69 / 163
2章
69 2-6
しおりを挟む男から無理に身体を開かれるのを想像して、ぞわりと震える。襲われる正臣を想像して、ルカはぎくりと震えた。
じゃあ、自分のしたことはどうなんだ。
無理矢理ではない。けれど、ルカが抱きたいと言ったから、受け入れてくれた。正臣が、抱かれたいと言ったわけじゃない。
男に蹂躙される屈辱を、隠しているだけの可能性もある。
血の気が引いた。
ルカは自分が正臣にしてしまった行為が恐ろしくなった。
正臣の答えは、ルカが思い描いていた物とは全く違うものだった。他にも彼を愛した人がいるのだと思っていたのに。いっそ、そっちの方が、ずっとよかった。
聞かないほうが良さそうなのは正臣の様子でわかっていたのに。嫌なことを聞いてしまった。思い出させてしまった。
震えたまま言葉を失ったルカの様子を見て、正臣が困ったように苦笑した。
「……悪かった。つまらないことを話した。経験ある方が安全だろう。問題ない」
「違います!! だって、そんな……。謝らないで。私が悪いのにっ。そんなの、イヤな記憶じゃないか!! ……言わせて、ごめんなさい……」
「嫉妬にはおよばない、という程度のことだ。気にするな」
苦笑する正臣に、ルカが首を振る。震えながら正臣の腕を掴み、詰め寄った。
「私のしたことは、それを思い出させてしまったんじゃないですか? あなたにとって、嫌な行為だったのではないですか? ……私は、あなたに、つらい思いをさせてしまったのでは、ないですか……?」
経験があったから受け入れることに躊躇いがなかった……と、正臣は言いたいのだろう。
そんなことがあってたまるか。
体は経験があっても、無理矢理された経験では気持ちがついていかないかもしれない。正臣の経験は不愉快な記憶と紐付いている。つまり、行為自体が嫌な思い出を掘り起こしたことになる。
ルカは動揺と混乱で、どう彼に償ったら良いのか分からなくなった。
私が抱きたいだなんて言ってしまったから……。
彼の顔に嫌悪を見つけるのがこわい。でも、彼の気持ちを知りたくて覚悟を決めて仰ぎ見た。
正臣はというと、なぜかきょとんとした様子で目をまるくしてルカを見ていた。直後。
「ふっ、ははははは!」
「まさ、おみ、さん?」
おかしそうに肩を揺らして笑う正臣の表情は、ひどく楽しげだ。
この人はどうして、いつも、笑うときじゃないときに限って笑うんだ……。
ルカは途方に暮れる。
なぜ笑われているのか、意味がわからない。
微妙な顔をして正臣を見つめるルカを、彼は楽しげに撫で回した。
「いや、大丈夫だ。全く思い出しもしなかったぞ。そうだな……。あれは、ただの暴力だった。そこに感情なんかなかった。快感なんてあったもんじゃない。あったのは痛みと屈辱ぐらいのもんだ」
クックと笑って話す彼の顔は、ひどく冷めている。けれど、ルカに目を向けた途端、その目が弧を描いて、とても柔らかくルカをとらえた。
「お前とした事とは、全く違う」
多くを語らない彼は、それ以上は話そうとしなかった。ただ、楽しげな様子で笑みを浮かべ、ルカを引き寄せると、軽く口付けた。
その様子が子供を宥めているようで、ルカはむっと口をとがらせた。
「私が言えた義理はないけど、その上官を、ぶち殺してやりたい……っ」
「ククッ、……心配しなくても、もう死んでるさ」
「え?」
「戦場に不運はつきものだ」
うっすらと笑った彼の表情を見て、それ以上の詮索は不要だと悟る。正臣の中で決着がついていることを、これ以上不用意に掘り起こしてはいけない気がした。
10
お気に入りに追加
291
あなたにおすすめの小説
双子は不吉と消された僕が、真の血統魔法の使い手でした‼
HIROTOYUKI
BL
辺境の地で自然に囲まれて母と二人、裕福ではないが幸せに暮らしていたルフェル。森の中で倒れていた冒険者を助けたことで、魔法を使えることが判明して、王都にある魔法学園に無理矢理入学させられることに!貴族ばかりの生徒の中、平民ながら高い魔力を持つルフェルはいじめを受けながらも、卒業できれば母に楽をさせてあげられると信じて、辛い環境に耐え自分を磨いていた。そのような中、あまりにも理不尽な行いに魔力を暴走させたルフェルは、上級貴族の当主のみが使うことのできると言われる血統魔法を発現させ……。
カテゴリをBLに戻しました。まだ、その気配もありませんが……これから少しづつ匂わすべく頑張ります!
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
Restartー僕は異世界で人生をやり直すー
エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。
生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。
それでも唯々諾々と家のために従った。
そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。
父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。
ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。
僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。
不定期更新です。
以前少し投稿したものを設定変更しました。
ジャンルを恋愛からBLに変更しました。
また後で変更とかあるかも。
俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜
明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。
しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。
それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。
だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。
流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…?
エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか?
そして、キースの本当の気持ちは?
分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです!
※R指定は保険です。
音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)
柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか!
そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。
完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【再掲】オメガバースの世界のΩが異世界召喚でオメガバースではない世界へ行って溺愛されてます
緒沢 利乃
BL
突然、異世界に召喚されたΩ(オメガ)の帯刀瑠偉。
運命の番は信じていないけれど、愛している人と結ばれたいとは思っていたのに、ある日、親に騙されてα(アルファ)とのお見合いをすることになってしまう。
独身の俺を心配しているのはわかるけど、騙されたことに腹を立てた俺は、無理矢理のお見合いに反発してホテルの二階からダーイブ!
そして、神子召喚として異世界へこんにちは。
ここは女性が極端に少ない世界。妊娠できる女性が貴ばれる世界。
およそ百年に一人、鷹の痣を体に持つ選ばれた男を聖痕者とし、その者が世界の中心の聖地にて祈ると伴侶が現れるという神子召喚。そのチャンスは一年に一度、生涯で四回のみ。
今代の聖痕者は西国の王太子、最後のチャンス四回目の祈りで見事召喚に成功したのだが……俺?
「……今代の神子は……男性です」
神子召喚された神子は聖痕者の伴侶になり、聖痕者の住む国を繁栄に導くと言われているが……。
でも、俺、男……。
Ωなので妊娠できるんだけどなー、と思ったけど黙っておこう。
望んで来た世界じゃないのに、聖痕者の異母弟はムカつくし、聖痕者の元婚約者は意地悪だし、そんでもって聖痕者は溺愛してくるって、なんなんだーっ。
αとのお見合いが嫌で逃げた異世界で、なんだが不憫なイケメンに絆されて愛し合ってしまうかも?
以前、別名義で掲載した作品の再掲載となります。
転生先がハードモードで笑ってます。
夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。
目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。
人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。
しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで…
色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。
R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる