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後日談

番外編4 記憶の欠片 カフス

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 そろそろ寒くなってきたと、冬物を出しているときだ。その箱は、すぐに取り出せる場所に鎮座していた。
 気付いた正臣がのぞき込んで、「それも出しておこうか」と箱を開けた。
 中にあったのは、マフラーと手袋、そして小さな箱だ。

「……これ」

 手に取ったマフラーはしっかりとしているが、柔らかく手触りがいい。

「覚えているか? 懐かしいだろう?」
「懐かしいも何も、あなたこそ覚えているだろう? 私も色違いの同じものを持っている。大事に使えば一生ものだと言われたんだ。使い込むと馴染むと。……大切に使ってくれていたのがわかる手触りだ」
「毎年、世話になっている」
「うれしいな」

 涙ぐむ目元を軽くぬぐって、今度は小さな箱を開ける。予想通り、ルカの目の色をした、琥珀のカフスだ。

「随分と高価なものをよこしてくるから、お前の警戒心のなさには、ハラハラしたものだ」
「……手頃に見えそうな物を、選んだつもりだったんだが……もしかして、バレていた?」

 気まずそうに目をそらすルカに、正臣はカラリと笑う。

「一応な」
「……大丈夫だと、自信満々で渡したんだけどなぁ……」

 恥ずかしすぎる。
 顔を顰めて目元を覆ったルカに、楽しげな正臣の笑い声が追い打ちをかける。

「フォンタナ商会の御曹司でなかったなら、返してこいと、突き返すところだったな」
「やっぱり、そこもバレてたのか!」
「そいつぁ、当然、調べるわな」
「いや、一回名前呼ばれた事もあるし、そうだろうなとは思っていたんだ。そうはいっても、いざ言われると恥ずかしすぎるんだが……。子供だったとはいえ、あなたに甘えすぎだ」

 予測はついていたが、こう突きつけられるといたたまれない物だ。
 恥じ入るルカを、ニヤニヤと笑いながら更に追い打ちをかけてくる正臣は、本当に良い性格をしている。

「疑えと言ってあったのに、あっけなく信用するものだから随分気を揉んだものだ」

 揶揄からかう正臣をじとりと睨んで、ルカはふんと溜息をつくと、今度は開き直って胸を張る。
「そこは問題ないからいいだろう。あなたは私の信頼を裏切ることなく、最後まで守ってくれた。我ながら、人を見る目があった」
「そうかい」

 そう言って静かに笑った正臣の様子が、案外照れているのかもしれないとルカは思った。

「しかし……あなたは高価と言ったが、改めて考えると、あなたから与えられたものには、到底及ばないな」

 ルカは苦笑しながら弄んでいたカシミヤとカフスをそっと置いた。そして自身の荷物の中から、そろいのマフラーと手袋を取り出す。

「じじい二人で、お揃いを付けて歩くか?」

 楽しげに笑う正臣に、ルカはニヤリと笑う。

「男の服はバリエーションが少ないから、みんな似たような恰好だ。男が揃いの物を着けていたところで誰も気にすまいよ」
「違いない」
「堂々とお揃いを着て、洒落込んでいこうじゃないか!」

 色違いのマフラーを肴に、二人で額を合わせるようにして笑う。

 今年の冬は、寒さが少し、待ち遠しい。


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