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2章

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 男から無理に身体を開かれるのを想像して、ぞわりと震える。襲われる正臣を想像して、ルカはぎくりと震えた。

 じゃあ、自分のしたことはどうなんだ。

 無理矢理ではない。けれど、ルカが抱きたいと言ったから、受け入れてくれた。正臣が、抱かれたいと言ったわけじゃない。
 男に蹂躙される屈辱を、隠しているだけの可能性もある。

 血の気が引いた。
 ルカは自分が正臣にしてしまった行為が恐ろしくなった。

 正臣の答えは、ルカが思い描いていた物とは全く違うものだった。他にも彼を愛した人がいるのだと思っていたのに。いっそ、そっちの方が、ずっとよかった。
 聞かないほうが良さそうなのは正臣の様子でわかっていたのに。嫌なことを聞いてしまった。思い出させてしまった。
 震えたまま言葉を失ったルカの様子を見て、正臣が困ったように苦笑した。

「……悪かった。つまらないことを話した。経験ある方が安全だろう。問題ない」

「違います!! だって、そんな……。謝らないで。私が悪いのにっ。そんなの、イヤな記憶じゃないか!! ……言わせて、ごめんなさい……」

「嫉妬にはおよばない、という程度のことだ。気にするな」

 苦笑する正臣に、ルカが首を振る。震えながら正臣の腕を掴み、詰め寄った。

「私のしたことは、それを思い出させてしまったんじゃないですか? あなたにとって、嫌な行為だったのではないですか? ……私は、あなたに、つらい思いをさせてしまったのでは、ないですか……?」

 経験があったから受け入れることに躊躇いがなかった……と、正臣は言いたいのだろう。

 そんなことがあってたまるか。

 体は経験があっても、無理矢理された経験では気持ちがついていかないかもしれない。正臣の経験は不愉快な記憶と紐付いている。つまり、行為自体が嫌な思い出を掘り起こしたことになる。
 ルカは動揺と混乱で、どう彼に償ったら良いのか分からなくなった。

 私が抱きたいだなんて言ってしまったから……。

 彼の顔に嫌悪を見つけるのがこわい。でも、彼の気持ちを知りたくて覚悟を決めて仰ぎ見た。

 正臣はというと、なぜかきょとんとした様子で目をまるくしてルカを見ていた。直後。

「ふっ、ははははは!」

「まさ、おみ、さん?」

 おかしそうに肩を揺らして笑う正臣の表情は、ひどく楽しげだ。

 この人はどうして、いつも、笑うときじゃないときに限って笑うんだ……。

 ルカは途方に暮れる。
 なぜ笑われているのか、意味がわからない。
 微妙な顔をして正臣を見つめるルカを、彼は楽しげに撫で回した。

「いや、大丈夫だ。全く思い出しもしなかったぞ。そうだな……。あれは、ただの暴力だった。そこに感情なんかなかった。快感なんてあったもんじゃない。あったのは痛みと屈辱ぐらいのもんだ」

 クックと笑って話す彼の顔は、ひどく冷めている。けれど、ルカに目を向けた途端、その目が弧を描いて、とても柔らかくルカをとらえた。

「お前とした事とは、全く違う」

 多くを語らない彼は、それ以上は話そうとしなかった。ただ、楽しげな様子で笑みを浮かべ、ルカを引き寄せると、軽く口付けた。
 その様子が子供を宥めているようで、ルカはむっと口をとがらせた。

「私が言えた義理はないけど、その上官を、ぶち殺してやりたい……っ」

「ククッ、……心配しなくても、もう死んでるさ」

「え?」

「戦場に不運はつきものだ」

 うっすらと笑った彼の表情を見て、それ以上の詮索は不要だと悟る。正臣の中で決着がついていることを、これ以上不用意に掘り起こしてはいけない気がした。

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