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2章

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 その日、ルカは夕方に、偽姉と乳母と食事を取った後、正臣の部屋へときていた。少し遅くなるとは聞いていたが、最近ゆっくり会えなかったため泊まらせてもらうのだ。
 少しずつ、正臣の忙しそうな様子がひどくなっている。ルカの方には、今のところ革命軍やフォンタナ商会の新しい情報は入っていないが、軍部の方では何か動きがあるのだろうか。
 戸の開く音がして、ルカは玄関まで駆けてゆく。

「おかえりなさい」

 両手を広げて土間に立つ正臣に覆い被さるようにハグをすると、腕の中でクスリと笑う吐息が聞こえて「ただいま」と背中をポンポンと宥めるように返される。

「どうした」

「最近正臣さん、忙しそうだから」

 寂しい、と小さく呟くと、「そうか」と柔らかな声が返ってくる。

 正臣が、突然のルカの訪問を嫌がったことはないが、やはり受け入れられるとほっとする。正臣にはルカに言えないことが多くあるだろう。ルカもある。この家の出入りは好きにしていいと言われていて、最初にルカがやったのは、正臣の留守中に家の中を隅々と見させてもらうことだった。正臣には申し訳ないと思ったが、探らないという選択肢はなかった。

 当然というか、やはり、家にはルカに見られて困るような情報は何も置かれていなかった。正臣が家で仕事をするときは、書類は金庫に入れていた。
 ルカと同様、正臣も一線は引いているのだ。勝手に家捜しをするような真似をしておいて、寂しいなどと思うのは筋違いだとわかっているが、それでも少しだけ寂しく思えた。

 相容れない立場なのだと、時折思い知らされる。
 忙しそうにしている正臣に「何をしているの?」とは聞けない。
 ブーツを脱いで家に上がり軍服を脱ぐ様子を見ながら、「お風呂入れてあるよ」と声をかける。

「そうか、ありがたいな」

 ルカは笑うと、両手を広げて首をかしげる。お礼のハグをしろといわんばかりの動作に、正臣がボタンを外しながら、ほらというように、上半身を倒してきた。ルカはそれをぱふっと受け止めて、コツンと額を合わせた。

「雑。ちゃんとハグしてよ」

「残念。手が離せないんだ」

 正臣は抱きしめられて笑いながらシャツを脱いでいく。

「……なあ、ルカ。今日も俺が欲しいか?」

 今にも触れ合いそうな唇が誘惑してくる。
 忙しそうにしていたため最近触れ合う時間もなかった。正臣も疲れているだろう。当然正臣のことは欲しい。けれど、正臣の身体に負担がかかるのは嫌だ。

「……大丈夫? しんどくない?」

「でなければ、誘わないさ」

 笑っているが、大丈夫だろうか。
 迷っているところに「したくないか?」と囁かれて、結局ルカは欲に負けてしまう。正臣に甘えるように、ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めた。

「じゃあ、する」

「そうか」

 額を重ねて囁くようにする会話はくすぐったい。

「ねえ、いつも正臣さん準備してくれるけど、それ、私がやりたい」

 風呂に向かおうとする正臣に、ふと思いついて言ってみる。

「……駄目だ」

 素知らぬ顔でそう言った正臣がルカの頭をクシャリと撫でた。

「いつも、私のために解してくれてるでしょう? 正臣さんに全部やってもらうばっかりなの、嫌だ」

「……駄目だ」

「どうして?」

「……どうしても、だ」

 溜息をつきながら苦笑する正臣に、ルカは口をとがらせる。正臣の様子が、まるっきり、聞き分けのない子供に対するような物になっていることが気に食わない。

「けち」

「そういう問題じゃない。……後でな」

 制服を脱ぎ終わった正臣が風呂場に向かうのを、ルカはむっつりと見送った。
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