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3章

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 その後何度も東国の政府と商会との交渉は行われるが、芳しくない。
 東国からの手紙を腹立たしげに叩き付けたルカに、商会内の友人が声をかけてくる。

「今度はなんて?」

「革命軍を支援した西国の人間を恨む元軍人が多く、身の保障ができない、だとよ。……バカバカしい!」

 吐き捨てるように怒鳴ったルカに、「落ち着け」と、彼が宥めてくる。

「落ち着いてられるか! こんな見え透いた手を使ってまで……っ」

「お前が東国に行きたい気持ちはわかるが、焦るな」

「焦るな? 十三年だぞ……!! 十分すぎるほど待った!」

 怒鳴って机に拳を叩き付けると、友人が慌てた様子でルカを宥める。

「レアンドロ!」

 普段声を荒らげることなど全くないルカの様子に、室内は異様な気まずさに包まれる。

「……悪いが、帰る」

「あ、ああ、後はなんとかしておく」

 このまま社屋に留めても良くないと、ルカは送り出された。
 その処理はいつまでかかるかわからない、などと……当たり障りのない返答しか返してこないが、それは建前でしかないことがわかっている。現に、現場の人間は既に東国への入国も度々許可されていた。
 ルカは帰ってすぐに東国の入管へ心配は無用と、再度抗議を入れたが、平行線だ。
 革命政府は、未だルカを東国内に入れたくなかったのだ。


「まあ、お前がこっちに留まるのは良かったんじゃないのか? 色々詰めている仕事もあっただろう? 正直なところ、今お前が東国に帰ると、こっちもちょっと困るしな」

「私の代わりなど、いくらでもいるだろう」

「お前の代わりをできる者はいるが、お前の代わりの仕事をするのに、最低三人は必要だろうよ」

「三人でも四人でも、雇えばいい」

「……質がなぁ」

「それは育てろ。……私の東国行きを邪魔するのなら、義兄さんでも容赦しないよ」

「わかってるよ。残念だけど、そこは納得している。フローラにも釘を刺されているしな」

 肩をすくめる義兄に、ルカは溜息をつく。姉がルカの味方でなければ、その限りではなかったのだろう。
 何もかもが忌々しい。
 ルカは既に西国フォンタナ商会の役員となっていた。そして東国で今も大手の商会として販路を広めている東国フォンタナ商会の直系の跡継ぎである。両国に影響力を持つルカという存在は、内政干渉すら可能な権力者となり得る可能性があった。
 東国からすれば、それだけで入国を阻止したい理由となる。
 革命政府が手綱を握れない人物を、できる限り入国させないよう画策しているのだ。

 そんなつもりはないのだと、ただ育った国に戻りたいのだと伝えても、それを真に受ける者などいるはずもない。
 要人を入国させられない理由などいくらでも作れる。
 ルカは必死に食い下がったが、のらりくらりと躱され拒絶された。

 十三年だ。正臣に会うためにひたすら仕事に打ち込んできた十三年だった。脇目も振らず東国との架け橋となるよう仕事に専念した。
 これだけ東国にも尽くしたのに、この仕打ちか。
 ルカは怒りのやり場がないまま、ただ堪えるしかなかった。

 尽くしたからこそ、力を持ったからこその結果は、あまりにも皮肉だった。無力な若者のままであったなら、帰れたのだ。虚しさにやりきれなくなる。
 どうにかして、入国できないかと考えた。何も正面からいく必要はないだろうと。
 例えば、再び身分を隠して入国する、とか。だが、まだまだ厳しい入国制限の中、そうしてまで会いに行こうものなら、正臣に迷惑をかけるのは必至だ。現実味がない。では、他には……。
 必死に抜け道を探すが、どうしても良い方法が見つからない。

 一時的に入国するのなら、おそらく可能だろう。けれど、そこでの自由はまず許されない。正臣に会いに行くことすら不可能だろう。いや、会いに行ったとしても、監視下でそれをするとなると、軍人であった正臣にどんな迷惑が降りかかるかわからない。今、彼が無事かどうかもわからないというのに。そんな帰国では意味がないのだ。正臣の元に帰り、定住することこそが目的なのだ。無理に入国すれば、その後もっと面倒なことになって引き離されかねない。

「……くそっ」

 どうすればいい。なにか他に方法は……。

 考えるほどに手の打ちようがないことに思い至る。後は、東国の安定を待つしかない。
 怒りはじわじわと無力感となって蝕まれてゆく。

 では、あとどのくらい。

 先行きの見えない未来が、ずんと重くのしかかってきた気がした。

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