上 下
89 / 163
2章

89 3-17

しおりを挟む

「ルカ、今日は花街の女性とやり合った末、抱き合っていたと聞いた。…………何があったんだ」

 帰ってきた正臣は、今日もルカの顔を見るなりそう呻くと、額を押さえた。

「お花見の時のお姉さんが、正臣さんのことを心配してただけだよ、大丈夫」

「それがどうして、抱き合うことになるんだ……」

「抱き合うって、西国の挨拶だよ。ハグして、ちゅって」

 ルカは正臣に抱きつくと、頬を右、左と触れ合わせた。
 正臣は低く唸って、呻くような声を漏らした。

「……東国ではしない」

「もちろん、こんなに抱きついたら東国の人には失礼だから、あのお姉さんには、このくらいの感じ」

 触れるか触れないかのハグのあと、頬をつんと触れ合わせる。

「向こうからすると、女同士だから大丈夫だって」

「お前は男だろうが」

 眉間に皺を寄せて、少し厳しい物言いの正臣に、珍しいとルカは首をかしげた。

「……正臣さん、まさか、嫉妬してる……?」

 なんちゃってと、冗談で言ってみたら、正臣が顔を顰めた。

「なぜ、しないと思った」

「するんだ! うれしい!!」

 ぱっと笑顔を浮かべたルカに、正臣は呆れたように目を向けた。

「……お前に俺はどう見えてるんだ」

「全く動じない人?」

「そんなわけがあるか。お前に振り回されてばかりだろうが」

 しゃあしゃあと言ってのけた正臣に、ルカは口をとがらせる。

「そんな嘘、よくないと思う」

「嘘なものか。お前に転がされて、お前のいうことならホイホイと何でも聞いているだろう?」

「そんな覚え、全くない」

「これだけオヤジをいいように転がしておいて、本人は無自覚か」

 正臣は抱きついたままでいるルカを、クックと笑いながら楽しげに撫で回した。

「そんなことより、正臣さんが嫉妬してくれたのが嬉しい。あの女の人とのことなんて、どうして嫉妬するのかわかんないような相手なのに」

 声を弾ませるルカに、正臣が苦笑する。

「自分の男が女性を抱きしめて口付けたなどと聞けば、穏やかでないのはあたりまえだろう」

 自分の男と言われて、ルカは更に浮かれてにこにこと笑う。

「女性っていっても、あの人、十以上は年上でしょう? そんな気持ちにならないよ」

 あり得なくて笑い声を上げると、正臣の顔が厳しくなった。

「俺は、あれより年上だぞ」

「正臣さんは、正臣さんだから」

「それでなぜ、抱きしめることになるんだ……」

 溜息をつく正臣に、ルカはどう説明したものかと首をかしげた。

「……あの人が意地悪交じりに、がんばりなさいって、言ってくれたから? ちょっと違うけど、うん、そんな感じ。……そもそも、あの人の名前すら知らないし」

「……西国人の距離感は、理解出来ん」

「……ていうか、気付いたけど、私はあの人どころか、年の近い女の子にも興味ないかもしれない。……かといって、おじさんも嫌だし……」

 ルカは考え込む。以前はかわいく思えた女の子も、今はかわいいとは思うだけで、それ以上の感情はない。若い男とか、そういう意味で興味は持てないし、どう考えても正臣の方が断然にかっこいい。正臣ぐらいの頼りになる大人の男は……性的な目で見るのは無理だ。正臣はこんなにもルカを魅惑するというのに。
 ルカはじっと正臣の顔を見つめる。

「……私、正臣さんにしか、興味がないみたい……」

 今日も正臣はかっこいいと思う。今寄っている眉間の皺など最高だ。
 と思えば、ふっと険がとれ、困ったような笑みになる。目尻の皺も、愛嬌があっていい。

「……変わった、趣味だな」

「正臣さんはかっこいいから、私の趣味はいいよ」

 ふふんと胸を張れば、正臣が苦笑した。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない

時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。 通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。 黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。 騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない? ◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。 ◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

処理中です...