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3章
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しおりを挟む娼館通いは長く続いた。
三年が過ぎた頃、彼女は「今月が最後よ」と、切り出してきた。
「あんたもだいぶ落ち着いてきたから、そろそろ良いかなって」
確かに、衝動的な絶望感は、ひと月に一度起こるかどうか、というぐらいにまで落ち着いてきていた。定期的に吐き出し続けたのがよかったのかもしれない。緩やかに、感情は少しずつ変化した。忘れたいと願って考えないようにしたせいか、どこか諦念と共に正臣を想うことが増えた。
「君がそう言うのなら、そうしよう。……随分と世話になったしな」
「レンと会うのが嫌とかじゃないわよ。……結婚するの」
にっこりと笑った彼女に、ルカはパチリと瞬いた。
「それはめでたいな」
引き留めるつもりもなかったが、多少寂しくは思う。けれど、助けてくれた彼女の幸せは、手放しで嬉しかった。
「あんたが私を度々指名するから、だいぶ相手に勘ぐられちゃったのよね。あたしね、レンのこと……手のかかる弟のように想っていたわ」
彼女はルカの髪をそっと撫でた。
「私の方がだいぶ年上だがな」
「手のかかる弟で十分よ」
「……私は、そんな君に救われていたよ」
「知ってる」
彼女は、出会った頃と変わらぬ笑顔で、カラリと笑った。
彼女のその笑顔が、ルカは好きだった。少しだけ、あっけらかんと笑った正臣の笑い方に似ていたな、と思う。
祝いにとその日のチップを弾めば、「期待してたわ」と彼女は笑って受け取った。
彼女との関係は、それだけであっさりと切れた。
元々娼館でしか会わなかったのだから、当然だ。そしてそれっきり、彼女と会うことはなかった。
日常は彼女との逢瀬から変わらぬまま、比較的安定して続いてゆく。
ルカを心配していた姉たち家族は、ルカが娼館通いをやめ、一見落ち着いた様子に安心したようだった。
その頃、一番下の甥が商会で働き始めるようになった。
「おじさん、東国の輸入品見せてよ」
彼は東国との流通に興味が強いようで、よくルカの下へ訪れる。東国の品物のエキゾチックな雰囲気が好きなのだという。
「僕は、父さんの商会より、おじさんのとこの商会の方が好きだよ」
そう言って、時間があればいろんなところに顔を出し、興味深そうに人の仕事を眺めては、声をかけて尋ねたりしている。その人なつっこさに、作業している者達も案外楽しげに対応している。
「じゃあ、将来は、東国商会の方に来るか?」
「行きたい!」
目を輝かせて頷く甥に周りの大人達がどっとわいて、「よし、じゃあ、あれも教えてやろう」と楽しげに連れ立って行っては、また別のことを教えられている。楽しげな甥の様子に、大人達も面白がって相手をする。
東国商会に来るかどうかは話半分に聞きながら、しかし意外と本当にこっちに来るかもな、などと思いを馳せる。東国にいた頃の自分もこんな感じだったのだろうか。
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