敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

３章

１１５ ２－７

『誰が待つか』

『さっさと行っちまえ』

　正臣がルカを嘲笑った。

「……正臣さん！！」

　あれからずっと感情の浮き沈みが激しい。正臣を信じる気持ちが強い日もあれば、正臣に嫌われている妄想に囚われる日もある。

　そして今日も夢を見てルカは自分の悲鳴で目を覚ました。ルカは体を起こしてから、心を落ち着けるように深い息を吐く。
　現実に言われた言葉が、現実とは違う響きでルカを追い詰めてくる。

　あんな風に正臣さんは言わなかった。あれは、正臣さんが私のことを想って言った言葉だ……。さっきのは夢だ。あれは違う。

　何度も自分に言い聞かせる。
　その度に記憶という物は、ひどくあやふやな物だと思い知らされる。あたりまえだった事実が、不安によっていとも簡単にねじ曲がってしまう。

　アンナだって言ったじゃないか、私は、正臣さんから大切にされていた。あの夢は偽物だ。

　……本当に？

　わき上がる不安を、考えないようにしてやり過ごす。
　けれどそうしていたなら今度は別の感情がじわりと胸を巣くう。

　でも、正臣さんは、私の気持ちを、信じてくれなかった……。私のことを好きだと言った癖に、私を捨てた。

　不安定な感情に、度々翻弄される。姉家族の元で療養してた頃ほどではないが、暗い感情にどうしようもなく囚われるのだ。
　最近では一人でいると、涙腺が壊れたかのように些細なことで涙がこぼれるようになっていた。
　ボロボロ、ボロボロと、訳もわからないまま涙が溢れる。

「まさおみさん、まさおみさん、まさおみさん……」

　縋るように彼の名前を呟き続ける。
　何かを思い出したわけでなくても鬱々とした感情が込み上げる。けれど正臣の名を呼べば、少しだけ耐えやすくなる。苦し原因は正臣なのに、癒やすのもまた彼の存在だ。
　けれど、名を呼べば正臣のことを思い出す。捨てられた事実を思い出し、ひどいと詰るように、また彼の名を呼ぶ。
　会いたいのに、こんなにも会いたいのに。せめて会いに行けたのなら、ひどいと彼を詰ることができるのに。彼の安否さえ知りようがないこの状態では、ただ、名前を呼ぶぐらいしか出来ない。

　いっそのこと、忘れてしまいたい。

　何度そう思っただろう。彼のことを忘れたのなら悪夢を見ずにすむのだろうか。毎夜やってくるこの絶望から逃れられるのだろうか。

　どうして待たないなんて言ったんだよ。
　その約束だけでよかったのに。あなたの言葉なら信じられたのに。けれどあなたは言ってくれなかった。あなたは私を捨てた。見捨てた。

　正臣を呼んでは救いを求め、正臣を呼んでは絶望する。

　もう嫌だ。こんな事考えたくないのに。苦しい。辛い。悲しい。
　でも、会いたい。あなたに会いたいんだ……。

　込み上げる絶望に、また泣いた。
　ただただ、苦しかった。