上 下
159 / 163
後日談

番外編3 セラピーお姉さんはカプ推し4

しおりを挟む


 それからもレンのことは、ずっと気にかけていた。
 会うことは二度とない人だ。会うつもりもなければ、会いたいとも思わない。
 けれど、彼の存在はずっと私の心の片隅にいて、フォンタナ商会関連の話には、つい耳を傾ける。
 だから、その小さな新聞記事に気付いたのも、当然だった。
 そこには、引退したレンの東国行きが書かれてあった。

 ああ……、レン。

 それを見つけた瞬間、涙が溢れた。

 レン、あなたはマーシャを忘れてなかったのね。

 彼は、十年以上も前に願っていたそれを、叶えたのだ。それがわかった。

 ……やっと、やっと、東国に行けるのね。

 あれから十数年が経つ。出会った頃には、レンは既に十数年マーシャを想っていた。
 数えれば、優に三十年が経っているということだ。
 なのに、彼はマーシャを忘れていなかったのだ。

 私はその記事を読んで確信した。
 東国で隠居して暮らすのだと語ったという彼の記事には、彼が東国で、今度は何を成すのかと締めくくられていた。

 何を成すかですって? そんなの決まってる。私には分かる。だって私は、誰よりもレンの心を知っている。彼の想いを知っている。忘れたくても忘れられずに苦しんだ彼を知っている。私に人を愛するということを教えてくれた、レアンドロの心を知っている。

 あれはそんなに簡単に消える想いじゃなかった。これだけの年月が過ぎても、忘れるはずがないと信じてしまうほどに強い物だった。
 彼は「東国に帰った」のだ。戻りたい場所へと帰ったのだ。ただ愛する人の側にいたくて、だから東国に帰るのだ。

 やっとマーシャに会いに行けるのね。やっとレンは願いを叶えたのね。

 新聞を握りしめて、ぼろぼろと泣き出した私に、十五年以上支え合ってきた夫が心配そうに声をかけてきた。

「どうしたんだ?」

 愛する夫の心配そうな顔を見つめて、私は笑う。溢れる涙をぬぐって「嬉しいの」と呟いた。

「とても、嬉しいの。私にとって、最高の知らせがあったのよ。……そうだわ、お祝いをするわよ! ケーキを買うわ! ごちそうも作るわ! あんたも一緒に祝ってくれるわよね?」

 よくわからない様子の夫が、「君がそう言うのなら、喜んで?」と、首をかしげるのを見て笑う。
 そうよ、あんたも祝うのよ。あんたは私と今こうしていられて、幸せでしょう? 全部、レンのおかげなんだから。
 きょとんとしたままの夫に笑いながらハグをする。

 レン、おめでとう、レン。ずっと憧れだった人。私に人の愛し方を教えてくれた人。
 ねえ、レン、私、あれからしあわせになったのよ。あなたのおかげよ。
 ねえ、だから、レン。私はずっとずっと、あなたの幸せを祈っているわ。
 ねえ、レン。私、信じてるの。マーシャもきっとレンを待ってるわ。だって、レンがあんなにも愛した人だもの。待ってないわけないじゃない。
 待ってなかったら、許さないんだから。
 ……だから、どうか二人が再会できますように。

 赤い目のまま、夫と手を繋いでお祝いのケーキを買いに街に出る。晴れ渡った青空に、レンの行く末が暗示されているように思えた。
 きっと大丈夫。レンはマーシャに会えるに決まっている。
 だからレンの出航に夫と乾杯をするの。おめでとうって。

 レアンドロ、私に幸せな人生の道を示してくれた人。私の人生を救ってくれた人。
 どうか、しあわせになってね。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

処理中です...