上 下
59 / 163
2章

59 1-10

しおりを挟む

 伝わっていない。

 ルカの顔が、泣きそうにクシャリと歪んだ。
 わかっていたが虚しさが込み上げる。
 正臣はルカが男だと知ってから、恋心を失ったのは明らかだ。そしておそらくルカが示してきた好意も、親愛や友情と取られているのだろう。

 正臣がルカに対して嫌悪せず、未だ同性への親愛程度とはいえ情を抱いてくれているというだけでも、感謝するべきだ。……何度も自分にそう言い聞かせてきた。
 けれど、一度知った甘さをルカは忘れられなかった。
 もう一度あの恋情を向けられたい。性別を知られる直前まで確かにあった想いを向けられたい。

 穏やかに見守る素振りの正臣を見ていると、大それた望みだと思う。
 男同士などありえないと言外に言われているも同然だ。ルカは男だ。見た目を女のように取り繕っていても、性別は変えようがない。男同士など普通は忌避される。

 それを実感して、ルカは思わず怖じ気づいてしまって黙り込んでしまう。その上、その様子を心配した正臣から「どうした」と頭を撫でられてしまっては、その優しさが辛くて泣きそうになる。
 見上げれば正臣が困ったように首をかしげていた。

 胸がひとつはねた。
 恋情はなくても、そこには以前と変わらぬ厚意がある。
 ずっとルカの言葉を、そのまま受け止めてくれた人だ。さすがに嫌われると思ったことも、笑って、がんばったとルカの方を慰めてくれるような人だ。
 不安が払拭されるような安心感と信頼がそこにあった。

 正臣なら……と、理屈抜きでとっさにそう感じてしまったのは、必然だったのだろう。
 困らせると分かっていた。でも、この気持ちを受け止めて欲しい。その感情に突き動かされて、ルカは縋った。

「あの、違うんだ……そうだけど、違うんです。私は、私は……」

 けれど、衝動的に紡ぎ出した言葉は、どう伝えたら良いのか分からなくなり勢いを無くす。

「どうした?」

「私の好きは、その、もっと一緒にいたいということで、あなたの隣にいることを許されたいということで、あの、私は、その……」

 正臣はじっと黙り込んだまま、まじまじとルカを観察するように見つめてくる。

「あの……」

 正臣の顔が思ったより近くにあった。一気に顔が熱くなる。目を見るのが恥ずかしくなって下にそらせば、ルカがキスしたいと思っている唇が、そこにある。

 ところでルカは十九の健全な男である。そして今は好きな相手と二人きりだ。更に今日は告白するためだけに呼んだわけではなかった。いっそのこと勢いで体を繋げてやることまで考えていたのである。タイミングさえうまく行けば襲ってしまうつもりだった。正臣のことだ、乗っかってしまえば邪険にできまいと。
 いざとなると告白すら危うい状態で、とてもではないがそこまでこぎつけられる気はしない。しかし近すぎる正臣の距離に、忘れていた妄想が一気に駆け巡った。脳裏をよぎるのは何度も妄想しためくるめく愛欲の一幕である。
 つまり、あらぬところに血が集中してしまった。

 うわっ、バカ、なんでそこが反応するんだ!

 むくりと起き上がった股間に気付いて、思わず、ルカはもじもじと腰を引いた。まだそんな状況ではない。

「……」

 正臣の視線が股間を隠すように置いた手元に向けられる。
 気付かれた。
 ルカはいたたまれなさに目を背けた。

「……まさかとは思うが、やりたいのか?」

 驚いたあと、クックと笑いながら顔をのぞき込まれる。
 これは、からかわれている。
 ごまかしたい感情と、もうここは言ってしまった方が早いのではと、せめぎ合う気持ちに混乱しつつ、勢いに任せて、ルカは少し涙のにじむ目で正臣を睨むように見上げた。

「し、したい、です。あなたと、交わりたい……」

 正臣が、ぎょっと目を見開いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!

ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生! せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい! 魔法アリなら色んなことが出来るよね。 無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。 第一巻 2022年9月発売 第二巻 2023年4月下旬発売 第三巻 2023年9月下旬発売 ※※※スピンオフ作品始めました※※※ おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

課長と行く異世界の旅〜異世界転移に巻き込まれた課長がチートを発揮している件について。

真辺わ人
ファンタジー
俺、近江 幸(おうみ ゆき) 28歳。 会社の避難訓練に参加していたはずなんだけど、足を滑らせたようで、非常階段から落っこちた。 死んだ──と思ったけど、気がついたら異世界へ飛ばされていたのだった。 それも何故か我が課の万年課長と一緒に……? 課長がチート? 課長がハーレム? ……えっ、俺は? もふもふと出会ったり、変わった聖女を拾ったり、立ち寄った町の困り事を解決したり……そんな課長とちょっぴり不遇な近江くんのお話です。 *全編に渡りなんちゃってファンタジーなので、海より広〜い心でお読みくださると嬉しいです。 *主人公もチート持ちになる予定ですが、主人公がチート持ちになるまでには、大分時間がかかりそうです。 *ファンタジーカップ参加中です。 *更新は少なくとも週1-2。時間帯は夜の予定。終盤更新頻度は落ちますが、完結までは書き切ります。

えほんのおへや

高峰すず
絵本
季節に合わせた短いお話や詩を綴っています。【毎週 月曜日 & 木曜日 11:00更新】 ⭐️最新話「ぼーっとする じかん」☕️皆さんの11月に「ほっこり」がいっぱいありますように🍁🌰

私の味方は王子殿下とそのご家族だけでした。

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のコーデリア・アレイオンはミストマ・ストライド公爵から婚約破棄をされた。 婚約破棄はコーデリアの家族を失望させ、彼女は責められることになる。 「私はアレイオン家には必要のない存在……将来は修道院でしょうか」 「それならば、私の元へ来ないか?」 コーデリアは幼馴染の王子殿下シムルグ・フォスターに救われることになる。 彼女の味方は王家のみとなったが、その後ろ盾は半端ないほどに大きかった。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました

ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー! 初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。 ※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。 ※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。 ※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m

処理中です...