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2章
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しおりを挟む伝わっていない。
ルカの顔が、泣きそうにクシャリと歪んだ。
わかっていたが虚しさが込み上げる。
正臣はルカが男だと知ってから、恋心を失ったのは明らかだ。そしておそらくルカが示してきた好意も、親愛や友情と取られているのだろう。
正臣がルカに対して嫌悪せず、未だ同性への親愛程度とはいえ情を抱いてくれているというだけでも、感謝するべきだ。……何度も自分にそう言い聞かせてきた。
けれど、一度知った甘さをルカは忘れられなかった。
もう一度あの恋情を向けられたい。性別を知られる直前まで確かにあった想いを向けられたい。
穏やかに見守る素振りの正臣を見ていると、大それた望みだと思う。
男同士などありえないと言外に言われているも同然だ。ルカは男だ。見た目を女のように取り繕っていても、性別は変えようがない。男同士など普通は忌避される。
それを実感して、ルカは思わず怖じ気づいてしまって黙り込んでしまう。その上、その様子を心配した正臣から「どうした」と頭を撫でられてしまっては、その優しさが辛くて泣きそうになる。
見上げれば正臣が困ったように首をかしげていた。
胸がひとつはねた。
恋情はなくても、そこには以前と変わらぬ厚意がある。
ずっとルカの言葉を、そのまま受け止めてくれた人だ。さすがに嫌われると思ったことも、笑って、がんばったとルカの方を慰めてくれるような人だ。
不安が払拭されるような安心感と信頼がそこにあった。
正臣なら……と、理屈抜きでとっさにそう感じてしまったのは、必然だったのだろう。
困らせると分かっていた。でも、この気持ちを受け止めて欲しい。その感情に突き動かされて、ルカは縋った。
「あの、違うんだ……そうだけど、違うんです。私は、私は……」
けれど、衝動的に紡ぎ出した言葉は、どう伝えたら良いのか分からなくなり勢いを無くす。
「どうした?」
「私の好きは、その、もっと一緒にいたいということで、あなたの隣にいることを許されたいということで、あの、私は、その……」
正臣はじっと黙り込んだまま、まじまじとルカを観察するように見つめてくる。
「あの……」
正臣の顔が思ったより近くにあった。一気に顔が熱くなる。目を見るのが恥ずかしくなって下にそらせば、ルカがキスしたいと思っている唇が、そこにある。
ところでルカは十九の健全な男である。そして今は好きな相手と二人きりだ。更に今日は告白するためだけに呼んだわけではなかった。いっそのこと勢いで体を繋げてやることまで考えていたのである。タイミングさえうまく行けば襲ってしまうつもりだった。正臣のことだ、乗っかってしまえば邪険にできまいと。
いざとなると告白すら危うい状態で、とてもではないがそこまでこぎつけられる気はしない。しかし近すぎる正臣の距離に、忘れていた妄想が一気に駆け巡った。脳裏をよぎるのは何度も妄想しためくるめく愛欲の一幕である。
つまり、あらぬところに血が集中してしまった。
うわっ、バカ、なんでそこが反応するんだ!
むくりと起き上がった股間に気付いて、思わず、ルカはもじもじと腰を引いた。まだそんな状況ではない。
「……」
正臣の視線が股間を隠すように置いた手元に向けられる。
気付かれた。
ルカはいたたまれなさに目を背けた。
「……まさかとは思うが、やりたいのか?」
驚いたあと、クックと笑いながら顔をのぞき込まれる。
これは、からかわれている。
ごまかしたい感情と、もうここは言ってしまった方が早いのではと、せめぎ合う気持ちに混乱しつつ、勢いに任せて、ルカは少し涙のにじむ目で正臣を睨むように見上げた。
「し、したい、です。あなたと、交わりたい……」
正臣が、ぎょっと目を見開いた。
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