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2章
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しおりを挟む『レアンドロ』
優しい呼び声に、それは父の声だとルカは思った。まだ眠い。うとうとと布団を引き寄せる。
『起きないのか?』
あともうちょっと……。
そう答えれば、ふわりと頭を撫でられる感触がする。
『レアンドロ?』
なに?
ふふっと笑う。こんな風に撫でられたのはいつぶりだろう。だって父は、軍に……。
夢うつつだったのが、ふっと目が覚める。
久しぶりに正臣と抱き合って眠った翌朝、まだ薄暗いというのに、ルカは目を覚ました。
隣に正臣がいない。でも、すぐ側に正臣がいる気配がする。ルカは重いまぶたを必死に開けた。
「……正臣さん?」
「起こしたな。まだ起きるには早い。寝ていろ」
優しい声色が上から静かに降ってきて、正臣の大きな手が、髪をさらりと梳いた。
なんだ、正臣さんが撫でてたんだ。
さっき、名前を呼んで頭を撫でた父の夢を思い出す。
あれは、父さんじゃなくて、正臣さんだったのか……。
だって夢にしては、囁かれた声も耳の奥にはっきりと残っている。
レアンドロ、って……。
……んん? やっぱり、夢だったのか。だって、正臣さんは、ルカって呼ぶし。
寝ぼけた頭で、あれっと思いながら、撫でられる心地よさに、考えていたことがぼんやりと消えてゆく。
何となくそれが気持ちよくて、くふっと笑いが漏れる。
「……うん。正臣さんは? 身体、大丈夫?」
「問題ない」
「ん」
ルカは気合いを入れて身体を起こすと、両手を広げた。苦笑する正臣が身体を寄せてくる。彼はもう着替え終わって軍服姿だ。
もう家を出るんだ。早朝から大変だな……。
ルカは、触れ合った正臣の身体をぎゅうっと抱きしめた。
「いってらっしゃい」
「ああ、いってくる」
ルカは正臣を見送ってから再び布団の中に身体を倒す。
正臣より若いのに、体力はあるつもりなのに、朝はどうしても弱かった。早朝に出発されると、起きることができない。
正臣はルカのスキンシップに軽く返してくれはするが、基本的にルカの好きにさせるか、なされるがままだ。東国人はあまり愛情表現をしてくれない。正臣はだいぶしてくれている部類のような気もするが、やはりルカとは少し距離感が違う。
けれど、ハグを強請るとほらと身を差し出してくる仕草や、ルカが何をするつもりなのかよくわかっていなくても、何かを求めると求められるまま身を任せてくる様子が、案外好きだった。自ら望んでくれるわけではない。ハグもあまり返してくれない。けれど、正臣が何の不信感も抱かずに身を任せてくる様子は、信頼していると、お前の物だと言われているようなくすぐったさがある。
ルカは目を閉じると、くふふっと思い出し笑いをして、もうひとときの眠りについた。
レアンドロと呼ばれた気がすることに小さな引っかかりを覚えつつも、本当に呼ばれたかどうかもあやふやで、気のせいだろうと、眠さに任せて流した。
身元に気付かれているかもしれない、けれど、正臣がそれを明らかにするつもりがないのなら、互いに気付かぬふりでいる方が、いいのだろう。そう言い訳をして、気付かなかった事にした。
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