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2章

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 正臣の事を思えば、幸せと、喜びと、苦しさと、悲しみと、あらゆる感情が入り交じる。けれどその根底にあるのは、正臣への好意だ。拭えない愛情だ。ひいては、彼から与えられた愛情でもある。
 最後まで優しい人だったと思う。言葉が少なくて、無粋で、あたりまえのように助けてくれて、頼ったら頼らせてくれる人だった。
 愛情だけ与えてくれる、ずるい人だった。
 忘れられるわけがないと思った。嫌いにさせてくれないのだ。

 時には、もしかしたら本当に迷惑だったのかもしれないと不安になった。本当はもう面倒になっていたのではないかと心が揺らぐこともあった。
 なんであんなに優しくしたんだと、その度にルカは心の中で、何度も何度も正臣を詰るのだ。そして結局は晴れ晴れとした気持ちで、最初と変わらぬ一つの結論にたどり着く。
 それでも、好きなのだと。

 だから繰り返し誓った。絶対に、彼の元に返ってやる、と。
 どう思われてもかまうものか。迷惑だったとしても知らない。それでも、きっと彼は私を拒絶できない。結婚してても知るものか。あんな男、困ってしまえば良いのだ。

 男くさい凜々しい顔立ちが少し困ったように眉を下げて、微笑むように見つめてくる様子が、簡単に思い浮かんでしまう。
 それを想像してルカは笑う。
 ざまぁみろ。
 そう言って笑ってやる自分を想像して、ルカは笑った。やはり涙が勝手に出てしまうが、苦しいだけではない。

 今日もそう誓って、暗闇に目を向ける。
 再びの地に戻れるのが何年後になるかはわからない。しかし、絶対に彼の元に戻るのだ。


 ひと月の船旅のあと、フォンタナ商会が必ず使う経由地の国で、ようやくルカは商会の者と合流できた。ここは商会の拠点の一つとなっており、地元の従業員ではなく、東国と西国双方の人間が派遣されている。
 そこまでは他国の貨客船での渡航だったが、そこからはフォンタナ商会が有する貨客船への乗り換えとなり、部屋も一等船室だ。そしてレアンドロとして商会の名の下にに二人を庇護下に置くことが出来るようになったため、立木ルカという女性の役割を終えた。ルカのことをレンと久しぶりに呼んだ二人は、なんだか不思議な感じねと、顔を見合わせて笑った。

 ここまで来ると基本的に旅路の問題はなくなった。
 東国の商会の様子も詳しく知ることができた。
 ルカの父親はまだ拘束されたままだという。けれど母親はあれから捕まることなく商会を回しているようだ。表向きの貿易は日用品ばかりだ。その裏で革命軍への軍需品の密輸もうまくいっているらしい。
 まもなく東国は再び荒れるだろう。隣国との戦争になるのは避けられるだろうか。軍人である正臣はどうなるのだろう。ルカはもう、革命の成功と正臣の無事を祈ることしかできなくなっていた。

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