上 下
48 / 163
1章

48 3-16

しおりを挟む

 旅先で絡んでくる者達の意識を自分に集めるために、女装は有利だと気付いた。自分なら多少乱暴にされても振り払える力がある。対処する力もある。その辺りの一般の男程度なら隙を突けば三人程度ぐらい自分でなんとかできる。なんならいい気にさせてむしり取ってやれば良い。

 だから、胸を張ってルカは笑ってきた。似合うでしょ? かわいいでしょ? 慣れたから全然平気。自分の美しさを利用してやる。そう言って二人にも自分にも嘯いた。

 ルカのその考えに嘘はなかった。だから二人には楽しんでいると思っていてもらいたかった。気に病んで欲しくなかった。
 けれど、慣れない姿で下卑た感情を向けられるやるせなさは積もっていた。なぜ自分がと湧き上がってくる感情を、見ないフリをした。面白いゲームのようなものだと自分に言い聞かせるように笑った。

 なんということもない。こんな事、苦になるものか。
 自分がやらなければ、あの視線は二人に向けられるのだ。それに比べれば、楽なものだ。

 女であるということは優遇されることでもあった。同時に、それ以上の屈辱が存在し、尊厳を踏みにじられる可能性を常に孕んでいた。
 体験しなければ気付かなかった。真っ当な男の目の届かないところで、そういった卑劣さは発揮されるのだと知った。

 旅を始めて二人を守るために常に気が張っていた。女の姿はルカにとって戦闘服だった。可憐にかわいく美しく見せることに意味があった。美しくあらねばならなかった。嫌とか好きとか考える余地もない、ただの最善の選択だった。

 けれど、自分を偽るのは嫌だった。苦しかった。……つらかった。正臣に偽りを好かれていると感じだしてから、なおのこと嫌でたまらなくなった。
 その程度、たいしたことじゃない。全体の有益性を考えれば楽なものだ。理性ではそう思うのに、感情が削られているのを、頭の片隅で感じていた。
 正臣を騙していることが拍車をかけた。男として出会っていれば、こんなにも苦しまなくてすんだと思えて、苦しかった。

 そんなルカの気持ちを、わかってくれる人がいた。他の誰でもない、正臣が、わかってくれた。この偽る苦しさをわかってくれた。がんばっていたことを認めてもらえた。それだけのことが、どうしようもなく嬉しかった。嬉しくて、荷を下ろしたような安堵があった。

 ボロボロと涙が溢れて止まらない。軋む喉を必死に堪えるが、抱き寄せる正臣の手が気持ちよくて堪えられない。

 嬉しかった。……あなたの言葉が、嬉しかったんだ。

「う……っ、うぁ、あぁぁぁぁ……っ」

 堪えていた気持ちが決壊して泣き崩れたルカを正臣が更に強く抱きしめた。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

晴れの日は嫌い。

うさぎのカメラ
BL
有名名門進学校に通う美少年一年生笹倉 叶が初めて興味を持ったのは、三年生の『杉原 俊』先輩でした。 叶はトラウマを隠し持っているが、杉原先輩はどうやら知っている様子で。 お互いを利用した関係が始まる?

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...