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後日談
番外編5 ある老人の話2
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「もう、からかって!」
老紳士達も、彼女たちも和やかに笑っていたが、ふと、彼女は躊躇いがちに口を開いた。
「あの、……どちらだとしても、よかったです」
視線を浴びた彼女は、ちょっと恥じらうように笑った。
「その、恋人でも、友人でも、家族でも、大切な人に会いたい気持ちは同じです。おふたりが再会できてよかったです。……桜は、見えましたか?」
あれから半年近くたち、桜の時期はとうに過ぎていた。今、一緒にいるということは、約束が果たせたのかもしれない。期待を込めて二人を見つめた彼女に、一条が目を瞬かせた。
「ああ、一緒に花見をした」
にこりと笑った二人に、彼女は表情を輝かせた。
「よかった!! 念願、叶いましたね……!」
ね、と友人達を振り返る彼女に、他の彼女たちも頷く。
そしてそのまま訪れた沈黙に、彼女はいたたまれなくなったように、小さくなってもごもごと言い訳をはじめる。
「……その、勝手なことを言ってすみません! ずっと、おじいちゃん待ってたから、会えたらいいなって、ずっと思ってて、だからその、すごく楽しそうにしてたから、嬉しくなっちゃって……」
しぼんでいく彼女の声に、老人二人が微笑ましそうに笑っていた。
「おや、昔話だったというのに、気を遣わせていたようだ」
一条がカラリと笑って、「ありがとう」と笑みを浮かべる。と思えば、隣の西国紳士も柔らかな笑みで彼女を見ていた。
「お嬢さん、ありがとう。あなたのような優しい方に出会えて嬉しいな。……この街は、三十年前も、私のような異国の者に優しかった。厳しい時期を超えた今も、あなたがたのように優しい人を育んでいるんだね」
洒落た帽子を取って、「ありがとう」と優雅に礼をした西国の紳士に、彼女たちは、きゃあと歓声を上げた。
東国では見ることのない優雅な仕草は、せいぜい見かけるのは芝居ぐらいの物だ。それを、舞台の演者もかくやという、見栄えのいい老紳士が目の前でやったのである。奇をてらう様子もなく自然に優雅にやられては、心躍る物があった。自分たちの父親と同年代ではないかと思うのに、随分と違うものである。
ではと挨拶をして、また二人の老人は連れだって去ってゆく。
その後ろ姿を眺めながら、彼女たちはまたこそこそと噂に興じた。
「西国の方って、ホントにあんな挨拶するのね!」
「おじさまだけど、ドキッとしちゃった!」
東国の着物姿の老人と西国の紳士というのは、異色の組み合わせである。だが、並んで歩く姿は、なぜか馴染んで見える。親しげな様子は、何年も交流がなかったとは思えないようなしっくりとした物だ。
老後はこちらに身を落ち着けたという西国紳士の姿を、彼女たちはこれから先、十数年目にすることになる。それはいつも、この日のように一条と連れ立って、穏やかに過ごす姿だった。
三十年ほど前に、この国で戦争があった。彼女の生まれる前の、遠い時代の話だ。彼女はその時代の爪痕を、彼らの姿に重ねる。
長い時を経て再会した二人が、恋人なのか友人なのかなど、それは彼女の知るところではない。ただ、二人並んで過ごす姿をを見かけると、時折彼女は思い出すのだ。静かに一人で佇み、桜を見上げる一条の姿を。
彼女はそれを、苦しい、戦争の爪痕のように感じていた。
今、彼らは離れていた時を埋め合わすように過ごしている。いつ見かけても、一緒にいる。
そのことに、得も言えぬ安堵を覚える。
彼はもう、一人で桜を見上げることはないのだ。
一条とは顔見知り程度の赤の他人だ。だから彼女ができるのは、ひそかに願う程度。
どうか二人が、少しでも長く、たくさんの幸せな時間を過ごせますように。
老紳士達も、彼女たちも和やかに笑っていたが、ふと、彼女は躊躇いがちに口を開いた。
「あの、……どちらだとしても、よかったです」
視線を浴びた彼女は、ちょっと恥じらうように笑った。
「その、恋人でも、友人でも、家族でも、大切な人に会いたい気持ちは同じです。おふたりが再会できてよかったです。……桜は、見えましたか?」
あれから半年近くたち、桜の時期はとうに過ぎていた。今、一緒にいるということは、約束が果たせたのかもしれない。期待を込めて二人を見つめた彼女に、一条が目を瞬かせた。
「ああ、一緒に花見をした」
にこりと笑った二人に、彼女は表情を輝かせた。
「よかった!! 念願、叶いましたね……!」
ね、と友人達を振り返る彼女に、他の彼女たちも頷く。
そしてそのまま訪れた沈黙に、彼女はいたたまれなくなったように、小さくなってもごもごと言い訳をはじめる。
「……その、勝手なことを言ってすみません! ずっと、おじいちゃん待ってたから、会えたらいいなって、ずっと思ってて、だからその、すごく楽しそうにしてたから、嬉しくなっちゃって……」
しぼんでいく彼女の声に、老人二人が微笑ましそうに笑っていた。
「おや、昔話だったというのに、気を遣わせていたようだ」
一条がカラリと笑って、「ありがとう」と笑みを浮かべる。と思えば、隣の西国紳士も柔らかな笑みで彼女を見ていた。
「お嬢さん、ありがとう。あなたのような優しい方に出会えて嬉しいな。……この街は、三十年前も、私のような異国の者に優しかった。厳しい時期を超えた今も、あなたがたのように優しい人を育んでいるんだね」
洒落た帽子を取って、「ありがとう」と優雅に礼をした西国の紳士に、彼女たちは、きゃあと歓声を上げた。
東国では見ることのない優雅な仕草は、せいぜい見かけるのは芝居ぐらいの物だ。それを、舞台の演者もかくやという、見栄えのいい老紳士が目の前でやったのである。奇をてらう様子もなく自然に優雅にやられては、心躍る物があった。自分たちの父親と同年代ではないかと思うのに、随分と違うものである。
ではと挨拶をして、また二人の老人は連れだって去ってゆく。
その後ろ姿を眺めながら、彼女たちはまたこそこそと噂に興じた。
「西国の方って、ホントにあんな挨拶するのね!」
「おじさまだけど、ドキッとしちゃった!」
東国の着物姿の老人と西国の紳士というのは、異色の組み合わせである。だが、並んで歩く姿は、なぜか馴染んで見える。親しげな様子は、何年も交流がなかったとは思えないようなしっくりとした物だ。
老後はこちらに身を落ち着けたという西国紳士の姿を、彼女たちはこれから先、十数年目にすることになる。それはいつも、この日のように一条と連れ立って、穏やかに過ごす姿だった。
三十年ほど前に、この国で戦争があった。彼女の生まれる前の、遠い時代の話だ。彼女はその時代の爪痕を、彼らの姿に重ねる。
長い時を経て再会した二人が、恋人なのか友人なのかなど、それは彼女の知るところではない。ただ、二人並んで過ごす姿をを見かけると、時折彼女は思い出すのだ。静かに一人で佇み、桜を見上げる一条の姿を。
彼女はそれを、苦しい、戦争の爪痕のように感じていた。
今、彼らは離れていた時を埋め合わすように過ごしている。いつ見かけても、一緒にいる。
そのことに、得も言えぬ安堵を覚える。
彼はもう、一人で桜を見上げることはないのだ。
一条とは顔見知り程度の赤の他人だ。だから彼女ができるのは、ひそかに願う程度。
どうか二人が、少しでも長く、たくさんの幸せな時間を過ごせますように。
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