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後日談

1-4(終)

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 なぜ結婚しないのかと聞いても、忘れられない人がいるからと。……一生に一度の恋をしたのだと。
 会いに行かないのかと聞けば、行けないのだと悲しく笑っていました。大手を振って会いに行けるようにするために、がんばっているんだよと……。

 会社で叔父の背負っていた重圧は大変な物でした。ここに来ることができるようになったとき、ようやく全ての荷を下ろすことができたんです。もうなにもいらないと、あなたが結婚しているのなら友として、死んでいるのならあなたを偲びながら生きていくと、全てのしがらみを捨てました。

 彼は言葉を切って、それから俺を見て苦笑した。

「そんな叔父を連れて帰ろう物なら、恨まれてしまいます。あなたと共にいることが、叔父の最後の望みでした。あなたに看取られて、叔父は、幸せだったと思います。もっとも、看取るつもりでいたようですから、大誤算も甚だしいでしょうけど」

 小さく笑いながら、彼は目に涙を溜めてこちらを見た。

「私は、あなたに会いたかった。そして、ずっと、言いたかった」

 ルカの甥はそう言って、頭を下げた。東国の礼儀に会わせた物だ。

「ずっと、叔父を縛り付けていて、申し訳ありませんでした。そして、叔父を幸せにしてくれて、ありがとうございます。……遺言です。もし、あなたより先に行くことがあれば、と。叔父の全ては、あなたの物になるように、手続きされています」

 そう言って頭を下げるルカの甥を、じっと見つめる。
 静かに込み上げてくる感情と共に、もう側にはいないルカを想う。
 こんなに慕われて、愛された家族よりも、俺を選ぶのか。……奪われずにすむのか。死んでもなお、俺と居続けてくれるのか。

「……バカなヤツだ。……バカな、ヤツだ……」

 鼻で笑ったつもりが、みっともなくも、声が震えた。堪えても後から後から涙がこぼれた。
 人前だというのに、いい年したジジイが感情ひとつ押さえられない。見苦しい物だ。


 去りゆくルカの甥に、俺はふたつ頼み事をした。死んだ後、隣に弔ってもらう事への許しと、ルカの物を親族に返して欲しいということだ。
 あいつを親しむ者がいるのなら、形見はくれてやる。
 俺は物には興味がない。あいつの眠る墓があればそれでいい。
 なんなら、今持っていくかと言ったが、俺が生きている間は、俺の側に置いてやってくれと言われた。律儀なもんだ。……よく似ている。ルカが、俺がこの甥っ子をかわいがると考えた気持ちが想像できて笑った。

 すぐに追う身だ。もう、この身体は長くない。そのときは頼むと、頭を下げた。
 せっかくの形見だ。俺が死んだあとは、どうせなら、ルカを慕う者達に大切にしてもらえるなら、それが一番良い。



 うつらうつらと夢を見ながら、これまでを思い返す。
 ルカに出会って、色あせていた世界が意味のある物になった。生きている虚しささえも払拭された。

 ルカ、お前に出会えて、しあわせだった。 





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