上 下
85 / 163
2章

85 3-13

しおりを挟む

 ルカも馬鹿ではない。なぜ正臣が嫌がるかぐらいは想像がつく。自分が正臣の立場でも嫌だろう。と、理性では思うのに、それでも全部見たいと思ってしまうのだ。正臣の汚いところも、みっともないところも、全部見せて欲しい。カッコよくて綺麗なばかりの正臣だけじゃなく、隠しておきたいような姿まで、全部。ルカにだけ見せる正臣の姿が、もっともっと欲しい。

 ふと、ルカを誘って淫らに腰を揺らし、笑いながら煽る正臣の様子が脳裏をよぎる。

「……」

 間違いなく、ルカしか知らない正臣の姿だ。あの正臣がそんな姿を見せるだけで、相当すごいことだと思う。けれど。
 ……それで足りないなんて、贅沢かもしれないけど、さ。
 拗ねていても仕方がない。ルカはいそいそと布団を敷いて共寝の準備をした。

 手拭いを首にかけ、簡単に腰を縛っただけの浴衣姿で部屋に戻ってきた正臣は、ルカを見るなり、ふはっと堪えきれぬ笑いをこぼした。
 布団を敷いていかにもその気満々の様子で、布団の上に座って、なのに顔は拗ねてそっぽを向いている。

「まだ怒っているのか?」

「別に怒ってないよ」

「そいつは良かった。……お前に嫌われると、どうすれば良いのか分からん」

 そっぽ向いたままでいるルカの頭が、そっと撫でられる。正臣の声は、どこまでも楽しげだ。
 正臣を相手にすると、いつもこうだ。本当に怒ってないし、意地を張ってるわけでもない。ただ、どうして良いか分からなくなる瞬間がある。いや、わかっている。「大丈夫」と言って正臣の方を向いて笑えば良いのだ。けれど、それをしたくない。

「ルカ」

 優しく呼ばれてチラリとそちらに目を向ける。
 ほら、と両手を広げてみせる仕草は、いつものルカと逆だ。おいでと言わんばかりの仕草に、胸が締め付けられる。
 ルカはその腕の中に飛び込んだ。

「……おっと」

 勢いを付けてそのまま押し倒して、正臣の腕の中に包み込まれる。ルカもその頭を掻き抱いた。
 正臣が機嫌を取ってくれるのが嬉しい。拗ねた素振りに気を遣ってくれるのが嬉しい。一緒にいる時間がとれなくて寂しかった。きっと、自分は正臣に甘えているのだ。きっと正臣もそれをわかっていて、それに乗ってくれている。
 疲れて帰ってきているのに。

「……ごめんなさい」

「気にしなくていい」

「うん」

 正臣の上で身体を起こし、彼の腰を跨ぐようにして膝立ちをする。
 キスをしながら乱れた着物の襟元に手を差し込んで素肌に触れる。

「……この体勢は、嫌じゃない?」

 キスをしながら胸元をゆっくりと撫でる。

「ああ」

「……このまま、していい?」

「さあて、どうしようか」

「た、たまには私も正臣さんを見下ろしたい!」

 押し倒され返されそうな気配を感じて、ルカが訴える。

「もっと触りたいから、正臣さんは寝てて!」

 両肩を押さえつける必死な様子に、正臣がそっと目をそらしてククッと堪えきれない笑いをこぼした。

「さわり、たいのか?」

 笑いを堪えながら楽しげに問いかけられて、ルカは頷く。

「……好きにしたらいい」

 目を細めて笑った正臣が、力を抜いた。

 たわいないやりとりがひどく楽しい。
 抱き合いながら他愛もない言葉を交わす。体が重なることで、なお満たされてゆく。
 なかなかゆっくり出来なかった寂しさが、ようやくぬぐわれた気がした。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

晴れの日は嫌い。

うさぎのカメラ
BL
有名名門進学校に通う美少年一年生笹倉 叶が初めて興味を持ったのは、三年生の『杉原 俊』先輩でした。 叶はトラウマを隠し持っているが、杉原先輩はどうやら知っている様子で。 お互いを利用した関係が始まる?

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...