。
ズルイと多少のブーイングは起きたが、では同室になるために貴様の一物を切り落とすかと剣を足元にに突き立てたところ、静かになった。
貴様らの男色趣味は把握しているんだぞ。
言外にそれを匂わせて睨めば、一物をそっと隠して後ろへ下がった。
「男でもいい」という趣味のやつらは、こういった男所帯だと少なからずいるのだ。
基本的に気のいい奴らで、無理やりということはまずないだろうが、彼の愛想良さを勘違いして、強引な手に出るかもしれない脳筋はちらほらいる。
きれいすぎる男は男所帯では目に毒だ。
一切男色に興味がなく、副団長という肩書を持ち、団員から守れるだけの力がある私がお守り役になるのは、必然だった。
ところが、そんな心配も杞憂に終わった。
なぜなら彼は楽しそうに訓練を重ね、メキメキと体を作り上げ、たった一年でムキムキの、この団内でも一二を争う逞しい筋肉ボディを手に入れたからだ。
驚きのビフォーアフターだ。予想外すぎる。
最初は、いざというときに抵抗できるだけの力をつけてやろうと思ってのことだった。
鍛えるのが少しでも楽しくなるよう、細いわりに力があるなと褒めた。そうすれば彼は嬉しそうに力を発揮し嬉々として力仕事に励んだのがはじまりだった。それから筋肉がついてきて騎士団員らしくなったなと褒めれば嬉しそうにじゃあと筋トレにより力を入れ始め、筋肉の付き方がきれいだと鍛え方を褒めれば更にバランスよく筋肉を美しくつけようと鍛え始めた。
彼は、単純だった。
細くて顔は可愛いのに脳筋だな、と微笑ましく思いながら鍛え抜いてやった。彼は嬉々として私のシゴキについてきた。
そこから先はあっという間だ。
「副団長、副団長! 見てください! この筋肉すごくないですか?!」
毎日のように嬉しそうに盛り上がった筋肉を見せに来て、ぐっと力を込める無邪気な様子は微笑ましかった。
その頃には襲いたくなるような腰の細さは皆無になっていたが、楽しそうなのでそのまま鍛え続けてやった。
これなら、もう、女に飢えた脳筋のアホどもが顔にやられて手を出すことはないだろうとホッとしたものだ。
そして気がつけば、私よりも逞しく成長していた。
我ながら達成感がすごかった。
* * * *
この作品は、まーさん(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/365880627)がツイッターでお話ししていたネタを元に書いてあります。
*該当ツイート(https://twitter.com/mar2424moemoe/status/1615176212305051648)
まーさんが既に同じネタを投稿されておりますが、ちょこちょこ既視感がある割りに、意外と違う趣になっていて楽しいです。
「うっかり☆ムッキリ淫魔♂ちゃん!(https://www.alphapolis.co.jp/novel/365880627/430712585)」
*だいぶマニアックな性癖てんこ盛りの作品でしたので、タグとあらすじの確認が必要かと存じます。
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