敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

2章

64 2 新しい関係1

　ルカの知る正臣は、基本的に多忙である。出先への行き帰りで時間を合わせているため、顔を見ることはできるものの、本当にいつも何かしら用事がつまっていて、忙しくしている。

　状況と立場を考えれば当然であるが。むしろ会う度にこんなに会話する時間をとっていてもいいものか、そちらの方が心配なぐらいである。
　とはいえ、基本的に正臣の移動の道中は、見回りの意図もあるらしく、途中途中でいろんな人に声をかけたりかけられたり、騒ぎがあればそちらに向かったりと、やはり忙しない。そんなだから、ルカとの初対面の時にも助けに向かった様子が想像できるようになった。あの時も、本当にただの親切心だったのだろうなと、行く先々で信頼されている正臣を見ながら思う。

　正臣と会う場所はだいたい同じだが、通る道はその都度違う。それは巡回だけではなく、別の意図もあるのかもしれないが、そこまではルカも詳しく聞いたことがない。
　仕事に関して口を出さないのは暗黙の了解だ。それはルカ自身探られたくない腹があるため必然的にそうなった。正臣の立場であればルカ以上に言えないことがあるだろう。

　互いに踏み込ませない一線を保ちつつ、関係を深めていっている違和感が常にあった。しかし、そうでなければ保てない関係だということもわかっていた。
　互いに終わる未来を見すえているからこそ、保てる関係なのかもしれない。
　そんな忙しい正臣が、十日もしないうちに休日を告げてきた。


「……大丈夫なんですか？」

　思わず聞き返してしまったのは、仕方がないだろう。

「なにがだ」

「だって、正臣さん、いつも忙しいのに」

「お前との時間なら無理にでも開ける」

　ふわりと笑った顔があまりにも不意打ち過ぎて、ルカの顔が一瞬で赤くなる。

「え、……あっ、と、はい……」

　何でこんな、急に、前みたいな笑顔を……。

　心臓が跳ねて忙しない。正臣がどこかまぶしそうにルカを見つめていた。そこには失われたかに思えた恋情がこもっている。愛おしまれるような、慈しまれるような、そんな表情だ。
　この前まで全く見せなくなっていたのに、なんで。
　耳まで熱くなっているのを自覚しながら、ルカは耐えきれず俯いた。

　何なんだこの人は。ずるい。ずるすぎる。私が男だとわかって興味なくなりましたみたいな顔をしてたじゃないか。なんで、今更……。

　そこまで思って気付く。
　違う、今更じゃない。あの時ルカが正臣を求めたからだ。ルカの気持ちを正臣が知ったから、正臣の態度が変わったのではないか。
　変わったというより、戻った。